第四話 不良とチビっ子
「………で? 決心はついたかな?」
「はい」
俺は署名した編入届を縦長帽子に見せる。
縦長帽子はそれを空欄がないか確認しているようだったが、すぐに顔をあげた。
「うん、大丈夫だよ。今日から君も、鷹政学園の一員さ! 僕の名前はマッド・ハッター。宜しくね」
縦長帽子と軽く握手を交わす。
「制服やら必要なものは、帰り際に渡すから待っといてね~」
そして俺は、その部屋から立ち去った。
どうやら、俺が帰るまでに少しだけ時間があるようだ。校内を見て回るか。
俺は校内を静かに見て回った。
どの教室も、変わったことは少しもなく、ごく普通の授業に、ごく普通の教科書を使っていた。
やっぱり、おかしかったのはあの先生達くらいか。
そう思っていた。
だがそれは、もうすぐで塗り替えられることとなった。
俺はグラウンドを覗いた。普通にバレーボールをしている様にしか見えなかったが、生徒がボールを打った瞬間、それは発火した。
俺も目を疑ったが、登坂やあの犯人、先生達のこともあったので、俺は即座に理解した。
「セカンドか………」
「その通ーり!」
後ろから突然声音が鳴り響き、俺は即座に後ろを振り返る。
それはマッド・ハッターだった。
「後から言うつもりだったんだけど、この学校は全員、セカンド所持者なんだ」
「つまり、それはどういう……」
俺がそう言うと、マッド・ハッターは答えた。
「この学校の全生徒は、瑠璃ちゃんみたいな超能力者ってこと」
俺はそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「凡人は俺だけってことですか?」
「いやいや、僕もそこら辺はサポートするし、学校では体育以外、力は使っちゃいけないというのがルールさ」
だが、何か可笑しい。
なぜこの学校の生徒は、全員セカンド所持者なのだろう。
偶然、の可能性は低い。そんなことが理由で全員超能力者なんてことがあるなら、他の学校にも一人くらいはいるものだろう。
つまり、集められた。と考えるのが妥当だ。だが何故………。
「気になるかい? 何故全員がセカンド所持者なのか」
俺の心を読むようにマッド・ハッターは言った。
「それは、彼らがまた起こるとされる《第三次世界対戦》に向けた、戦争用の兵器として集められたからさ!」
は? 戦争? 兵器?
「どういうことですか?」
「ある『予言』があったんだよ」
マッド・ハッターは、その『予言』について語り始めた。
「ある女性がいたんだ。彼女の名はアストラ。名字は明かされてない。
彼女はセカンド所持者で、『予知』の能力を持っててね。
百年以内に起こることを予知出来る。それが彼女の能力だった。
そして彼女が寿命を迎えかけた時、最後の予言をした。『世界でまた、争いが起こる。その名は、《第三次世界対戦》』そう言い残して亡くなっちゃったんだ。だから僕達は、その時までの準備をしている」
「それが登坂たち、鷹政学園の生徒ってことですか?」
「そういうこと」
「それって、その時が来たら死ぬかもしれないってことですよね?」
「そうなるね、でもその為に楽な暮らしさせてるんだしさ」
俺は怒りの余り、マッド・ハッターの襟首を掴んだ。
だが、俺の手が彼を掴むことはなかった。
代わりに、俺の手はマッド・ハッターを透け通っていた。
「………あんたもセカンド所持者か」
俺はそう理解した。
「……僕も出来ればそんなもの、起こしたくはないよ。だから僕も日々頑張ってるんだ」
「もういい、あんたとの話は飽きた」
俺はうんざりして、その場を去った。
きっと、怖いだろうな、戦争に行くのは。
俺は戦場で涙を流しながら戦う、登坂の姿を想像してしまう。
身の毛がよだつのを感じる。
本当に、恐ろしい想像をしてしまった。
そうしていると、俺は校舎裏にまで歩いていた。
そこでは、所謂虐めというのが行われていた。
一人の背の小さな女子を複数の男子が脅しているように見える。止めなければ。
俺は彼女の前に体を出す。
「「おい、女の子を虐めて楽しいか?」」
………ん?
俺は何か違和感を感じる。
今、誰かが全く同じことを言ったような……。
「あ、レオンだ! 逃げろ! 狩られるぞ!」
そう言って男子共は走り去ってしまった。
すぐ横を見ると、柄の悪そうなアクセサリーをつけ、目付きの悪い男がいた。
きっとこいつが、さっきの違和感の正体だろう。
すると、その男も俺に気付いたようだった。
「お前、見ねぇ奴だな。どのクラスだ?」
「いや、違うんだ。俺は今度から入る転入生なんだ」
「あぁ、そう」
男は興味もないようにそう言った。
なんだよ、お前から聞いた癖に。
さっきの女の子は、俺達の会話に火の粉を感じたのか、男の後ろに隠れた。
「なんだ、お前ら友達かよ」
「そうだよ、なんか文句あるか?」
男が喧嘩腰にそう言うと、女の子はやめてと言うように男の服を引っ張った。
男もそれに気づく。
「………あー、分かったよ」
男は手を俺との間に差し出す。
「俺が無害な奴に何か悪いことをしたときのルールだ。すまなかった」
男はばつが悪そうに首に手を置いた。
なんだ、悪いやつではないのか。
俺はその手を取った。
「あぁ、転入したら宜しくな。名前は?」
「俺は四篠 レオン。で、こっちのちっこいのは児童 ミヤビ……って痛てぇから」
女の子、ミヤビは「ちっこい」と言われたことを根に持ったのか、レオンを両腕で太鼓のように叩いていた。
「あはは、俺は橘 始だ。これから宜しく」
「あぁ、それじゃあな」
そう言って俺達は各々別の道で帰った。
少し気になったが、根は良い奴等で良かった。
「ねぇレオくん、友達作らないの?」
さっきまで全く話さなかったミヤビが口を開いた。
「あいつとか? 冗談じゃねぇ。お前だけで十分だ」
レオンはそう言ってミヤビの頭をわしゃわしゃと掻いた。
ミヤビは恥ずかしそうな顔をする。
「それに、どうせあいつも偽善者だろ」
その言葉を聞いて、ミヤビは悲しそうな顔をしていた。