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エデンのアプル  作者: 仮宮 カリヤ
二章 鷹政学園
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第三話 監視役

「いやー、君も災難だったよねー。突然腕切り裂かれてさ、大変だったよね?」


「校長、アールグレイティーが出来ました」


「ん、ありがとう」


縦長帽子はそう言って秘書のような人から紅茶を受け取り、啜る。



俺は何故か、椅子に縄で縛られており、全く動けない。

俺達三人がいる空間も、真っ暗闇の中で、どうしてかお互いのことは鮮明に見える。


「えっと、校長ですっけ? これ、誘拐じゃないですか?」


俺がそう言うと、縦長帽子は紅茶を突然現れた台に置き、こう言った。


「いやいや、この交渉で君が駄目って言うなら、僕は君を家に帰すよ。君がその分の慰謝料が欲しいなら渡すし」


「はぁ、で、その交渉とは?」


「君に鷹政学園への編入届を出して欲しいんだ」


俺は一瞬、何を言ってるのか分からなくなり、もう一度聞き直す。


「えっと、今なんと?」


「君に鷹政学園への編入届を出して欲しいんだ」


うん、今度はちゃんと聞き取れた。


つまり、俺は鷹政学園の関係者に誘拐されてて、その人達の目的は俺を鷹政学園に編入させることで、て頭痛くなってきた。


ていうか、なんでいきなり?


「どうして、俺なんですか?」


いつの間にか、俺はそう聞いてしまっていた。

縦長帽子は笑いを堪えながら言った。


「だって、君面白いもん!」


「………は?」


それだけのことで、入学許可を? 鷹政学園はどうなってるんだ? 世界屈指の名門じゃなかったのか?


「それと頼みたいことは、瑠璃ちゃんの監視くらいかな?」


「………どういうことですか?」


監視? どういうことだ? 何でそんなものが必要なんだ?

考えるなら考えるほど疑問が浮かび上がってくる。



縦長帽子はもう堪えられなくなったようで、腹を抱えて笑い出す。


「君なーんも知らなかったんだね! それであそこまで頑張るの? 腕切られてまで? あはは! 超おかしい!」


「校長、はしたないですよ」


そう言うと、縦長帽子はまた笑いを堪えた。


「すいません橘くん、これ以上は編入してからのお話しということで、宜しくお願いします」


そう秘書が頭を下げると、俺は椅子ごと急落下した。


「ちょ、ええぇぇええ!?」


俺がいなくなった後も、縦長帽子は笑いを堪えていた。


「彼、本当に面白いよ」


「えぇ、編入が楽しみですね」


そう言うと、縦長帽子と秘書はどこかへ消えてしまった。








俺は目を覚ますと、病院にいた。

隣では母さんが林檎を剥いていたが、俺が目を覚ましたことに気がつくと、すぐに俺を抱き締めた。


「ごめんね、お母さんが買い物なんかに行かせるから……私が自分で行けば良かったのに………」


「大丈夫だよ、母さん。仕方なかったんだよ」


俺は母さんに圧迫されながらも、剥かれた林檎の置いてある机に目が行った。

そこには、林檎と共に編入届が自然に置かれていた。


「………編入届、変な二人組が置いていって、あんたがそこへ入学出来るってことも聞いた。始はどうする気なの?」


俺は真剣に考えた。確かに、あの学園は謎で満ちている。きっと、俺が知れば消される事案なんてのもあるのかもしれない。

そういう所だと言うことは、あの人達と話して理解できた。



だが、それよりも登坂。あいつが心配だ。

何があってこっちへ来たのかは分からないが、約束したんだ。


『俺が、お前を助けて見せるよ』


俺が言った言葉を思い出し、母さんへ自分の思いを告げる。


「………行ってみたい」


「そう、じゃあ行ってきなさい」


母さんは俺の背中を強く叩いて抱き締めるのをやめた。


「その学校、寮生活らしいから暫く会えなくなるけど、一人でも頑張りなさいよ?」


「うん」


俺は綺麗な眼差しで答える。すると母さんも、安心したように病室を去ってしまった。

机の上には、いつの間にか編入届には母さんの名前が書かれていた。


「本当に、母さんは俺のこと分かってるんだなぁ」


俺が感傷に浸っていると、また病室の音が開く音がした。

母さんが忘れ物でもしたかと思い見るが、それは登坂だった。


「えっと、橘くん?」


「あっ! 登坂!」


俺は登坂に俺のベッド近くの椅子に座るよう指示する。

登坂は座ると、会話を始めた。


「橘くん、見舞いに来たよ」


「そうか、それはどうも。一つ食っていいぞ」


俺は机の上にあった林檎の置いてある皿から一つ取ると、登坂の方に皿を押してやった。

俺達は林檎をむしゃむしゃと噛じる。

俺は唐突に話題を切り出した。


「あの後、どうなった?」


「どうって、私がまた鷹政学園に通い直して、あの犯人は牢屋行きだよ」


「………お前、また通い始めたのか」


「うん、それが一番安全だって分からされたからね」


俺は内心、酷く驚いていた。これであの人達との話が見えて来た。多分俺が「監視」するのは、「登坂が襲われないように」か、「登坂が学園を出ないように」のどちらかなのだろう。



まず考えて、前者は有り得ない。圧倒的に他のセカンド持ちの方が俺より強いだろう。

じゃあ後者か。

俺は登坂に、あの人達との交渉の件であったことを全て話した。


「………そうなんだ、橘くんが………」


登坂は突然立ち上がり、俺の両肩を強く掴む。


「きっと、来ない方が君の身のためだよ」


「いやだ」


「なっ………!?」


登坂は驚いて手を離してしまった。

俺の意思は、それほどに固かった。


「鷹政学園に通えるなんて、早々あることじゃないし、それにほら、約束したろ?」


「え、約束って?」


「お前に包帯巻かれた時にさ」


そう言うと、登坂は怒ったのか顔を赤く染め出した。


「そんな約束知らない! もう勝手にして!」


登坂はそう言い放つと、病室のドアから出て凄い音をたててドアを閉めた。


「……あはは、少しキザだったかな?」


俺はその後、編入届に丁寧に署名した。

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