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エデンのアプル  作者: 仮宮 カリヤ
一章 登坂 瑠璃と黒いもの
2/6

第一話 夜の影

登坂 瑠璃、彼女は大人しい人だ。

まだ転校して一週間しか経っていないからか、誰とも過剰に話そうともしないし、自分から話しかけようともしない。



俺もわざわざ何も知らない奴と話そうとするほど陽気な人間でもないので、いまだに彼女とは一切話していない。



だが顔だけは可愛いので、男子からは「高嶺の花」等と呼ばれていた。


本当にそんな大層な器か?


「なぁ、登坂 瑠璃、どう思う?」


中野と帰路を辿っていると、中野がそう話題を切り出した。


「どうって……別に普通じゃないか?」


「いやいや、あの可愛さは校内一でしょ! お前は人を見る目がないなぁ」


「人を顔で区別してるお前に言われたくない」


俺の指摘を的を射ており、分が悪くなったのか中野は話題を無理矢理切り替えた。


「しかもさ、彼女あの鷹政学園から来たんだってさ!」


「へぇ、それは興味深いな」


鷹政学園、都内どころか、全国を越えて世界一の学歴を誇る高校。

しかし、その高校に「受験」という物は存在せず、学校からの推薦でしか入学出来ない。

少し可笑しな学校だが、誰もが夢見る高校だ。


「そこを転校って、親もよく許すよな」


「んー、そこがちょっと疑問かなー」


そうして歩いていると、もう俺の家の前まで来ていた。


「じゃあまた明日なー」


「おう! 風邪引くなよ?」


俺は中野に別れを告げ、家のドアを開いた。


「ただいまー」


俺は靴を脱ぎ散らかして、玄関から足を出す。

廊下を抜けると、母さんがキッチンで夕飯を作っていた。

母さんは俺に気付いたようで、素早く動かしていた手を止める。


「あら、おかえり。始」


有華(ゆか)。俺の母親だ。

うちの母親は他の家と比べても若々しく、ブロンドの長髪で、それが地毛だというのだから可笑しな話だ。ちなみにその遺伝子は俺に全く受け継がれていない。


「ちょっと悪いんだけど、買い物に行ってくれない?」


「いいけど……何を買うの?」


「人参にじゃがいも、あとは牛肉か豚肉、始が好きな方を買ってきなさい」


「ん? それって………」


母さんは俺に微笑みかけて言った。


「今日の夕飯はカレーよ」


カレー、それは俺の大好物だった。


「分かった! 急いで買ってくる!」


そう言って俺は家を飛び出した。





「ありがとうございましたー」


俺が自動ドアの前に立つと、自然と店員がそう言った。

俺は店を出た後で、自分の買った物を確認する。


「えぇと、人参じゃがいも、牛肉……よし」


俺は確認を済ませ、安心して家に帰ろうと足を踏み出す。


「はぁっ、はあっ、はぁっ」


そんな儚い微かな息が、足音と共に聞こえ出した。

俺は咄嗟にその方向を見る。すると、そこでは転校生の登坂 瑠璃が走っていた。

彼女はもう疲れきっている様子だった。


「だ、大丈夫か?」


俺は今にも倒れてしまいそうな登坂の肩を支える。

すると、登坂は目を見開いた。


「…! 君は確か……」


俺は何か悪寒を感じてしまう。すると、登坂の背後から何か黒い人のような物が現れ、登坂めがけて斧を振りかざそうとしていた。


「……! 登坂!」


俺は登坂を突き飛ばす。

すると、代わりに俺の腕が切り裂かれる。


()っ!」


俺は地面に倒れ込んでしまう。


「橘くんっ!」


「あっ、ああああぁぁぁあああ!!」


俺はその今まで感じた事がないほどの痛みに、もがき苦しんだ。

だが、さっきの黒い何かはまた登坂の方へ向かっている。

俺は酷い痛みの中、必死に登坂に告げる。


「登坂、逃げろ! 助けを求めるんだ! あの店の中まで走れ!」


すると彼女は、黒いものが近づいていることに気付き、一目散に店の中に逃げ込む。



彼女が店の中に入るのを必死で止めようとした黒いものだったが、店から差し込む光に黒いものは影の中に溶けていってしまった。


「なんだよ、こいつら。影の中しか、動けないのか……?」


俺は腕の傷を押さえながらなんとか店の中に入る。

店員たちは何が起きていたのか分からないという様子だった。

俺は怯えている登坂のもとにまで行く。



そこまで、本当にやっとの思いだった。

腕も軽く感じたし、目眩だってした。足も重くなっていた。

だが何故か、俺は登坂のもとにまで行った。

登坂は俺の姿を見て、何とも言えないようだった。



俺はもう力を失い、その場に倒れ込む。もう立つことさえ、足が震えて無理そうだった。



すると、登坂が俺のそんな姿を悲しく思ったのか、包帯を巻いてくれた。その目には、少しばかりの涙も見えた。


「……ごめんなさい。橘くん」


「なんで登坂が謝るんだよ? なんかしたのか?」


「するわけない。私が、なんでこんなこと……」


もうその目には、もう涙が堪えきれずに零れ落ちていた。

俺はその目に、嘘を感じなかった。


「よーし」


俺は立ち上がった。

少し傷口が開きかけ、俺の神経に訴えかける。


「痛てぇ……」


「駄目だよ! 動いたら傷口が……」


「俺が……」


「………?」


「俺が、助けて見せるよ」


その姿に安心したのか、登坂も俺に少しばかりの笑顔を見せた。

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