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エデンのアプル  作者: 仮宮 カリヤ
一章 登坂 瑠璃と黒いもの
1/6

プロローグ

西暦2019年、5月14日。


人の少ない桜並木を、私は鞄を持って孤独に歩く。

視界一面には桜の花が桃色に咲き誇り、地面には桜の花びらが大量にばら蒔かれ、桃色の雪が降り注ぐ。

一言で言ってしまうと、綺麗。これに尽きるだろう。


「綺麗………」


目の前に赤く光る横断信号が目に入り、足を止める。

隣ではサッカーボールを持った男の子が母親と共に信号を待っていた。

私は体の三分の一程の大きさのボールを必死に持っている男の子が可愛らしく思えてしまう。


可愛いなぁ。幼稚園児くらいかな?


私が信号に視線を戻すと、男の子の腕からボールが落ちてしまう。

母親は止めようとするが、男の子はそれを追い掛ける。

私は危機感を感じ、道路では、トラックが男の子の方へ進行している。

しかも、速い。

時速百km位は出ているだろう。完全に法則違反だろうな。


「かずやああぁぁぁあ!!」


母親が断末魔のような叫びをあげる。

くっ、本来は使わない予定だったのに、仕方ない。

私は手を車の方へかざす。


「《アフロディーテ》」


すると、車は一瞬にして止まってしまった。

中の運転手は、突然の衝撃と自分を圧迫するエアバッグによって飛び起きた。

どうやら居眠り運転のようだ。朝から太刀が悪い。



男の子は何が起きたか分からないみたいにきょとんとしていた。

母親は男の子に駆け寄り、抱き締める。



それと同時に、横断歩道の光も青色へと変わる。

私は、その家族を赤の他人のようにして素っ気なくその場を去る。だが、母親はそれでも私に声をかけた。


「あなた、お名前は?」


うっ、知らないふりをするはずだったのに………。


「……登坂 瑠璃(とうさか るり)。高校生です」


私はそう言って、桜が降り注ぐ大通りを歩いていった。







俺は教室の扉を少し勢い付けて開ける。

するとすぐに目に入ったのが、俺の友達の中野 才蔵だった。


「よぉ、今日もエンジョイしてるか?」


「お前はいつでもエンジョイしてそうだな」


俺は自分の机に向かい、鞄を置いた。


「いやぁ、お前もしてるだろ?『入学一ヶ月目にして告白されたリア充男子』君?」


「お前、盗み見してたのか?」



俺は鞄の荷物を全て引き出しの中に入れると、既に中野が俺のところへ来ていた。

俺が中野を睨み付けると、中野は俺は宥めた。



「しかも降っちゃうんだからねぇ、やっぱ格が違いますな!」


「だってまだ入学一ヶ月目だぞ? しかも違う中学だから顔すら知らないのに……」


俺は椅子に座って腕を組み、まだ来ていない彼女の席に視線を移す。


「そんなの顔だろ? 世の中顔だぞ顔! しかも結構可愛かったし、好条件だったんじゃ?」


「いやいや、腹黒女子とか無理だから。しかもあいつ、俺を「優しい」だの言っときながら、顔で告白してきてたからな?」


そう言うと、中野は何か納得いかないみたいに首を傾げた。


「ん? 顔で告白してきた? お前、なんでそんなこと知ってんだ? そいつに聞いたのか?」


………あれ?

そう言えば、何でだ?


「よく、分からないや」


この現象は俺が幼い頃からあったことだ。


俺は橘 始(たちばな はじめ)。高校一年生だ。

昔から親が隠したゲームの場所を探し当てたり、友達とのゲームで何回やっても勝って、遂には『ゲーム神』と小、中学校で言われ続けたくらいだ。

そのせいでゲームを俺の前でする者はいなくなってしまった。

俺もゲームしたいよぉ。


「まぁ、お前は昔からそうだよな! ゲームにハブられがちだったし」


俺は悲しくなり、机に顔を埋めた。

すると、小学校からの付き合いでその事を知っている中野は場の雰囲気を変えようとしたのか、話題を変えた。


「今日な、転校生が来るらしいんだよ!」


「転校生?」


「そうだよ、運命感じないか?」


「何のだよ」


「まぁ、俺の運命の相手かな?」


「絵空事を抜かすな、ボケ」


「冗談なのに、当り強いな」


そう話していると、スピーカーからチャイムが鳴り響いた。

中野は急いでもとの席へ戻る。


クラス全員が席を埋め、転校生用の机だけが残された頃、先生が教室に入ってきた。


「今日は皆さんに転校生を紹介します。入ってください」


先生の合図で、それはドアを開ける。

教室に入ってきたそれは、少し紫がかった長い髪をした、綺麗な顔立ちの女の子だった。


「この子でーす! 名前を書いてください!」


「はい」


女の子は自分の名前を黒板に書くと、俺たちの方へ体を戻した。

そこに書かれていたのは、『登坂 瑠璃(とうさか るり)』。


「登坂 瑠璃と言います。宜しくお願いします」


そう言って彼女は、ペコリと頭を下げた。

辺りからは拍手が巻き起こる。彼女は先生の指示で、空いていた席に腰を沈める。



なんだかその風貌からは、何か他の人とは違う何かを俺に感じさせた。

これが俺と、瑠璃の最初の出会いだった。

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