成長
エディナと合流し、メーテルの立ち会いのもと手合わせを願う。
「いくよ、私も大分使えるようになったんだから。」
ディクセリアを展開すると、4つしか出ていなかった水晶体が10以上浮遊する。
「えっ、そんなに出せるの?」
「調子にもよるけど、13から15くらい出せるよ。さぁ、かかってきなさい!」
自信満々に手招きをするエディナに、木刀で挑む。ガイアやメーテルとの修行のおかげか、ディクセリアのスピードには難なくついていける。しかし、何度か打ち込んでみたが完璧に守られてしまう。
「ダメか。まぁ、ゆっくり攻略させてもらうぜ。」
「それはどうかな?」
2つの水晶体が光ると緋色の光線が飛んでくる。間一髪で避けるが、後ろにあった水晶体で跳ね返りそのうちの1本が脇腹に直撃した。熱した鉄パイプで殴られたような衝撃とヒリヒリとした痛みが走る。
「うっ、攻撃できるのかよ。」
「大丈夫大丈夫。手加減するから!」
次は3つの水晶体が光る。足を動かし、跳ね返る光線を避けながらエディナに木刀を振り下ろす。しかし、常に3つ以上の水晶体が守っており、まったく本体には当てられない。
「ファウルス、力みすぎよ!力抜いて、集中しなさい!」
「わぁってるよ!」
木刀を構え直し、一息入れる。次々に飛んでくる光線がスローに見えた。それを避けながら普段通りに剣を振り抜いた。寸でのところで防がれたものの先ほどより、剣先が体に近い。一度体勢を立て直し、自分がイメージ通りに動けているか確認しながら、打ち続ける。エディナの攻撃も激しさを増す。8本の光線を避けながら、間合いを詰める。
「そこっ!」
気づいた時には前しか逃げ場がない状況だった。エディナは正面に15個の水晶体を集め、一斉に光線を放つ。
「クソッ!どうせ一本くらい当たっても大丈夫だろうが!」
右にステップを踏み、足と肩に光線が直撃する。痛みに顔をしかめるがそのまま一気に駆け寄り、振り抜いた。鈍い音と、ジーンとした感触が腕に伝わる。
「うぅ……、痛い!」
エディナはお腹に木刀が直撃し、その場にうずくまる。
「ご、ごめん!大丈夫か?」
「そこまでっ!ファウルスの勝ちだね。」
「えへへ、大丈夫だよ。強くなってる……ね。」
ドサリと倒れたエディナを後からやってきたシオンがつれていく。
「はぁ……、アンタさぁ、戦場なら手加減する必要はないけど、手合わせくらい手加減しなよ。」
「いや、夢中だったからさ。それにそんな力入れてなかったんだけどな。」
「あれだけのメニューこなしてるやつなら軽く振っても、女の子一人くらい吹っ飛ぶよ。」
「そうか、わりぃ。後で謝っと……。」
「今すぐ行け!」
「はい!」
エディナは肋骨が折れていたようでゴウラが手当てをしていた。
「おぉ、ずいぶん手荒な歓迎じゃな。この子もかわいそうに。」
「ごめん。」
「まぁ、わしは医療の心得もあるけん、これくらいの手当てなら任せとけ。この子には、ファウルスが謝っておったと伝えとくわい。」
外に出るとギアが待っていた。
「よっ。」
「ギアか、どうした?」
「いや、女の子怪我させちゃったんだって?ひどいなぁ。」
「うるせぇよ。ちょっと軽く振ったらこんなことになるとは思ってなかっただけだ。」
「まっ、そうなるよね。ファウルスはさ、自分が人より能力高いとか感じたことないわけ?」
「少し丈夫なくらいだと考えてはいるけどな。」
「ふーん。この際だからはっきり言おう。君の力は異常だ。身体能力がただ高いだけじゃない、ちょっとごめんよ。」
ギアは持っていたナイフで俺の腕を軽く切った。
「痛っ。何すんだよ。」
「ごめんっていったじゃん。まぁ、見てなって。」
同じようにギアは自分の腕を切る。10分程経ったとき、ファウルスの傷はほぼ塞がっていたが、ギアはまだ塞がっておらず、引っ張れば開く状態だった。
「ほらな、傷の治りも早い。他に何か思い当たる変わったことはないのか?」
「変わったこと?」
記憶をたどり、村を出る前、レイヴァンと戦った時のことを思い出す。
「あぁ、そういえばレイヴァンと戦った時に目に違和感があってな。」
「は?レイヴァンってあのレイヴァン将軍?」
「多分、そのレイヴァン将軍。ネルス帝国の。」
「ははは、マジか。やるなぁ。まぁ、レイヴァンってーと、将軍の中では一番弱いって言うしな。」
「えっ?一番弱い?」
「あぁ、何でも王様がいたく気に入ってるんだとよ。そんなことより、目だと?」
ギアの目つきが変わる。
「おい、ちょっと見せてみろ。」
ぐいっと頭をつかまれると俺の目をじっくり観察した。
「……ふーん。アイツとは違うのか。少し疑っちまったぜ。んなわけないか。」
「アイツって、……死神?」
「……あぁ。アイツは許さねぇ。俺の……いや、まぁ、自分のことくらいしっかり把握しとけよ。じゃあな。あっ、そこの綺麗なお姉さんっ。今、ヒマ?俺と一緒に……。」
ギアは一瞬、悲しげな顔を見せたがすぐに街へとくり出していった。
「俺の……力か。」