少女(?)
「さて、急いで戻らなきゃな。」
広い草原を馬で進む。半分以上来たかというときには完全に陽が昇りきっていた。気が付けば、馬の蹄の音に混じって何かが駆ける音が聞こえる。
「ん?……そういえば獣が出るとかなんとか言ってたな。」
見ると狼の群れがこちらに向かってくる。馬を留め、剣を構えた。
「さてと、今度は本物か。数は5……いや、6か。」
先頭の1匹が牙をむき、飛び掛かる。それを、薙ぎ払うと後ろの狼は馬へ向かった。
「逃がすかよ!」
わずか1分もたたずに追い払うと水を飲みながら休憩する。
「……ごくっ、はぁー。ユエルのおかげかな。さて、この調子なら夕方には着きそうだな。そろそろ……。」
何頭もの馬の足音が聞こえる。それに乗った男たちの見た目から賊であるとうかがえる。
「またかよ。次から次へと面倒だな。」
「おいガキ!金目の物と食い物を置いていけ!そうすれば命だけは助けてやるよ。」
「はぁ、悪いが金目の物は持ってないしあるのは水だけだ。それも今飲んじまった。置いていくものがないんじゃあ仕方ないよな。通らせてもらうぜ。」
「こいつ馬鹿か。じゃあ、お前をさらって街にでも売ってやるよ。」
男たちはフレイル等の鈍器や剣を構える。馬に乗ったまま襲ってくるがそれをかわし、剣で突き刺す。
「ぐわぁ……。」
「おい、テッドがやられたぞ。こいつを殺せ。」
次々に襲い掛かる攻撃を剣で防ぎながら、一人ひとり確実に戦力を削いでいった。
「クソッ、ただのガキじゃねぇのかよ!撤収だ、撤収ー!覚えてやがれ!」
男たちは捨て台詞を吐きながら引き返していった。
「いちいち覚えてられるかよ。余計な時間食っちまったぜ。」
ヨシュア街に着いた時には日が暮れていた。近くの宿屋で一泊し、カイナに言われたとおりセレンという人物を探す。
「ありがと、おかげでゆっくり休めたよ。ところで、セレンっていう、小さくて槍を背負った子って知ってますか?」
「ええと、もっと西の方じゃないかしら。こっちに来てごらん。」
宿の奥さんは壁に立てかけた街の地図を指さす。ヨシュア街はヨシュア城を中心として、東西南北に地区が分かれていた。俺の居る場所は、イースト地区でセレンは西のウエスト地区ではないかとのこと。礼を言い、ウエスト地区へ向かった。入ってすぐの八百屋で情報を求める。
「はい、いらっしゃい。何が欲しいんだい?」
「あー、じゃあこのトマトをもらうよ。」
「あいよ、12ベイㇽね。」
「はいっ。……あっ、セレンって子知ってますか?槍を背負った小さい子みたいなんですけど。」
「あぁ、セレンちゃんね。さっき買い物にも来たよ。その子なら、次は鍛冶屋に行くって言ってたね。」
「ありがと!」
鍛冶屋の場所を聞き、急いで向かう。
「なんじゃ、わしに何か用か?」
「セレンちゃんっていう、槍を持った小さな女の子来てませんか?」
「ん……?あぁ、いや、来とらんぞ。それなら、パン屋じゃないかの。」
次はパン屋の場所を聞き、向かう。
「すみません、セレンちゃんっていう、槍を持った小さな女の子来てませんか?」
「えっ……?あぁ、うちには着てないよ。向こうの外れにある馬小屋に行ってみたら?よくそこで見かけるよ。」
教えられた馬小屋へ向かうが、近くには誰もいない。
「おい、どこにいるんだよ!全然、居ねぇじゃねぇか!」
近くを通りかかった女の人に尋ねる。
「すみません、セレンちゃんっていう、槍を持った小さな女の子知りませんか?」
「えっ……?あぁ、セレンならあそこに……。」
俺の後ろを指さし、振り返るとこちらに走ってくる子どもがいた。背中には槍の柄のようなものが二本ある。
「あいつか。ったく、さんざ……。」
「て、め、え、かー!俺のことを街中、女呼ばわりしてるやつは!」
槍を一本抜くと高く跳び上がり襲い掛かってくる。
「おいっ!ちょっと待て!男かよ!八百屋のおばちゃんがセレンちゃんって言ってたから、女かと……。」
「知るかー!」
素早い突きがきたのを剣でいなす。
「ん?そういうことか、なら本気で行くぜ。」
セレンは素早く跳び下がり、馬小屋に昇るとこちらに向かって跳躍した。
「ほとばしれ、ナルギア!」
次の瞬間、バチンという炸裂音とともに雷が走る。
「嘘だろ!待てよ、こら!」
紙一重で雷を避ける。突きがくるが、電気を纏った槍の攻撃は剣で防ぐと感電し一瞬、手が動かなくなった。
「終わりだ!」
「はぁ、……やめなさい。」
強烈な風がセレンを吹き飛ばし、馬小屋に叩き込んだ。女の人はさっきまで持っていなかった本を手に持ち、髪の毛を整えていた。
「ごめんなさいね。あの子、あんな見た目でしょ?子どもや女に見られるのが嫌いなのよ。私はメーテル。貴方は?」
「ファウルス……です。ありがとうございました。」
「なるほど、隊長の言ってた子ね。セレンが課題なんて、意地悪することもあるのね。」
「えっ?」
「ようこそ、クリナ公国14番隊へ。」