邁進
「オラァ!」
「へへーん、当たらないよー。」
「そこですわ!」
朝食後、昨日の湖のほとりで、エディナとユエルの二人と組み手を始めた。万が一の時に備え、俺は木刀を使いながら、エディナはディクセリア、ユエルはリルアート、それぞれの神器を使って相手をする。神器に目覚めたエディナの守りは堅く、一度も触れることはできない。その隙をついて、ユエルはサッと嘴の鋭い鳥や狼の群れを描くと、一斉に襲い掛かってくる。
「おいおいおい、マジかよ。」
鳥の群れを叩き落とし、狼の群れを薙ぎ払う。
「やりますわね。これならどうかしら?」
ファウルスそっくりの絵を描くと筆の合図とともに襲い掛かってくる。
「へっ、誰が自分のコピーに負けるかよ。」
「剣の部分は強度を上げてますので木刀では消えませんわよ。胴体に当てれば、勝ちですわ。」
「なら、簡単だな。……よっ、と。」
剣をうまくいなすと思い切り胴体に叩き込んだ。
ベキッ!
「なっ!?」
ディクセリアで防がれた木刀は折れて、先端がエディナに向かって飛んでいった。
「あっ、エディナ!」
何事もないようにディクセリアで防ぎ、一安心したところで頭にコツンと剣の先が当たった。
「ふふ、私たちの勝ちですわ。」
「くそっ、あの守りをなんとかしないとダメか。」
「どう?私も強くなったでしょ!」
「あぁ。でもよく飛んでった破片に反応できたな。」
「いや……、あれは気づかなかったよ。どうも私自身は自動的に守られるみたいなんだよね……。あはは。」
「じゃあ、安心か。でも、それじゃあ、勝てないな……。」
「いいえ、その水晶体も4つまでしか出せないのでしょう?同時に防げる面積は限りがありますわよ。」
「そうか、同時攻撃には弱いのか。ユエルの弱点も見つけないとな。」
その後も休憩を挟みながら、その日は一日中付き合ってもらった。次の日も、同じように相手をしてもらう。
「ほらよっ!」
小石をいくつもエディナに投げつける。それらを4つの水晶体で防ぐのを確認した後、軽く頭を叩いた。
「あとはユエルか……。」
ユエルはいくつもの獣を描く。
「さぁ、行きなさい。」
後退しながら一体ずつ確実に消していく。しかし、徐々に追いつめられる。
「くそ、あっ……。」
石につまずき尻もちをついた。
「やべっ。」
襲い掛かってきた獣は目の前で液状化し、消えた。
「あれ?消した?触れられるまでがルールだったはずだけど……。」
落ち着いて考え始める。
「そういえばユエルはあの場所から動いてないな。この距離……エディナに神具を使わせた時と同じくらいか。もしかして、能力を使ってるときは動けないのか?あと、距離も20メートルくらいか。」
起き上がり、少し後ろに下がる。描かれた獣は襲ってこない。
「私から逃げてばかりじゃ、勝てませんわよ!」
「ユエルこそそんなとこでじっとしてないでかかってきなよ!」
「ふふ、私が動けないとでも思いまして?」
書いた獣が一斉に消えると大きな巨人を描いた。ユエルは巨人の肩に乗り、迫ってくる。
「そんなのありかよ!」
巨人の拳が振り下ろされる度に風圧で草や土が舞う。威力凄そう威力はであるが体が大きい分、動きが鈍い。巨人の体に手をかけ、一気に登る。
「残念ね。」
スタンバイされていた氷柱が落ちてくる。
「ちょっ……!」
木刀で防ぐも何本かは体をかすめる。
「っ!……負けるかよ。」
「あら、よく耐えましたわね。私の負けでいいですよ。」
「えっ?……っておい!消す……。」
そう言うと巨人は消え、ユエルはスタッと着地する。俺は、受け身も取れずに落下した。
「……お前なぁ、消すときは消すって言えよ。」
「ふふ、悔しかったものですから。」
「すごいね。まさか防いじゃうなんて。」
「いい訓練になるよ。……俺は明日、ヨシュアへ戻ろうと思う。今までありがとな、ユエル。」
「ええ、二人のコントが見れなくなるのは残念ですが、こちらこそありがとう。」
「私は残るよ。ユエルにもっと教えてもらって強くなる。自分で満足したら合流するね。」
「わかった。じゃあ、ユエル、こいつのこと頼むよ。」
「はいはい、わかりましたわ。気を付けてね。」
夕食を済ませ、早く眠りに着いた。次の日、陽も昇らぬうちにそっと家を抜け出す。
「……気を付けてね。」
エディナが目をこすりながら手を振る。
「……あぁ。行ってくるよ。」