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世間は狭い

 あれから三日が経ち、脳震盪の症状は無くなって、すっかり治った。


 携帯を触っていないから、もしかしたらスミレさんは怒っているかもしれない。


 退院したらメールを送らなければ、と思いながら母親の前に立つ。


 今二人がいるのは病院の出入り口だ。

「お世話になりました」

「気を付けて帰ってくださいね」

「はい」


 母親にお辞儀をして、帰るために振り返り歩き出す。


 すると、どこからか走るような足音と怒鳴り声に近い叫び声が聞こえてきた。


「紫苑ちゃん!!」

「へ?」


 右から何かがぶつかってきて、紫苑は倒れそうになる。


 ふと、柔らかい香水の匂いに包まれて、紫苑は倒れずに済んだ。


「あなた、紫苑に何をするのですか?」


 左から支えていたのは、紫苑の母親だった。


 右に目を向ければ、抱き着いてきたのは菊だった。


「菊! え、なんで?」

「お母さんが紫苑ちゃんから音沙汰がないって聞いて、心配してたんだよ!」

「あ……ごめんね、菊」

「ううん。よかった。紫苑ちゃんが無事でよかったぁ……」


 紫苑に抱き着いたまま泣き出す菊に、紫苑の母親は顔色を変えた。


「あれ、菊ちゃんじゃないですか」

「ふぇ……?」


 母親はハンカチを取り出すと、菊の涙をやさしく拭っていく。


「あ……アザミさん! ……あれ? なんでアザミさんと紫苑ちゃんが一緒にいるの?」


 菊がいまだ涙をぽろぽろとこぼしながら、首をかしげる。

「あー……黒月アザミ。それがお母さんの名前だよ」

「アザミさんが、紫苑ちゃんのお母さん!?」

「もしかして、紫苑。お友達って……」


 どこか疑っているような声でアザミが聞いてくる。


「菊、だね。……世間って狭いなぁ……」


 思わず遠い目をした紫苑の視界に、遠くから走ってくる女の人が見えた。


 菊の母親であるスミレだ。


「菊!」

「あ、お母さん」


 早歩きで近づいてきたスミレに、菊とアザミが紫苑から離れる。


「アザミさん、お久しぶりです」

「お久しぶりですね、スミレさん。最近は菊ちゃんの月一の検診でしか会っていないですからね」


 それから始まった母親同士の会話に、紫苑と菊は二人から距離をとった。


「それにしても、どうしたの? 紫苑ちゃんが病院にいるなんて」

「それがね、家で脳震盪起こして救急車で担ぎ込まれたらしくて」

「え!? 大丈夫なの!?」

「うん。今日で退院だったから。……あ、でもさっきので倒れてたら、また入院だったかもね」


 スッと顔が蒼くなった菊を見て、少し脅しすぎたかな、と反省をする。


 仕方なく、話題を変えることにした。


「それで? 菊は月一の検診とやらに来たの?」

「あ、うん。もしかしたら知らないうちに病気になってるかもって言ってたから」

「そっか。……終わるまで待っといたほうがいいかな?」

「だいぶ遅くなっちゃうから待つのは止めといたほうがいいんじゃないかな」

「それもそうか。隣の人に育ててもらっているマツバボタンも回収しなきゃいけないし、うわぁ、やること多いな……」


 暗い顔をしてため息をついた紫苑の周りをワタワタとしながら移動する。


「ほ、ほら! 二十九日遊ぶでしょ!? だから、それまでに終わらせとかないと、大変じゃないかな!?」

「それもそうだね。仕方ない、頑張るか」

「うん!」


 紫苑がそういうと、スミレが菊を呼びわかれることになった。


「じゃあ、またね」

「またねー」


 紫苑とスミレが病院に入っていくのを見ると、紫苑は家に帰るために歩き出した。


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