錬金術師は銃と出会う
光が晴れるとそこには揺らめく光が幕のように張った門があった。
どうやら先程の天秤は俺の思惑通り動いたらしい。
先程まで苗があった所には大きな光る大樹が存在していた。
大樹側の天秤の皿は地中深く沈み、この門が乗った皿が上がってきたといった感じだろう。
「これ、さわって大丈夫か?」
恐る恐る光の幕に手を近づける。
すると、揺らめく光が近づくたびにほんのり温かさを感じた。
どうやら発熱しているらしい。
「別に痛くはないな。それに熱いというより暖かい程度だ」
いつまでもこうしていてもらちが明かない。
意を決して右手を光の幕に勢いよく突っ込んだ。
するとどういうことか。
中に入った右手に幕を突き抜けた感覚はなく、まるでぬるま湯にでもつけたかのような温かい何かに包み込まれているようだった。
門の端によって確認してみるが、手はやはり貫通しておらず、反対側から見ても自分の手は出てこない。
「もしかしてどこかにつながってるのか?流石異世界、としか言いようがないな……」
今まで世知辛いことばかり起こっていたせいでなんだか自分が物語の主人公のように異世界に転移してきたという実感があまりなかったが、ここに来てようやくそれっぽいイベントが起こっている気がする。
「ワイバーンの時は異世界成分満天で驚いたけど、驚きすぎて異世界どうこう考えている場合じゃなかったからな」
そんなことを考えながらもゆっくりと光の幕の中に体を入れていく。
右腕から右ひじ、右肩。
ここまで来て特に異常なしだ。
そこから一気に左半身まで光に飛び込む。
目を瞑って中に入ると、全身が温かさに包まれたような感覚があった。
そこまで来てようやく気が付いた。
ん?これもしかしてポーションの一種か?
何の根拠もないほぼ直感だけの発想だったが、なぜかこの幕がポーションの効果、またはポーションそのものであるような気がした。
これももしかしたら錬金術師の能力の一つなのかもしれない。
そんなことを思いながらも現状を思い出す。
よくよく考えたら早く目を開けないと何か危険があったときに対処できない。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、瞳を開いていく。
そして最初に視界に入ったのは、小さな箱だった。
真っ白な空間の中にただ一つの大きな箱が目の前に置かれている。
ガラスのようなプラスチックのような透明なその箱の中には、謎の液体が満たされており、液体の中で何かが沈んでいる。
「こ、これは、まさか――」
底に沈んでいたものは、明らかにこの異世界にそぐわない現代技術の結晶。
「銃、か?」
中身をじっくりと覗いてみるが、色々な種類があるようだった。
「M4A1カービン、AK-47、SIG SG550……まだあるな。いったいこれだけの種類どうやって――いや、そもそもどうして銃火器なんだ?もっとこう、魔法的なものとか無いんだろうか」
そんなことを思いつつも今度はそれらが浮かんでいる液体の方に着目する。
薄黄緑色の液体がこの大きな箱全体を満たしている。
これだけの体積をすべてとなるとかなりの量だ。
そっと触れてみるが、指先に特に異常はない。
ただ普通の水のように指が撫でた部分を中心に波紋が広がるばかりだ。
その瞬間頭の中にふと閃くような感覚が走った。
「ん?これもポーションか」
先程の光る幕の時と同じような不意に感じる閃き。
やはりこれは錬金術師の能力なんだろう。
「それにしてもポーションだと判明する基準がわからんな。触ることか?だが、それなら幕の時はもっと早くわかってもよかったはずだが……。まあ、このことは追々調べよう」
そして再度箱、というよりここまで来ると水槽にしか見えないそれの中身を覗く。
すると、一冊の本に目がいった。
ポーションの中にゆったりと浮かぶその本を手に取ると、ポーションの外に出た瞬間あっという間に乾ききってしまった。
驚きながらもその本の表紙を見る。
小洒落た表紙だとは思うが、特に題名のようなものは書いていない。
まるで新品のようなその本のページをゆっくりと開き、中を読み始めた。