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転生錬金術師は新たなる地に立つ

「はッ、はッ、はぁッ!」



ジリジリと照り付ける日光に身を焼かれながら質素な防具で荒野をひた走る。

もう何時間もこうしている。体力が切れて胸が苦しくなって来た。

限界が近づくにつれて足がもつれ始める。



「クソッ!もうラストの一本だ!」



常に携帯している体力回復ポーションのランクCを胸元のポケットから取り出し、ふたを開けると一気に口の中に流し込む。

薄黄色くて苦い液体が体に入ったことを認識した瞬間瞬時に疲労が吹き飛んだ。

全身に活力が戻り、すでにふらふらだった足取りも元の力のあるものへと戻る。

足の親指の母指球に力を込めて地面を蹴ると、景色は線となって流れていく。

一蹴りで先程までいた場所から一気に離れた。

それとコンマ数秒の差で背後で俺が先程まで居た場所に向かって炎が吹き付けられる。

炎は地面をなめるように這って空中に散っていった。

そして炎を吐いた主の大きな影が地面に伸びる。

その影の上を飛ぶ巨大な生物の正体は――――――




―――真っ赤な鱗と羽が特徴的な異世界生物、『ワイバーン』だった。



「なんで俺がこんな目にっ……!!」



あからさまな死に直面し、自然と口から思考が漏れる。



「どうして俺はこんなことになってんだぁっ!!!!!!」





その瞬間、自身の中で思考が一つになったのが分かった。



あっ――俺、死んだ。



それと同時に景色は先程までいた交差点から一変し、深い青に包まれた空間に立っていた。

ついさっきまで目の前にあったトラックも、悪ふざけで俺を押した同級生の姿もない。

視界には白い露出の多い服を着た頭の悪そうな女一人だ。



「おお?おお~!天草氷雨(あまくさひさめ)さんですね?いらっしゃいませぇ~!ようこそ、私のお部屋へ~」



女が甘ったるい間の抜けた声でしゃべりだす。

どういうことだ?私の部屋?部屋ってなんだ?

周りは壁のないひたすらな青、いや、深海色と言ったらいいのだろうか。

周囲を見渡しても現状は全くと言っていいほどわからない。

ただ一つわかっていること、それは―――



「俺、死んだ?」

「はい~そのとおりですぅ。」



女はあっさりと死を認める。

しかし、ならば尚更わからない。



「ここはあの世なのか?」

「いえいえぇ、ですからぁ~、私のお部屋ですってばぁ」



要領を得ない女のしゃべり方と理解できない現状に段々といら立ちが募る。



「だから、あんたの部屋ってどういうことだよ!」

「あぁ~、そういえば説明まだでしたねぇ~」



俺のストレスなど意に介さないように軽く流し、その場で手のひらを持ち上げる。

胸の高さまで手を持ち上げ、手のひらを俺に見せるようにだした。

すると光と共に女の手のひらの中にカードの山札のようなものが現れる。



「では、説明を始めさせていただきますね」



女の声が先程までの耳が蕩けそうな甘い声から凛とした覇気の纏った声へと変わる。



「まず、貴方は死にました。これはあなた自身が一番よくわかっていると思います」



確かに、俺はあの場で死んだ。

同じクラスの男子生徒、名前は覚えてないがあいつの悪ふざけで俺は背中を強く押された。

そしてその衝撃で足をもつれさせたまま車道に飛び出し、というか吹っ飛びそこを運悪く通った大型トラックにはねられた。

我ながら意味のない人生だった。

何もなさない、何かを目指しもしない、くだらない人生だ。

俺の体はどこかのゲームのキャラクターのごとく放物線を描いて地面と激突。

事故死体には詳しくないが、あの勢いでぶつかったのだから死体の臓器もドナーには使えないのではないだろうか。

本当に、誰の役にも立たない人生だった。

誰からも必要とされない、つまらない人生だった。



「もし、貴方の欲しいモノが得られますよ。と言われたらどうしますか?」



自分の心の中をまさぐられるような気色の悪い感覚から悪寒が生じる。

謎の悍ましさが全身を駆け巡った。

なんだ、何が起こった。

目の前の女の表情は最初に見た時と変わらず笑顔だ。

張り付いたように、その表情は笑顔から変わらない。

それなのに実態があるかどうかもよくわからないこの体と本能はこの女を全力で警戒している。

自分の中身を強引に引きずり出される、または自分の中を素手で遠慮なしにかき分けられるような気持ち悪いような感じがする。



「貴方のほしいものは?お金?永遠の命?それとも絶対的な力?」



この女はいったい何を言っているんだろうか。俺の欲しいものだって?

そんなものは別に何も―――



「違いますよねぇ。貴方を肯定してくれる人、ですよねぇ~?」

「ッ!!」



どきりと心臓が大きく跳ねる。

どうやらこの体はまるで生きているかのように動くらしい。

たった一言発されただけだというのに心臓の鼓動が酷く五月蝿くなった。



「では、次の世界ではあなたの望みがかなう事を祈っていますよ」

「次の、世界?」



今までの笑顔が微笑みだとして、女は俺にその最終通告を告げながら目を弓の形にして優しく笑った。



「ではではぁ~?あなたへのプレゼントはぁ~!これだぁ!!」



そういいながら女は山札から適当に一枚のカードを引く。

なぜだか急に元の甘ったるい声でおちゃらけはじめた。

この女はいったい何なんだというのだろうか。

それに次の世界だって?輪廻転生でもしろと言うのか?

いまだに現状を理解できない俺を置いてきぼりに女はつかつかとこちらへ歩み寄ってくる。

数歩歩き、俺の一メートルほど離れた一で止まった。



「では、あなたの長き旅路に幸多からんことを」



その言葉と共に女の手の中にあったカードが青い光の粒子となって空中に霧散する。

山札だったものはそのままどこかへ、選ばれたカードだったものは俺の中へと流れ込んでくる。

そのカードには『錬金術師(アルケミスト)』と書かれていた。

それを認識するが早いか俺は強い風に飲み込まれて目を瞑った。






ダンダリアという街の郊外の森で目を覚ましてから一週間。

ようやくこの世界の情報がそろってきた。

まず、この世界には魔物と呼ばれるモンスターが存在する。

それらは一般的に害獣とされており、その魔物を狩って生計を立てている冒険者と呼ばれる職業も存在する。

冒険者はギルドの紹介や個人間での依頼をこなし、その成果として報酬を得ることができる。

また、冒険者以外の職業も当然数多く存在している。


その中でも俺は――――――無職(ニート)だ。


それもこれもすべては全く説明と言うものをしようとしなったあの女が悪い。俺に全く責任がないかと言われればそれはそうとも言い切れないが、十割中九割はあいつが悪い。





視界には緑、先程までの深い青はない。

その代わりに心地のいい青空が木漏れ日と共に木の葉の間から覗いていた。

後頭部には土の感触。

それだけで自分が地面に倒れているという事を理解するにはそう時間はかからない。

体のあちこちに力を入れてみるが、どうやら怪我やだるさといったものは無いらしい。

全身に異常がないことを確認して体を起こす。



「きゃっ!?」



体を起こすと同時に可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

周囲に目をやると、少し離れたところに尻餅をついた少女がいる。

さっき見えたようなきれいな青空と同じ空色の髪を結ばずに流している。長い髪がそよ風に揺らされてゆらゆらと揺れ動いていた。

少女がはっとした表情になり、こちらが見ているのに気が付いたようだ。

急いで立ち上がり、スカートの土を掃うと駆け足で近づいてくる。



「あの、君大丈夫?」



かがんでこちらの顔を覗き込んできたことで彼女の顔がよく見えた。

整った顔立ちだが、それ以上に目を引いたのは少女の目だ。

少しタレ目がちな眠そうな目をしている。その瞳はまるで宝石のスカイブルートパーズのような澄んだ水色だ。

髪の色と相まって少女自体が一つの空のように見える。



「あ、いや、だ、大丈夫だ」



あまりの急展開につぐ急展開だが、何とか喉から声を吐き出す。



「あなた、このあたりでは見ない人だけど、どこかから旅をしてこんなところまで来たの?」

「旅?俺は―――」



俺は、なんなのだろうか。

一度死んで蘇った?しかも別の世界で?

こんなことを話したとしても信じてもらえるとは到底思えない。もっといい言い訳を考えなくては。



「俺は旅人と言うわけじゃない。でもここのあたりの出身でもない」

「それってどういうこと?」



空色の少女は不思議そうに首をかしげる。

いい言い訳なんてそうそうポンポンと出てくるわけないじゃないか……。なんて言ってごまかしたらいいんだよもう。

心の中で悪態をついているとふと先程の光景が思い起こされる。

山札の中から引かれたカード、『錬金術師』。

そうだ、これを使おう。



「俺は実は錬金術師の見習いなんだ。だからこのあたりに自生していると聞いた薬草を取りに来た」

「錬金術師って、もしかして街のドーマン先生のお弟子さん?」



しまった、すでに街には錬金術師という職業の者がいたのか。よく考えたらそもそも錬金術師がこの世界でどのくらいいるのかもわからない。

まてよ、これはうまく誘導すればこの子に街まで連れて行ってもらえるんじゃないか?

そう考えて再度少女に話しかける。



「それはそれで違うんだ。俺はここから遠いところから来たからまだ街には行ってないんだよ。しばらくここらで泊まる宿も確保しないといけないだろうから、もし君が良ければ俺に街を案内してくれないか?」

「そういう事だったの。私の名前はシエル。もちろん、喜んで協力するよ!」

「よろしくシエル。俺はヒサメだ」

「これからよろしくヒサメ。ようこそダンダリアへ」



そう言って少女はにっこりと笑った。

俺はこの時内心うまくやってやったと思っていた。しかし、問題はそこからだったのだ。

立ち上がってからようやく気が付いたが、俺の服装は元着ていた学生服ではなかった。上下とも安っぽい簡素な服で、どうやらこの世界に適応するために強制的に着替えさせられていたようだった。

そして一番問題なのは手持ちに何もないことだった。

着の身着のままとはまた違う気もするが、どうやら完全に一文無しで異世界に放り投げられたらしい。

そのことに気が付いて絶望しながらも、暗い感情を振り切って少女に街を案内してもらった。

この街『ダンダリア』は中世ヨーロッパ風の街並みで、周囲が堅い城壁で守られている。

理由としてはこの街が魔族との戦争の最前線付近だかららしい。

普通一番遠くの安全地帯から始めさせるものではないのかとあの女神っぽい女の恨んだが、すでになってしまったものは仕方がないとあきらめた。

そして何とか金を稼がないと野宿になってしまうと思いシエルに相談したところ金を貸してくれた。ほとんど見ず知らずの女の子に金を借りるという屈辱的な展開になってしまったわけだが、このままではいかんと何とか金を稼ぐ方法を探った。

しかし、見つかるのは日雇いのバイトや薬草を集めて売るという最低限の賃金しかもらえない仕事ばかり。

もともと基本的には平和な日本にいた俺に戦闘なんてできるわけもない。

そうやって数日を過ごしていると街の中での俺のカーストは最底辺に位置付けられてしまった。

この印象は何をどうやっても簡単には拭えない。俺の異世界生活が終わりを告げた瞬間であった。



異世界が予想以上にシビアだ……。



そう思っていた矢先、再びあのカードのことを思い出す。



「そういえば、あの山札はどこかへ消えたけど、錬金術師は俺の中に入ってきた気がするんだよな」



それならば俺は本物の錬金術師になれるのではないか?

そう考えていろいろと試してみた。

すると、手をどこかに添えるようにして街で見たポーションを思い浮かべるとそれが光と共に出現したのだ。

これには正直かなり驚いたが、魔法の存在する世界ならばこういう事もあるだろうと半ば無理やり自分を納得させた。

これでポーションを作りまくれば簡単に金が手に入るんではないか?そう俺は考えた。

しかし、ここで問題になってくるのがさっきのカースト最底辺だ。

今までポーションなんて作っていなかった奴が急にバンバン高値のポーションを作り出したとなればどうなるか。

答えは簡単、最初に疑われるのは俺が盗みを働いたことだ。

この街にはそれなりに名前の売れた錬金術師がいる。

その工房から俺が盗みを働いたと思うのが自然な流れだ。

だから俺はポーションを作れても簡単に金持ちにはなれないし一攫千金も狙えない。他にも要因は多数あるが、それは今は置いておこう。

結局生活は前より楽にはなったが安宿泊まりは解消されず、ほそぼそと生活している今に至るというわけだ。



「はぁ、せっかくCランクやB,A、Sのポーションまで作れるっているのにどうしてこうも酷い状況になってんだろうなぁ……」



はぁ、っと大きなため息をつく。

重苦しい息が一人ぼっちの寒々しい部屋に響く。ため息をつくと幸せが逃げるというが、これから先には不安しかないのだからため息の一つや二つも付きたくなるだろう。

この世界のアイテムには等級が存在するものが多数ある。

そのうちの一つがポーションだ。ポーションには怪我治療薬や状態異常治療薬など様々な種類がある。

基本的に薬屋で売られているのはE,Fランクまでだ。そこから少しランクアップしてちょっと高めの病院で処方され始めるのはDランク。

ここまで来ると難病や体の一部が欠損したりしていない限り大体の怪我や病気はなおる。

そこから先はこんな辺境の地ではお目にかかれないランクになる。

まずはCランク。

これは一、二週間かけてだが、複数回かけるまたは服用することで体の欠損や不治の病と言われた病気でさえ回復させる。

しかし、Cランクなどこの国の王都にでも行かなければそうそう手に入らない。

酒場のバイト中に聞いた話では、王都のオークションで金貨120枚で競り落とされたとか。

金貨120枚と言えばこのダンダリアで城が立てられるだけの金額だ。

この世界の通貨は上から白銀貨、金貨、銀貨、銅貨、石貨に分かれている。

各貨幣が100枚で次の貨幣一枚と同じ価値だ。

中央と端っこでは物価が違うとはいえ金貨120枚と言うのが恐ろしい大金であるという事はすぐにわかる。このあたりでよくとれるポレラと言うリンゴのような桃のような果物があるが、その実が一つで石貨8枚と言えば金貨120枚のすさまじさがわかるだろうか。

そこから先のランクは最早人の領域ではない。どうやって生産され、どうやれば手に入るのかも分からない。

BはまだしもA,Sランクの回復力はすさまじいらしい。

AとSは今のところおとぎ話の中でしか情報を得られないかった。Bはありとあらゆる傷、病を退け、A,Sに至っては服用した物の力を大幅に底上げするらしい。

正直に言って怪しい。

そもそもポーションと言うのは自然の力を液体に溶かし込んでそれを服用するものだ。行ってしまえば超高濃度の自然魔力を体に流し込んでいるという事だ。

そのまま頭がおかしくなって体がパンクしたりしないだろうか。

それが怖というのともう一つ俺の能力は恐らく無制限にポーションを作り出せるがランクが上がるたびにめちゃくちゃ時間がかかると言うのが原因で高ランクのポーションはまだ作ったことがない。

Cランクは何かあった時のために常時複数本持ち歩くようにしている。

Sを作るのには一回4時間もかかるのだ。

しかもその間ある程度集中していないといけない。なんとも使いにくい能力をよこしてくれたものだ。

はぁ、と再び大きなため息をつく。



「こうしていても仕方ないか……」



そう誰に言うでもなく呟いて今日の分のポーションを売りに外へ出た。







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