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×3 波乱の日常  作者: 有栖川優悟
2/7

*拾捌

社会が死刑を命じる権利を放棄すれば、すぐにまた自衛が登場する。血の復讐がドアをノックする。

――ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 

おうぎ

 銀庭ぎんてい学園でも、くだんの薬品は問題になっていた。

「えー、連日の報道で話題になっている雷管レイグァンだが、当然ながら危険なので使用しないように。特に無能力者ブランカー三人は気をつけておけ」

 無能力者三人――私と神楽かぐら、それと衛宮えみやのことだ。

「先生ー」

 手が挙がる。

「衛宮」

「なんで“私ら三人は特に”なんですかー?」

「これは無能力者に能力を付加する効能がある。それに取り憑かれて暴走しないかと心配なんだ」

「大丈夫ですよー。私は無能力者であることに対して、それでもいいやって思ってますもん」

「私もー」

「時坂」

「別に無能力者で不幸体質でも仕方ないやって思ってますから。だってほら、不幸体質って幸せへの道程が人よりちょっと遠いだけで、一生幸せになんかなれないってわけじゃありませんし」

 なるほど、神楽らしい反論だ。

「岸波は?」

「私もです。異形共に復讐したい、と言えば乱用者と同じかもしれませんが――能力を持ってしまったら、復讐の意味がないじゃないですか。私は無能力者として復讐がしたいんです」

「復讐って。…なるほどな。お前らも気をつけろよー、異形が使えば暴走するし、何より法に反する。輸入や所持は三年以下の懲役ちょうえきしくは三百万円以下の罰金。営利目的の場合は五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金との罰則が規定されているからな」

「はーい」

 私達にもそのような魔の手が差し迫ってくるのだろうか。けれど私は知っている。人の狂気というものは、時として、異形が持つ他のどのような能力よりも、恐ろしいものになりえるということを――



***



『えー、NNNニュースの時間です。現在社会的に問題となっている雷管ですが、二一〇六年六月現在、乱用者が急増しているようです。使用すると暴走状態になってしまい――』

 アナウンサーの声とともに画面に映し出されたのは雷管の写真だった。しかも、ご丁寧に赤色のフォントで書かれた『問題の危険ドラッグ 全国的に乱用相次ぐ』というテロップ付きで。

「扇、あれは恐らくただの薬じゃない。絶対に、異形絡みの何かだ…いや、この際はっきり言おう。――あれは呪詛じゅそだ」

「呪詛…?」

「ああ。作った奴はおそらく誰かを呪うつもりだったのだろう」

「それってもしかして、コトリバコってやつですか?」

 しきみが訊く。

「そうそれだ。雷管はその中身の血を希釈したもので、その状態でもかなりの効力を発揮するらしい。この呪いは呪詛の中でもかなり強力なものであり、下手をすれば自分たちさえ殺しかねないような危険な代物だからな」

 コトリバコ。

 島根しまねのとある集落にて外部から持ち込まれた呪術をもとに製作された呪いの小箱で、水子すいじの死体の一部や血などを細工箱のような小箱の中に入れて封をし、パズルや置物などともっともらしい嘘をついて殺したい人物の身近に置かせるらしい。それほど強力な呪いなら、雷管の乱用者が暴走するということも納得できる。

「もし潜入先で乱用者を見つけたら報告するように。もし暴走したら私達が殺さなければならないからな。…では、解散としよう」

 私達は長官に背を向けて、ドアを開けてそれぞれの部屋へと向かった。

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