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第3話 ゴーレムと家族の絆

 ゴーレム・ファイトの開催を明日に控え、ティラの緊張はいよいよ限界を迎えていた。

 落ち着き無くあちこちを徘徊しては、大きく息を吐く。飲み物を口にする回数が異常に多く、それに伴ってトイレに向かう回数も増えていた。

 吐き気を覚えそうな緊張感を味わうのは初めてだった。

 このような時、自身より狼狽する親友のエルメリアや、底抜けに楽観的なカルラがいれば気が紛れそうなのだが……。エルメリアは、故郷・ラクアから帰郷を促す急使がやって来るや、どうしてかカルラまで一緒に連れて帰ってしまったのである。

 エクレアもまた集中力を高めるため、今は実家に戻って引きこもっている。

 なので、他にやって来られる場所と言えば――


<イラッシャイマセ>


 相棒のパッカーがいる、格納庫だけであった。

 頭部の黒い面を向けるパッカーのボディは、大きな鉄扉の隙間から差し込む夕日を受け、橙色にキラキラ輝いている。


「やっぱ、カルラはいい仕事するわね」

『コンディション:最高 エネルギー充填率:81%です』


 ティラは「うん」と頷くと、両手を突き出した。

 右手を握り、開く。パッカーの右クローアームが開閉した。

 左手を握り、開く。パッカーの左クローアームが開閉した。

 腕を上げ下げし、地団駄を踏むように足をバタバタさせる。

 パッカーはティラの思った通りに動く。それに「よし」と声をあげた。


「このボディに傷一つ、つけさせやしないからね」

『カルラ様は『多少傷があった方が締まる』と仰ってました』

「それはそうだけど、新品のテッカテカなのをいかに長く保つかが大事なのよ

 だから、保護シートはギリギリまで剥がさないのよ」


 それが私のコーティングなのだ、と声高々に続けた。

 いくら相手がドワーフの王であれど、手加減をするつもりはないようだ。

 パッカーは『分かりました』と言うと、しばらく黙した後『マスター』と、ティラを呼んだ。


「どうしたの?」

『ありがとうございます』

「な、何よ突然?」

『マスターがいなければ、私はまだこの光を浴びられていませんでした』


 そう言うと、黒くなった山あいに落ちてゆく夕日の方を向いた。

 ティラは「確かにね」と、初めて会ったその時のことを思い出した。


「私の方こそ礼を言うわ。ありがとう、パッカー」

『何のお礼でしょうか?』

「私を選んでくれたことよ。

 私に夢と、ゴーレムを与えてくれたでしょ」

『夢はまだ与えられていません』

「ふふっ、確かにね!

 なら明日、その夢……与えてもらうわよ!」

『分かりました』


 ティラは拳を掲げると、パッカーもそれに合わせクローアームを持ち上げる。そして、コンと突き合わせた。


 ・

 ・

 ・


 その日の夕食は、娘の晴れ舞台に駆けつけた両親と共にしていた。

 母親はともかく、父親と会うのは約三十年ぶりのため、久々に顔を会わせた時は『母のボーイフレンドかしら?』と、本気で考えてしまったほどである。

 しかし、親子が揃ったことは、ティラにとって良いことばかりではない。

 シャイアは『この際ですので』、と父母を交えた三者面談を行ったのだ。


 ――夢を追い求める様はとても素晴らしいのですが


 と、小テストなどの試験結果を指しながら、勉学にも集中するよう親に指導が行われた。

 父の方は特に気にしていなかった(重大さに気づいていない)が、母は肩身が狭そうに、『申し訳ありません……』と、呟き続けていた。(ティラはその後、母親からの“指導”を受けたのは言うまでもない)

 しかし、説教だけでもなかった。獣人の地での活躍や、その道中に施したコーティングのことを挙げ、『娘さんを連れていなければ、私も今は無かったと思います』と、少し頬を染めながらシャイアは続けた。

 それに眉尻を下げた母であったが、それよりも喜んだのが、ティラが“進路”について語ったことである。


 ――卒業後はとりあえず家の手伝いをし、家業継承も視野に入れています


 パッカーもいるため、まぁ食いっぱぐれることはないだろう、と続けた。


「ティラ、本当にいいのかい?」


 故郷・フラウクルでは絶対に味わえないであろう、子羊のソテーを口にしながら、母はやや心配言う。


「構わないわよ。パッカーと一緒に旅をして『私にはコーティングの魔法しかない』って思い知らされたからね。

 ……ああでも、いけると思ったら店の移転もするし、ゴーレム・ファイターとしての活動も細々とやるつもりよ」


 最後のそれが目的ではないか、と少し呆れたが、娘がちゃんと進路について考えていることが嬉しくなったようだ。

「そのために、明日は頑張りなさい」と、親子でグラスを掲げ合った。



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃、実家に帰っていたはずのエルメリアはと言うと――。


「お、お母さん大丈夫……?」

「は、話しかけないでっ!」


 荷台の上にいるエルメリアの母・ユリアは、緊張が張り詰めた声をあげた。

 場所は、水の街・ラクアからタルタニアに向かう道の、ちょうど真ん中の辺りだ。

 青髪の母娘以外に、そこには赤髪のドワーフ・カルラもいた。

 いつもは楽観的な彼女も、この時だけは緊張の色を隠せないでいる。


「うーむ……バブデラのおっちゃん、絶対にコケるなよ?」

「わ、わかっとるわい! ああ、やはりハッチを付けるべきじゃった……」


 いつぞやの襲撃者・バブデラは、自身の愛機《ブライアント》で荷車を引いている。

 周囲には護衛のドワーフもいるが、全員がその上にいるユリアと氷漬けの金属塊を注視していた。


「これ、本当に転んだら……ダメなの?」


 エルメリアがおずおずと訊ねると、カルラは真面目な顔で「何人ここにいたかすら分からなくなる」と言った。


「こんなコア、よくもゴーレムに使おうなんて考えたね……」

「大成功品であり、大失敗作だからなー……。

 うちで処理したら、マグマで周辺地域全部消し飛びかねないし」

「もしかして、ラマザン王がこっちに来る理由って……エルフの里でこれを処分するため……?」


 カルラはそれに返事をしなかった。

 ラクアに帰郷するや、そこにはドワーフの王・ラマザンがおり、


『ドワーフの国・エルデルクより、厄介な品物を運んで欲しい』


 と、母親とカルラと共に、二度目のエルデルク訪問を行ったのである。

 道中、かつての“恋”を自覚した男・ハサンとの再会もそこそこに、目的地ではそのようなことを綺麗に消し飛ばしてくれそうな、とんでもない代物が待ち受けていた。

 説明を聞いた母・ユリアは思わず『頭が悪いのですか?』と、真顔で問うたほどである。


「――お母さん、辛くなったら交代するからね」


 コアは常に冷却していなければならない代物であるらしい。

 なので、ユリアはずっと氷結を保つ魔法をかけ続けている。だがこれが厄介なのは、一度解凍すると再冷却するよりも前に爆発、大きな衝撃を与えても爆発……と言うところにあった。

 これをエルフの里に運び込む――失敗なんてすれば、命だけでなく里に大損害をもたらした者として、永久に汚名を被ることになるだろう。とんでもない仕事を引き受けたものだ、とエルメリアは心配性を通り超して絶望を抱いた。


(でも、運搬車か人夫がもっと欲しいかも……。

 バブデラさんのゴーレムで、石の撤去とかやれたらスピードが上がるんだけど……)


 このままでは大会に間に合わないかもしれない。

 新たな心配がよぎり、はぁ……と頭をあげたその時、見知った二人組のオークの姿が見えた――。

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