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第6話 もしもし亀よ(1)

 傍にいた女の子の母親は慌て、すぐに何事かと訊ねた。


「うっ、ひっぐ、うぅ……外で、見つけて……わ、うぅぅ……」


 女の子は嗚咽混じりに話すため、何を言っているのか殆ど分からない。

 エルメリアがその子の横で腰を落とし、優しくなだめる。女の子はそれに気を落ち着かせたのか、泣きじゃくりながらも、ゆっくりと泣いた理由を話し始めた。


「亀さん、かあ、いそうだって、ひっぐ、このまま、じゃ、って思って……この池に、ひぐ……」

「亀さんをこの池に?」

「お、お姉ちゃ……ご、ごめんなさ……うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん――っ」


 良心の呵責に耐えかねたのだろう。何となくの理由を掴んだところで、女の子は再び大きな声でひしり泣いた。

 そこに母親が「泣いてないでちゃんと説明しなさい!」と鋭い声で叱ってしまったため、エルメリアも思わず耳を塞いでしまうほどの状態となってしまう。

 それを見ていたティラは、「ああもう……」と(ひたい)に手をやった。

 ああして親が頭ごなしに叱りつけるから、子供が隠しごとをし、情緒不安定になってしまうのだ。

 時には対等な目線になれ。そう悪態をつくティラの脇から、“大きな存在”が通り抜けた。


<イラッシャイマセ>


 ぬっと現れた大きなゴーレムに、女の子は泣くことをピタりと止めた。


『手をかざして下さい』


 頭の処理が追いついてないのだろう。その音声に従い、顔を強張らせながら両手を向けた。

 パッカーはしばらくそれを見つめると、身体ごとティラに振り返った。


『――査定が終了しました。

 街の外で亀の子を見つけ、親がいないのを不憫に思ったようです。

 それが《ランドタートル》だとは知りません。一匹ぐらいならばとポケットに入れ、池に放ち、こっそりと世話をしていたようです』


「ああ」それを聞いていたオークたちは、何度か頭を上下させた。


「《ランドタートル》の親は、卵を産んだらどっか行くブね」

「それに、子の頃はクサガメにそっくりだブよ」


 狂暴になるのは成体になる頃か、産卵期の時ぐらいだと続ける。

 ティラはそこで理解した。何故ウンディーネはパッカーを通して依頼したのか――と。


(悪意なき善意、ってところかしら)


 それは、子供の無欲の優しさゆえに起きたものであるからだ。

 この場にいる誰かが問題を解決したとしても、心の中にわだかまりを残したままとなる。領主が心配性であれば、なおさら悪い方向にゆきかねない。中立的立場からこれを説明し、解決できる存在が必要だった。

 そうなる原因は、生ける者が発する言葉にある。

 抑揚を持った“生きた言葉”は、少なからず心と感情を刺激する。片や、ゴーレムの言葉にはそれがない。

 街の者が「なるほど……」と分かったのか、分かっていないのか曖昧な返事をしたのを見て、ティラはすかさず声をあげた。


「と言うわけで、引き揚げてやっつ――どこかに移動させるなりしましょ!」


 言い直したのは、女の子がビクりと身体を震わせたからである。

 モンスターと言えど、愛情をかけて育ててきたのだ。それを眼前で倒すのは忍びない。

「でも、どうやって引き揚げるの?」エルメリアがおずおずと訊ねた。


「この豚に紐つけて、沈める?」ティラは臆面もなくオークを指差すと、「この女は一度、思い切り殴られるべきだブ……」と、オークの兄貴分はジト目でティラを睨んだ。


「ま、あれは臆病な性格だブ。

 急に水位を下げるか、何かで刺激でもすれば飛び出してくるブ」


 やる気満々、と腕を振るオークの提案であるが、エルメリアや彼女の両親は難色を示した。

 水を抜くにはウンディーネから許可を受けねばならず、このようなことでは絶対に承諾してもらえないからのようだ。

 ティラは顎に手をやって唸った。


「なら刺激、か……うーん、水底で爆発させるとか、地面叩いて驚かすとか?」

「ふふふ! そう言うことなら、私にお任せあれ、ですわ!」


 エクレアは《スパイク》を随伴させながら、ずいと前に躍り出た。


「ゴーレム沈めんの?」

「沈めるのから離れてくださいまし!?

 私が味わった初めての屈辱――それから、何もしてこなかったわけではありませんのよ。

 ティラミアさんの対ポンコツ用に考案した、《スパイク》の新必殺技――」


 エクレアは声高々に言うや、池に《スパイク》の腕を浸した。


「〈スパーク・アーム〉、発動ですわ!!」


 突然、関節や装甲の隙間からバチバチと青白く眩い光が漏れ出したかと思うと、白と黄の蛇が水面を踊り出したのである。


『64点です』

「どうしてあっちのが高いのよ」


 ほどなくして、水底から泡がポッと浮かび上がって来た。

 大きなものから小さなものまで。前の泡を追うかのように、水中で揺らぎをあげながら次々と浮上してくる。

 その間隔が短くなりだし、皆が身構えた。

 ……がその一方で、パッカーだけは神殿の方をじっと見上げていた。


「パッカー! アンタも――」

『ウンディーネが言葉を発しています』


 ティラは「え!?」と驚いた。


『『あびびびびびびびッ!?』と』


 神殿と繋がっているのは本当のようだ。

 その横では池の中央に黒い影が浮かび、むくりと水面が盛り上がっていた。

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