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メイキュウ攻略  作者: ウォメスト
東都編
6/17

第六話 模擬戦終結

終わり方を思いつけなかったんです。それよりも忙しかったんです。ごめんなさい。

 ギリギリと金属同士が擦れ合う。音の発生源である2つの種類の剣は互いに交差したまま膠着している。


 片側の剣を持つシンヤは、今の状況を驚きを持って考察する。


 相手側の剣の持ち主は女子、それもエルフのだ。膂力で負けるようなことがあり得るはずがない。また、剣術の技量は自分より下であることは明白だ。今の状況を作り出しているのは間違いなく魔法の力だろう。


 1番単純で主流な方法は身体強化だ。エルフは魔法に長けた種族であるため他の方法の可能性も十分あり得るが、他の方法は発動が面倒極まりない。これと見て間違いないだろう。


 身体強化は読んで字のごとく、魔力を体の部位に集中させたり表面をコーティングしたりすることで、飛躍的に身体能力を上げる魔法だ。

 これは応用次第で絶大な効果を発揮させることができ、魔力を扱う上で基本となる動作ばかりを使うので、魔法を教える際に1番最初に選択されやすい魔法でもある。汎用性が高く、シンヤもよく使用する魔法だ。


 閑話休題。

 シンヤがある程度考察し終えたところで、フリーになったアマゾネスの少女を視界に捉える。まだ見えないが、散布している魔力の感覚からもう一人、目の前のエルフの少女の後ろに控えていることも察する。


 相手がかけてくる力を外へ流し、先の膠着した状況を抜け出す。そして剣の刃を返し、ぐらりとバランスが崩れた体に向かって斬り上げる。


 しかし、その刃は大きく切り傷を付けながらもらも回避される。


「……やるじゃねーか」


 このタイミングで彼女の後ろにいたアマゾネスの少女が接近してくる。


 よくもまぁ素手で剣士に向かって臆せずに突っ込んでくるな、と今まで戦ってきた生徒が聞いたら、即座に同じ言葉を返されそうなことを考えながら剣を構える。それと同時に、隣のレイピア使いの少女の切り返しが来ないように少し離れる。


 アマゾネスの少女の攻撃をいなしながら、彼女の体が丁度レイピアの少女にとって遮蔽物になるような位置まで動くと、急激ににペースを上げ斬り込む。


 右手から正面に繰り出された拳を視界の左側を通るように避け、そのまま前へ踏み込み心臓へ一突き。

 ジャブを打つような形ではなく、しっかりと威力を出すために左足を前に出した状態であったため、回避動作が間に合うことはなく、あっさりと場外へと消えていく。



 気絶している者も含めるとあともう少しいるが、その辺りを無視すると残り4人。全員女子という不思議な状況だが、それも気にしないように剣を構える。


 正面左手前に猫人族の少女、右にずれて大分離れた位置にヒーラーと弓を構えたダークエルフが2人ずつ、そしてその右側手前にレイピアを持ったエルフの少女という配置。



 一瞬の静寂の後、前にいた猫人族と奥の方にいたダークエルフの少女が寸分違わぬタイミングで動き出す。猫人族の方はこちらとの距離を詰め、ダークエルフの少女は動きながら弓矢を引く。


 レイピアを持ったエルフの少女は、先程の傷を後ろのヒーラーに癒してもらっている最中だ。

 セオリー通りにするならば、ここでエルフの少女の方に向かうべきだろう。しかし、なぜと言われると明確に答えることができないが、その選択を取ることに嫌な予感を覚える。


 ならば、と予感に従い先に猫人族の方を先に倒そうと動きだす。


 まず始めに、こちらへ迫りくる矢を水魔法で生成した壁を用いて威力を減衰、殺傷能力をなくしていく。

 次に猫人族の方へ意識を戻す。有り難いことに、だいたい3メートルほど離れた位置でこちらの行動を様子見してくれていたようだ。


 あまり時間をかけすぎたために、エルフの少女が戦闘に復帰されては面倒である。そう考えたシンヤは、こちらから行動を起こすことにする。


 一切の物音を立てずに素早く距離を詰め、剣を左から右へ横薙に払う。

 カウンターを決めようとこちらを注視していた彼女は、その剣をかがんで避ける。低い姿勢のまま地を蹴り、懐へ突き進む。


「うおっと!」


 大胆な回避行動と追撃に驚きながらも、その動きに問題なく反応し、体を横に向けながら刃を返す。

 背後から首を刈らんと迫る剣を、猫のように横っ飛びに飛び、その切り返しを避ける。


 今のすっげぇ猫だったぞ、と感嘆しながら右足で地を蹴り飛ばし進撃する。着地直後の動きが鈍る一瞬を狙い神速の一撃を放つ。


 剣を阻むものは何もない。ステファニーは状況が状況故に避けることもできない。

 身につけていたレーザーアーマーを切り裂き、肌の表面に達する直前でフィールドにかけられた魔術が発動し、彼女を外へと送り出す。


 これで残りは3人。後衛職の2人は固まってこちらを見ている。エルフの少女の治癒は終わったようだ。


 先程の感触から、本気で斬ったとしても誤って殺してしまうことは無いことを悟った彼は、不敵な笑みを浮かべる。


 一カ所に集っている後衛2人を盗み見る。それなりに距離が離れており、詳しいことまでは分からないが、これからどう動けばいいか迷っている様子だ。


 接近戦になれば突発的な行動もある。かなりの技量を持っていなければ弓を射ることはないだろう。とはいえ、彼らの種族や役職を考えると魔術を使うことは容易いはずだ。


「念のため消しとこう」


 魔術を展開し始める。発射口を生成し、2人を囲むように設置する。射出するのは高威力の水魔法。内側へ向け串刺しにするように撃つ。


 2人とも魔術の存在には気づいたものの、発射までの行程が早すぎたため回避も防御も間に合わない。あっさりと消えていく。



 遂に一対一となる。

 実際に見たわけではないのでわからないが、送った分身体を倒したのは前にいる少女だろう。剣を抜く原因となったあの一撃は目を見張る程の速さだった。身体強化をかけていてもそう簡単に出せるスピードではない。先の攻防で、技術面では数段劣ることが明白になったが、警戒して損はないだろう。





 シンヤは一度彼女の姿をよく見てみることにした。


 セミロングで整えられた綺麗な黒髪、横長に尖ったエルフ特有の耳、少し茶色混じりの黒目、小さめの鼻、ぷりっとした艷やかな唇。それらのパーツは程よい位置に並べられ、まさに美形というべきもの。別名妖精種の名は伊達ではない。


「……愛南?」


 声が漏れる。それはただ一人、声を発したシンヤのみに届く。


 覚えのない名前にも関わらず、締め付けられる心。重くのしかかる罪悪感。「ああ、戻らないと」という感情が頭の中を埋め尽くしていく。



 視界が白く塗りつぶされる。



「……ぇアガァッ!?」


 脳が焼き切れるような激痛。思わず左手がこめかみ辺りへ動き、視線が少女のもとから離れる。激痛と共に、頭が熱を帯びるのが分かる。視界が赤みを帯び、体の先端の感覚が消えていく。ぐらりと体が揺らぐ。




 戦闘中に突然よろけ始めた相手を見て、チャンスと思わない者はいない。もちろんリアもその例に漏れなかった。彼の行動は理解できないが、ここしかないと言い聞かせ走りだす。


 カウンターも視野に入れながら体の中心を狙い、剣を突き出そうと構える。


「……っは!」


 小さく息を吐き、勢いよく腕を伸ばす。


 剣先から肌に触れた感触が伝わってくる。しかし、目標の彼は体を左側に逸らしている。体を掠めた程度だ。


 すぐさま刃を返し追撃を放つ。その剣は後ろへ飛んだ彼の前を通り過ぎる。

 一気に足を踏み込み、首元めがけて剣を突き出す。




 対するシンヤは視界はまだ揺らいだままで、足元が頼りない。なんとか右手に持った剣を振り上げるが速度は出ない。背後へ走り抜けた彼女の後ろを剣が虚しく通る。


「っだぁぁくそっ!」


 痛みを無理やり抑え、前へ踏み込み、振り上げた剣を横薙に払う。


 力任せに振られた剛線とでも言うべき一振りは、右下段で止めようとした少女を吹き飛ばした。



「きゃぁっ!」


 掬われるように飛ばされた彼女は、5メートルほど離れた位置へ落下、そして3回転。ただある程度衝撃は殺せており、平衡感覚は残ったままだ。


 少し距離を取りながら立ちがあり、力が抜けそうな足を叱咤する。剣を構え、前を向こうとしたその瞬間、左から聞こえる風切り音に気づく。


「ううっ……」


 ギリギリ剣を間に挟むことに成功するも、やはり耐えきることはできず同じように吹き飛ばされる。


 2度も地面を転がったせいか体中に痛みが走る。口の中に入った砂からの不快な主張が煩わしい。露出していた肌の所々から血が滲み出ている。


 歯を食いしばり、剣をついてフラフラと立ち上がる。もともと後衛の人間だ。ここまで戦えているのは奇跡と言っても過言ではない。


 それでも、とギッと前を睨む。自分より背の高い彼が一段と高く見えるが、意図的に無視する。


 また彼の体が揺れ動く。2回目の攻撃が響いているのか、彼の姿が追えない。

 こうなれば勘に頼るしかない。


 えいっと左側へレイピアを突き出す。先からなにかに触れる感触が伝わる。どうやら賭けに勝ったらしい。


 しかし、それは賭けに勝っただけに過ぎなかった。つまり、彼を止めるには至らなかったということだ。


 いつの間にかリアは、他の生徒たちと同じようにグラウンドの外に立っていた。






 リアが外に立っていると気づいた頃、対するシンヤは頭痛は治まっているものの、まだなんとなく赤みを帯びた視界に眉を顰めていた。


 先程までの記憶が曖昧だ。エルフの少女と一対一になり、戦っていたことは覚えているのだが、内容を詳しく思い出せない。


 しかしあの少女はここに居らず、自分はここに立っている。それだけで十分結果がどうなったかを推測するのは可能だ。適当にアリシアたちから話を聞けば、その時の状況も自ずとわかってくるだろう。


 グルっと周りを見渡す。


 序盤にできた大穴、意識を失い倒れている生徒が数人見える。

 勝利条件は全員を場外へ送ること。あの子たちも外へ追い出さなければ終わらないのだろう。


 念のため警戒しながら外へ運んでいく。中には途中で意識が戻って暴れだす者や、不意打ちを狙い、倒れたフリをしている者もいた。もちろん、そのようなことが起きても問題なく対処できたのだが。


 全員を外に出したところで、校庭に展開していた魔術が解かれる。それと同時にシンヤに向けて、戻ってこいと声がかけられる。


 声の主はアルフだ。心なしか呆れの色が混じっている。少々やり過ぎたのだろうか、と考えながら足を向ける。


 集められている生徒たちの姿が目に入る。特等生クラスという自信を、同年代にそして簡単に打ち砕かれたためか落胆している。


 そんな様子をぼんやりと眺めながら歩き、アルフの横へと向かうのであった。






 シンヤが辿り着くとすぐにアリシアが口を開いた。


「ほら、みんな顔を上げて。落ち込んでたって何も始まらないよ。結果は結果、まだ始まって3年しか経ってないんだよ? シンヤ相手に太刀打ちできるほど私たちも教えてないし、まだまだこれからなんだから、ね?」


 その言葉に、まだまだ悔しさは抜けきってはいないながらも全員が顔を上げる。


「よし、じゃあシンヤに感想を聞こうか。痛いかもしれないが、よく聴けよ?」


 突然話題を振られ、少々焦るシンヤ。あっさりと終わりすぎたせいでパッとアドバイスが浮かばない。なんとか言葉を捻り出しつつ答えていく。


「え? あー、そう……だな。やっぱり基礎が足りてなさすぎると思う。なんていうか戦術に技量が追いついてない感じで……。いろんなとこに隙があるから打開しやすかったな。でも化けそうな奴もいたし、才能はやっぱりあったと思う、たぶん。あと……」


 視線で誰についてのことか特定できないように目を動かしながら喋っていく。

 話しきると、チラッと教師二人に目線で合図を送る。


「……だ、そうだ。俺たちが言いたかったことはほとんど言ってくれてたんだが、わかったか?」


 こくりと頷く者、少々納得ないのか顔をしかめる者、目線を下げ気に食わないとでも言いたげな者など様々だが、大雑把には理解しているようだ。


「じゃあ言われたとおり基礎錬……できるかな?」


 時計を見ると、50分ある授業時間のうちまだ10分程しか経っていない。つまり授業が終わるまでに40分弱あるということであり、基礎練習をしても余裕はある。


「できそうだね。アルフ、先やってもらってもいい? ちょっとシンヤと話したいんだけど……」


 ちらりとアルフの方を見ると、意表を突かれたような表情を浮かべてはいたが、問題ないと手を振る姿が見える。


「じゃあよろしくね、終わったら教えて。……シンヤちょっと来て」


 足早に歩いていくアリシアを慌てて追いかけるシンヤ。とはいえ、どことなく焦っているような雰囲気を纏うアリシアに、何をやってしまったのだろうか、と少し及び腰でもあったが。



 生徒たちには声が届かない距離まで離れたところまで歩いたところで、バッと振り返りシンヤに詰め寄る。


「何したの?」


「な、何したとは、どういう……」


 静かながらも勢いのある声と、迫る体に思わず後ずさりするシンヤ。

 心当たりは何故か記憶の曖昧な部分以外にはなく、そこのことなんだろうなと考えながら話の続きを促す。


「何したというか何があったの、ってとこかな。最後にリアちゃんと相対したときよ。動きがとってもおかしくなってた。身体強化の制御ミスなんて分けない、よね? こっちに来たときなんか瞳が赤っぽかったし……」


 やっぱりその時かと、顔をしかめながら正直にわからないと返す。

 そもそも瞳が赤くなっていたなど初耳のシンヤ。「わからないって何?」とアリシアに睨むように見つめられる。この時のシンヤからはすでに、自らが呟いた「愛南」という名前は頭から抜け落ちており、全く原因はわからずにいた。


 水掛け論のようなな問答が何度か続き、最終的にアリシアが折れる。


「むぅ……。とりあえず、そのよくわからない力は使わないようにね。あの時のシンヤ、ちょっと怖かった。何か体が乗っ取られてる感じで……」


「あーうん。つっても、使うなと言われても使い方わからないからどうしようも……」


「つべこべ言わない、気合でどうにかする! 使うなったら使うな、いい?」


 そんな無茶なぁ、と思いつつもこくりと頷いておくシンヤ。


 アリシアの方はとりあえず十分なのか、約束だよと一言告げると生徒たちの方へと戻っていく。


 とはいえ、アリシアが言っていたことと実体験を統合してみても、あまりいいものであるとは言い難いのは事実である。

 戻っていくアリシアの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと、どうするべきか考えるシンヤであった。

お読みいただきありがとうございました。

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