第十話 2人行動
短めです。リアの一人称視点です。
「……ここどこにゃ? どっちへ進めばいいのにゃ?」
「……わかんない」
「これからどうするにゃ?」
「うう、どうしよう」
私とステフは、今、絶賛迷子中です。右も左もわかりません。どうしたらいいんだろう?
ことの顛末はつい先ほど。遠征の3日目。順調にチェクポイントを巡って進み、第4チェクポイントへ辿り着いた後のこと。
今日も無事に拠点に帰れるという安心感と、滞りなく進められている達成感に似た感情を胸いっぱいに膨らませていた帰り道。
私たちは、ある魔物に出会ってしまったんだ。
本能的に直感したとでも言えばいいのかな? ただただおぞましい程の死への恐怖が私たちを駆け巡って、頭が真っ白になったの。
早く逃げろ! という誰かの声に、足がすくんでいた私たちは我に返り、そして、もうありとあらゆる妨害をしながら逃げました。
でもなかなか撒くことができなくて、咄嗟に二手に別れたんだ。故意じゃなかったからこの表現は間違いなんだけどね。
だから全く人数は均等じゃないし、男女比も勿論バラバラ。
でもあのときは仕方ないと思う。本当に危なかったし。
……魔物が追いかけて来ていないのを理解するのにはそう時間はかからなかった。考えられない程のプレッシャーだったから。
ただ、私たちを追いかけて来ていないということでホッとできたわけじゃなかった。だってジャック達を追いかけたということだから。
この時からずーっと不安で胸が押しつぶされそうで、今すぐにでも戻って助けに行きたい。行きたいんだけど、今戻ったところで何の足しにもならないよね……。
悔しいけど、ジャックたちの安否は信じるしかないよね。信じるしか。
……ってずっと言い聞かせているんだけど、難しいよ。全く落ち着けないや。
どうしたらいいかもわかんないし、どうしよう……。
「顔上げるにゃ、リア? 私たちが助からにゃいと、にゃんにも始まらないのにゃ」
ふと、隣から励ましの言葉が聞こえる。ステフだ。私は言葉通りゆっくりと顔を上げて、ステフの方を向いてみる。
いつものようにニコニコとしていた。でもどこか、何かを決心したような、そんな表情をしていた。
ステフは強いなぁ。私を励ましてくれる程の余裕があるなんて。
ステフにはいつも驚かされてばかりだよ……。
彼女はこの学園で最初の友達。学園寮では相部屋もしていて、私にとってかけがえのない、唯一の親友と呼べるほどの人。
せめてステフだけでも助かって欲しいなぁなんて。
……なんにしても少しでも前向きにならないとね。頑張って顔をあげよう。
「にゃはは。そのいきにゃ! じゃあ作戦会議をするにゃ、まずはどっちに向かうか決めるのにゃ!」
「そうだね。そうしよう! とりあえず、大雑把にでも向かっていた方向が知りたいな」
まずはここからだよね! 魔の森を抜けてからどっちに行けばいいかも早いうちに知っておきたいし……、って
「うー? それにゃら、ミャーたちは最初追われたとき、西に向かって逃げてたはずにゃ。だから……」
え、西? ちょ、ちょっと待ってぇ!
「北へ向かって逃げたしたくない!? だって正面からあいつは来てないよ!?」
「うにゃ? そうにゃ、だから西にゃ。その前にちょっと北へ逸れたのを覚えてにゃいのかにゃ?
……それに、おみゃーの方向感覚は9割ぐらい間違ってることを、ミャーは今までの付き合いから知っているにゃ。これは間違いなく西だにゃ」
うぐっ、その件については言い返せない。だけど、曲がったりしたかなぁ?
「はぁ。北の方角に美味そうにゃ木の実がにゃってるとか言って方向を変えたのはどこの誰にゃ……」
あっ! そうだった……。完全に忘れてたぁ。
「ま、リアの方向音痴でアホなキャラは今に始まったことじゃにゃいからいいにゃ」
「む、方向音痴は認めるけどアホじゃないもん。忘れてただけだもん」
「にゃはは、わかったわかったにゃ、悪かったにゃ。でも、にゃんにしろ向かうのは東で間違いないにゃ。たぶん魔の森を出たところの近くに拠点は見えるはずにゃ」
「そうだね、よし頑張ってこんな場所とはおさらばしちゃおう」
進路は決まったね。後はずんずん進んでこの森を抜けるだけ。さぁ、張り切っていこう!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……にゃぜにゃ、にゃぜ森を抜ける気配がないのだにゃあ!?」
あれからかれこれ数時間、私たちは意気揚々と歩いてきたんだ
けど、おかしいなぁ。森を抜ける気配が一向にないんだけど……。
「方角どこかで間違えたのかにゃ……」
うーん。度々方角の確認はしてたはずだから、まず間違えないと思うんだけどなぁ。
それもそうだけど2人きりになってからというもの、なんだか魔物との遭遇率が上がった気もする。レベル的にはそんなに変わってないからなんとか対処はできるんだけどね。
……でもそろそろ私たち2人だけではかなり荷が重くなってきたなぁ。そろそろ逃げるようにした方がいいかも。
「魔物のレベル自体は上がってなさそうだから、奥地へ向かってはいないと思うんだけどなぁ」
「それはミャーも同じ意見にゃ。
……っていうかお付きの先生は一体全体にゃにをしているのにゃ! か弱い女子生徒2人が逸れて一大事にゃのに、全く!」
そういえば、先生の誰かがついてきてくれてるはずなんだっけ。完全に失念してたよ。
でも確かにステフの言うとおりかも。か弱いかどうかは別としても、危険な状況であることは間違いないし。
何しているんだろ? 誰かわかったら問い詰めてやりたいな。
あれ、ステフの動きが止まった。どうしたの?
「……近くに魔物が来てるにゃ。複数、たぶんフォレストウルフにゃ」
「……え、嘘っ!」
思わず声が出ちゃった。で、でも、もし本当ならとても不味いのでは……?
「間違いないにゃ。かなり近くまで来てるにゃ。」
ええ、そんなぁ。この状況だと逃げるのなんて至難の業だよ……。
「リアもわかってると思うけどにゃ、逃げるのは絶対に無理にゃ。玉砕覚悟で突っ込んで、全部倒す以外に助かる道はないにゃ」
だ、だよね。
うぐぅ、「詰んでいる」っていうのはまさに今のことを言うんだろうなぁ。ステフは相打ちと言ってるけど実際、相打ちにもならないよ……。
とてもじゃないけど、私たち2人じゃフォレストウルフの群れを相手にして勝つなんてできない、かな。
なんとか、なんとかステフだけでも助ける方法を……。
「一刻を争う状況にゃ。あんまりもたもたはしていられないにゃ」
そうだよね。うーんなんとか出し抜いて……。
「ミャーはセオリー通り、リーダーと思われる奴を仕留めに行くにゃ。援護は任せたにゃ?」
え? ちょ、ちょっと待って! だめ、それじゃ助からない! 他に方法があるはず、もっと良い方法がっ!
「こんなとこでくたばるつもりは全くにゃいにゃ。大丈夫にゃ、絶対に生きて帰るにゃ。ミャーを信じてほしいにゃ」
そ、それは、助からないときのセリフだよ。駄目だよ、それだけは!
ああもうっ! 考えろ、早く! しっかりしてよ私の頭!
そ、そうだ、
「ど、どれくらい離れてるの?」
「ん? 離れてるというより寧ろ既にほとんど囲まれてるにゃ。たぶんミャーが気づく前から狙ってたんだと思うにゃ。だから本当にどうしようもないのにゃ」
そ、そんな……。
本当にそうするしかない、ってこと? 嫌だよ、嫌だよそんなのっ!
「だから、リアは援護をして欲しいにゃ。ミャーが集中できるように。ミャーはリアのこと、とっても信頼してるにゃ。だから……」
頷きたくない、ここで頷いたら一生後悔するなんてこと考えなくてもわかる。だからといって、切り開いてくれる代案も、ない。
「……。こうするしか、ない、もんね」
あ、いや待って、こうすれば!
「でも、私も前に行かせて? 2対1なら勝機も上がるでしょ?」
「……」
「模擬戦でシンヤを、分身体だけど、倒したのは私だよ? 絶対に足は引っ張らない。だからっ!」
ステフはだいぶ悩んでるみたい。でも、諦めたように首を縦に振ってくれた。
よかった。これなら負けたとしても、悔いなんか残らない。
よ、よし。じゃあ剣を抜こう。やっと私にも感知できるようになってきた。リーダーは……、少し離れた位置にいるあいつかな?
この囲いを突破して、戦いに行くだけなら簡単。いくら相手がこっちを注視していたって、私たちの突破力には敵わない!
「合図、私がかけるね……」
「にゃ、リアのタイミングに合わせるにゃ」
ふぅ、っと呼吸を整える。心臓の鼓動が周りに響いてそうなくらい激しいや。自然と体が強張り、剣の柄握る手に力が入っちゃう。
「3、2、1……」
目標は私たちから見て7時の方向。足で地面を掴み、グッと地面を踏みしめる。
「ゼロッ!」
目一杯地面を押し出して、目標に向かって走り抜ける。
途中で何かが左肩にぶつかったような気がしたけど、そんなの構ってられない。不意打ちのような形になった今しか、相手の元へ近づけないんだから。
絶対にギリギリまで足掻いてやる。例え生き残れなかったとしても!
お読みいただきありがとうございました。