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第2話 咆哮

【一日目】パート2です。

  2  咆哮


「オレはジャスパー。戦士だ。獣人で〈ルーツ〉は犬」

 犬耳の少年はさほど大柄ではないものの、頑健そうな体つきをしている。腕力や耐久力に秀でた獣人と見て取れた。少しもっさりとした茶髪が毛深い犬を思わせる。

 シャツやズボンは厚手で飾り気がない。丈夫そうな皮のベストとブーツも色合いは地味だ。見た目より実用性を重視しているのだろう。

 興味深げにルピニアを見やる赤茶色の瞳からは、邪念や疑いの気配が一切感じられなかった。

 ――分かりやすい奴やなあ。

 ルピニアはひそかに苦笑した。

 見るからに裏表のなさそうな顔だ。あまり単純でも困るが、とりあえず不快な印象は受けない。


「ボク、エルミィだよ♪ 神官で〈ルーツ〉はリス」

 ジャスパーの隣で少女が快活に名乗った。にこにこと楽しそうな笑顔が印象的だ。

 ややくせのあるロングの髪は淡い金色。薄緑の瞳が好奇心に輝いている。

 背丈はジャスパーより頭一つ小さく、やや細身だ。こちらは身軽で器用な獣人だろうと見当がついた。

 ――せやけど、こりゃまた……。

 ルピニアは鼻眼鏡をいじりながら、それとなくエルミィの服装を観察した。


 目に鮮やかな薄緑のワンピース。

 スカートの縁には細やかな白いフリル。

 白のエプロンとオーバーニーソックスもフリルで縁取られ、いくつか取りつけられた薄茶色のリボンが良い具合にアクセントになっている。白い帽子はシンプルなデザインながら、服装全体の色バランスをうまくまとめていた。

 可愛らしさをとことん追求したようなスタイル。彼女にはそれが違和感なくなじんでいる。これからお友達とパーティだよと言われたら納得してしまいそうだ。どう考えても依頼を待つ冒険者の服装ではない。


 ルピニアは自分の服をちらりと見た。

 シンプルな白のブラウス。落ち着いた藤色のジャンパースカート。スカートの縁には申し訳程度のフリル。足元は黒のタイツ。

 ブラウスの襟を少し大きめにしたり、髪の色に合わせて薄紫のリボンを着ける程度のこだわりはあるものの、エルミィと比べてしまうと地味の一言しか出てこない。

 過度の装飾は趣味に合わないし、そういった服は自分に似合わないと達観しているつもりでいたものの、いざそれを着こなす少女を目の前にすると複雑な気分だった。


「よう知らんけど〈ルーツ〉が犬とリスで喧嘩になったりせんのか?」

「獣人村じゃそんなこと気にしないぞ。そりゃ猫とネズミなんかはやりにくいみたいだけど、だからって食べるわけじゃないしな」

「長いつき合いだものね♪」

 エルミィはにこにこと笑みを絶やさない。何がそれほど楽しいのか、ルピニアには見当がつかなかった。


「ルピニアはエルフの森から来たのか?」

 問いかけたジャスパーは不思議そうな顔をしていた。

「せや。この村からそんなに遠くないで」

「珍しい言葉を使うんだな。たしか南の方言だっけか」

 ジャスパーが首をかしげた。

「なんや、あんた言葉に詳しいんか」

「旅好きな親戚がいるんだ。前にどこだったか南のほうへ行ってきて、あっちのひとはこんなしゃべり方をするぞって物真似してた」

「……あいつ南の出身やったんか。王都じゃこれが標準とか言いおって」

 ルピニアがしかめ面でつぶやく。ジャスパーは再び首をかしげた。


「ねえ、ルピちゃんはどうして冒険者になろうと思ったの?」

「ルピちゃ……」

 ルピニアは絶句し、相変わらず笑顔のエルミィを睨んだ。

「変な呼び方はやめんか。力抜けるわ」

「変かなあ。語呂もいいし呼びやすいよ?」

「初対面で名前を略すもんやないで。あんたはエルちゃん呼ばれてもええんか」

「うん、呼びやすいならそれで構わないけど」

 ルピニアは額を押さえた。

「とにかくルピちゃんは却下や。……ウチはひとを探しとる。よう知らんけど、人間の町でひとを探すんは金がかかるんやろ。冒険者なら手っ取り早く稼げそうやし」

「人探しか。そういうのはギルドに頼むと早いそうだけど、金は要るだろうな」

「そういうあんたらは一攫千金でも狙っとるんか?」

「お金はあって困らないからね。獣人が仕事を探すのは楽じゃないって言うし」

 エルミィがさらりと答えた。

「……案外しっかりしとるんやな」

 予想外の返答にルピニアは目をしばたいた。

「金も大事だけど、オレは強くなりたい」

 ジャスパーの返答はルピニアの予想の範囲内だった。

 ――ほんま、あんたは分かりやすいわ。

 ルピニアは苦笑し、グラスの水で喉を潤した。




「お待たせ。これがあなたたちへの依頼よ」

 羊皮紙を手にアルディラが戻ってくると、三人の背に緊張がよみがえった。

「ファンガスの傘を十五個集めること。食材だから丁寧に扱うように。期限は三日以内」

「ファンガス? ……ああ、大キノコってやつか」

 ジャスパーが安心したようにうなずく。

「すぐ行くか?」

 ジャスパーが何気なく提案した。エルミィが無邪気にうなずく。

 ――あ。これ、なんかあかん。

 ルピニアは嫌な予感に身を固くした。

「ちょっとお待ち」

 アルディラがジャスパーの後ろ襟を掴んだ。

「すぐ行くって? その格好で?」

「ジャ、ジャスパー、ちょっと待ち――」

 ルピニアの制止は間に合わなかった。

「え、だってただのキノコ刈りじゃ」

 アルディラのこめかみにくっきりと青筋が浮かんだ。


 後になって振り返っても、その後の数分間に関してルピニアの記憶はあいまいなままだ。怒号に耳が痺れたこと、気づけばジャスパーが窒息寸前でテーブルに突っ伏していたことは覚えている。

 やがて、何か固い物が詰まった皮袋がテーブルを叩いた。

「いいこと? このお金をあなたたちに貸してあげる。これでそのナメきった装備をどうにかしてきなさい。クエストを達成できたら残りの金額は報酬としてあなたたちのもの。ただし」

 アルディラは両手を腰に当て、三人を睨みつけた。

「あくまでも、そのお金は貸すのよ。クエストに失敗したら即座に借金になる。……さあ、分かったらさっさとバッタモンド商会へ行ってきなさい!」

 ただうなずくことしかできないまま、三人は追い出されるように店を出た。

「あれが止まり木亭の先払い式(プリペイド)労働力ってやつか」

「ありゃもう逃げられねえぜ……くわばらくわばら」

 酒場区画で息をひそめていたベテラン冒険者たちのささやきは、三人の耳に届くことはなかった。

【一日目】パート3、「常識の問題」へ続きます。

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