表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/82

12・皇帝陛下からの協力要請

今回の話が短くなってしまったので、本日20時に次の話を更新します。

 庭園でのお茶会の後、フィニアス殿下は皇帝陛下に話をしてくれたみたいで、割とあっさりと外出の許可が下りたらしい。

 それは嬉しかったんだけど、どうやら皇帝陛下は私に頼みたいことがあるとのことで、執務室にフィニアス殿下と呼ばれてしまった。

 執務室へ入ると、難しい顔をした皇帝陛下が私達を待ち構えていた。


「私に頼みたいことがあると伺いましたが」

「ああ。だが、まずは座ってくれ」


 勧められるまま、私達はソファに腰を下ろす。

 正面のソファに皇帝陛下が座り、彼が話を始めるのを待つ。


「……港でエルツが盗まれた事件があっただろう。あれの犯人とその目的が分かったので、其方を呼び出したんだ」

「え? もう分かったのですか? なら、早く捕まえないと……」


 あれ? 皇帝陛下は私に頼みたいことがあって呼び出したんだよね? なのに、どうしてエルツを盗んだ犯人の話をし始めたんだろう。

 フィニアス殿下も同じだったようで、困ったような顔をしている。


「まず、俺の話を聞いてくれ。港でエルツを盗んだ犯人だが、イヴォンで間違いない」


 ここで、イヴォンの名前を聞くとは思わなかった私は、息を飲んだ。

 イヴォンは、ベルクヴェイク王国の夜会で逃亡してから、行方知れずだったはず。

 なのに、今になってエルノワ帝国に現れるなんて。


「お待ち下さい。本当にイヴォンなのですか? 確認は取れているのでしょうか?」


 慌てたように皇帝陛下に詰め寄るフィニアス殿下に、私も頷く。

 皇帝陛下は、かなり自信があるようで、表情が一切変わらない。


「あれから詳しく調べてみたところ、イヴォンはヴィオン・ブライという偽名を使って帝国内を転々としていたようだ。名前からしても、報告にあった見た目からしてもイヴォンで間違いないだろう」


 名前を入れ替えるとイヴォンになるものね。それに王妃暗殺未遂犯のオスカー・ブライの名前を借りているのを考えると、イヴォンである可能性があるのかもしれないけれど、ちょっと安直すぎない? 

 愉快犯とかイヴォンを語っている可能性もあるんじゃ……。それに、オスカーが王妃暗殺未遂の犯人だったというのは、知れ渡っているし。


「あの、皇帝陛下はイヴォンの顔を確認したことがあるのですか?」

「……ある。だからこそ、俺はイヴォンが今回の犯人だと思っている」


 イヴォンの顔を見たことがある皇帝陛下が言うのならば、可能性は高いかも。


「……仮に、仮に、犯人がイヴォンだとして、彼の目的は何なのでしょうか?」

「それで、聖女殿を呼び出す、という話に繋がるのだが……奴の足取りを追っていたところ、ヴェレッド侯爵家に何度か姿を現していたようだ。それが聖女殿がヴェレッド侯爵家に訪れていた日だけだったということで報告を受けている。通行人にあれは誰なのかとか色々と聞いていたそうだ。加えて、最近名が知られるようになった仕立屋の女主人と親しくし、聖女殿の情報を聞き出していたらしい。それらから、俺はイヴォンの目的は其方だと思っている。恐らく、計画の邪魔をした其方を狙っているのではないか? あれは執念深いからな」


 有名な仕立屋って、昨日のお茶会で聞いたミレーヌさんのことかな?

 同じ人だったとしたら、そんなところと繋がりがあったなんて……。

 ああ、そういえば、ヴェレッド侯爵家のお屋敷で何度か不審人物を目撃していたことを私は思い出す。

 それと同時に、夜会の日に見たイヴォンの冷たい眼差しも。

 私を狙っているかもしれないということに、私は血の気が引く。


「……それが分かっていながら、ルネの外出許可を出したのですか!?」


 立ち上がって責め立てるようなフィニアス殿下の言葉にも、皇帝陛下は眉ひとつ動かさない。


「だから、聖女殿に頼みたいことがあると言っただろう」


 言われてすぐに、フィニアス殿下が勢いよく立ち上がった。


「……まさか、ルネを囮に使うつもりではないでしょうね! イヴォンをおびき寄せるための餌にするつもりなのですか!?」

「その通りだ。こちらがイヴォンを探し出しても、毎回逃げてしまった後なのでな。対応が後手に回ってしまっているのだ。確実に奴をおびき出すには聖女殿を外に出して、隙を作るしかない」

「だからといって!」

「飲んでくれぬというのであれば、転送の宝玉は使わないが」


 鋭い皇帝陛下の視線に、フィニアス殿下は勢いをなくしたのか言葉に詰まっている。

 私が睨まれたわけじゃないのに、ビクッとなってしまう。


「周囲には俺が信頼する騎士を付ける。聖女殿の無事はエルノワ帝国が保障する。だから、協力してくれ」


 頼んでいるはずなのに、こちらの拒否を認めない言い方だ。

 私だって、イヴォンに捕まって欲しいと思っている。あんな危険な人間を野放しにしておくことはできない。

 だけど、はい、協力しますなんて即答できないよ。


「聖女殿は分解と吸収の半能力半魔法属性持ちだ。魔法攻撃でも物理攻撃でも分解することができる。怪我をすることはない」

「ですが、素手であれば分解することはできません」

「あの男は自分の魔力を過信している。絶対に最初は魔法攻撃をするはずだ。そうして、少し足止めをしてもらい、騎士が捕まえる。それだけだ」


 再度、危険はないと皇帝陛下は告げる。

 目は真剣そのもので、見たままを言えば切羽詰まっているように見える。

 エルノワ帝国側でも打つ手がないということなのかもしれない。

 それだけイヴォンが上手なのか、って一人で国を傾けさせた人だったよね。なら、頭は良いのかも。それに人を操ることには長けていたし。逃亡の手助けをしている人がいるのかもしれない。

 さっき、皇帝陛下は転送の宝玉は使わないって言っていたけれど、私がリュネリアかどうかを確認したいはずだったよね。なら、あれはフィニアス殿下に対する脅し。ハッタリだ。

 私を説得するよりもフィニアス殿下を説得した方が早いと思っているんだろう。

 間違ってはいないけれどね。私だってフィニアス殿下から頼まれたら断れないもの。


「それに協力出来ることがあればやる、と言ったのは聖女殿だ。これは、そうではないのか?」


 まさか、ここでその言葉を出されるとは思っていなかった。

 軽率な発言をしてしまったことを私は悔やんだ。

 私だってイヴォンを捕まえた方がいいのは理解している。逃がしたままでは、いずれまたどこかで悪さをする男だもの。知らないだけで、水面下で動いている可能性もある。

 怖いけれど、ここで協力すると言うのが正解なのかもしれない。


「イヴォンを捕まえるのに協力してもらいたい。この通りだ。頼む」


 そう言うと、皇帝陛下は私に向かって頭を下げてきた。

 大国の皇帝ともあろう方が、私のような小娘に頭を下げるなんて……。

 本当に切羽詰まっているようだ。

 必死な様子に、私の心は揺れ始める。

 これからのことを考えれば、イヴォンは絶対に捕まえた方がいい。

 協力できることがあればやると言ったのは私だし、騎士もいてくれるというし、半能力半魔法属性もある。簡単に死ぬことはないはずだ、と思い、私は皇帝陛下を見た。


「……承知致しました。イヴォンを捕まえるのに協力致します」


 ホッとしたような表情を浮かべる皇帝陛下とは違い、フィニアス殿下は驚いたように私を見ている。


「いけません。イヴォンを捕まえるのはエルノワ帝国の役目。任せておけば良いのです」

「協力出来ることがあればやると申したのは私です。それに、もしも危険だったら、フィニアス殿下が守って下さるでしょう?」


 フィニアス殿下を見上げてみると、彼は口を閉ざした後で大きなため息を吐いた。

 そして、呆れたように笑うと、彼は、ええ、と言って静かにソファに腰掛ける。


「では、話がまとまったところで、計画を話そう」


 皇帝陛下の説明によると、イヴォンと親しくしているのは予想通り、ミレーヌ・バルテルという仕立屋の女主人だった。

 その仕立屋に行き、採寸させてフィニアス殿下と離れ二人きりになれば、きっとイヴォンは顔を出す。

 採寸する部屋は狭い場所で戦闘は無理なので、一旦私に路地裏に出てもらい、広い場所まで逃げて欲しい、とのこと。


 ということで、私は町に行くまでの間、ずっと逃走経路を覚えさせられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ