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9・夜会での呼び出し

 会場に入ると扉の近くにいた人達は私達の登場に恭しく頭を下げていたけれど、奥の方で何かざわついていた。

 何があったのかと私とフィニアス殿下が顔を見合わせていると、私達が来たと報せを受けたのか、奥の方からヴェレッド侯爵を引っ張りながらベアトリス様がこちらへと向かってきたのである。

 どうやら、奥の方のざわめきは、二十年ほど社交場に顔を出さなかったベアトリス様が出席していたことによるものだったらしい。


「ごきげんよう、ルネ。会えて嬉しいわ」

「ごきげんよう、ヴェレッド侯爵夫人。私もお目にかかれて光栄です」

「あら、ベアトリスと呼んで頂戴と申したでしょう? このような場だからといって呼び方を変えなくても結構よ」


 ベアトリス様の言葉に周囲にいた貴族達が一斉に息を飲んだ。

 嫁いだとはいえ、エルノワ帝国の元皇女殿下が親しげに話しかけているのだから、驚くよね。

 すっかり注目の的になってしまった私は、なるべく視線を気にしないようにしてベアトリス様に微笑みかけた。


「お心遣いに感謝致します」

「いいのよ。それと、ネックレスを身につけてくれているのね。嬉しいわ」


 ニコニコと微笑んでいたベアトリス様は、視線を私の隣にいるフィニアス殿下へと向ける。


「ああ、フィニアス殿下。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。ルネの姿を見かけて、嬉しくて先に話しかけてしまいました」

「いえ、気にしておりません。ルネから話は伺っておりますから」


 あれ? 私、フィニアス殿下に話してないよね? と思っていると、彼が小声でテオバルトから聞きましたと呟いた。

 色んな人を経由してフィニアス殿下の耳に入っていたのね、と私は納得する。


「改めまして、ヴェレッド侯爵家当主、マクシミリアン・ヴェレッドの妻、ベアトリスと申します」

「ベルクヴェイク王国王弟、フィニアス・ベルクヴェイク・アイゼンと申します」


 ベアトリス様はフィニアス殿下の顔をジッと見て、ふんわりと微笑む。


「ベルクヴェイク王国の王族の方にお目にかかれて光栄ですわ。元は同じ祖を持つ者同士ですもの。再び昔のような関係に戻れることを願っております」

「それはこちらも強く願っていることです。エルノワ帝国とは末永く良いお付き合いをしていきたいと思っているので」

「そうですか。きっと兄、いえ陛下も同じお気持ちなのだと思います。……あら、噂をすれば陛下と皇妃殿下がいらしたみたいですね」 


 その言葉通り、会場内に皇帝陛下と皇妃殿下が現れ、挨拶を始める。

 今夜の夜会は、ベルクヴェイク王国から来た私達を歓迎する催しだということを口にし、私達に向かって、楽しんでいって欲しいと言葉を述べて挨拶は終わり、会場内に音楽が流れ始めた。


「相変わらず兄上の挨拶は短いのね。昔とちっとも変わっていないわ」

「あれでも長くなったほうだ。昔は、楽しんでくれ、だけだったじゃないか」

「そうでしたかしら? 昔のことですから、詳しくは覚えておりませんわ」


 ヴェレッド侯爵との会話を終えたベアトリス様は、チラリと会場の中央を見た後で、フィニアス殿下に声をかける。


「ダンスが始まったようですし、ルネと踊られたらいかが?」

「……では、お言葉に甘えて。ルネ」


 フィニアス殿下から手を差し出され、私は彼に恥をかかせないようにとすぐに手を取った。

 ヴェレッド侯爵とベアトリス様はそんな私達を微笑ましそうに見ている。

 お二人に挨拶をして、私達は会場の中央へと向かった。


「公の場でダンスをするのは始めてですので、足を踏んでしまったら、ごめんなさい」

「そうさせないようにするのが、男の役目です。大丈夫」


 背中にフィニアス殿下の手が回り、私は彼の肩に手を置いた。

 もう片方の手をフィニアス殿下に取られ、ゆっくりと彼は動き出す。

 曲自体がゆったりとしていたため、落ち着いて考えながらステップを踏める。

 なるべく下を向かないようにしつつも、フィニアス殿下の顔を見るのは恥ずかしいので、彼の耳辺りを見つめていたところ、小声で彼から話しかけられた。


「あと数日で、全て解決しますから」

「え?」

「私は貴女を裏切りません。それだけは誓います」

「それは、どういう意味でしょうか?」


 疑問を口にしても、フィニアス殿下は微笑むだけで答えてはくれない。

 そうこうしている内に曲が終わり、私達は端へと移動する。

 私は、さっきの言葉の意味を聞こうとしたが、ユルヴァン様がやってきたことで止められてしまった。


「失礼。ルネをダンスに誘いたいのですが、構いませんか?」

「ええ。どうぞ」

「では、参りましょうか」


 返事をする前にユルヴァン様に手を取られ、私は再び中央へと連れて行かれる。


「あの、強引すぎやしませんか?」

「ちょっと、話をしたくて。フィニアス殿下に聞かれるとまずい話なのです」

「……変な話ではありませんよね?」


 フィニアス殿下に聞かせられない話と聞いて、私は疑いの目をユルヴァン様に向ける。

 彼は首を横に振り、違うと言った。


「陛下が君に話したいことがあるとのことで、こっそり連れてきて欲しいと言われているのです」

「話したいこと? こっそりということは、フィニアス殿下には内緒で、ということですよね?」

「ええ、そうです。転送の宝玉の件について、だそうです……。ついてきて下さいますか?」


 転送の宝玉の件? それは気になるかも。

 もしかしたら、元の世界に戻せるとか、そういう話なのかもしれない。

 でも、フィニアス殿下には内緒でっていうのが気になる。


「心配なさらずとも、陛下は何か企んでいるわけではなさそうです。ベルクヴェイク王国のお客人を陥れるような真似は致しません」

「……それは、そうですが」

「今は皇太子殿下に頼んでフィニアス殿下を足止めしてもらっています。話はすぐに済むそうですから。不安なら、君の護衛を潜ませておいても構いません」


 キールを? でも、彼は今どこにいるのか。

 姿を探そうと周囲に目を向けるが、見えるような場所にキールがいるわけない。

 それに今の会話も聞こえていないだろう。

 だけど、私を護衛してくれているのなら、移動したらついてきてくれるはず。


「本当に、話はすぐに終わるのですね?」

「ええ。陛下からはそのように伺っております」

「分かりました。案内して下さい」

 

 そうして曲が終わり、私はユルヴァン様に連れられ、会場の二階へと向かう。

 二階は歓談スペースになっているようで、壁で区切られて半個室状になっている。

 その内のひとつに案内されると、皇帝陛下がソファに座って私を出迎えてくれた。

 私は皇帝陛下に頭を下げ、さりげなく物陰へと視線を向けると、少しだけ顔を出したキールと目が合う。

 

 良かった。ちゃんとついてきてくれた。


「急に呼び出して申し訳ない。だが、今日話しておかねば、次はいつ話せるか分からないからな。とりあえず座ってくれ」

「失礼致します」


 皇帝陛下の向かいに私が腰を下ろすと、連れてきてくれたユルヴァン様や、使用人達が出て行き、二人きりとなる。


「……転送の宝玉の件でお話があると伺いましたが」

「まず、その前に、其方に尋ねておきたいことがある。最近、何か変わったことはなかったか?


 転送の宝玉の件を聞けると思ったのに、いきなりの世間話に肩透かしをくらってしまった。

 それにしても、変わったことね。


「特になかったように思いますが」

「では、質問を変えよう。不審な人物は見なかったか?」

「不審な人物ですか?」

「そうだ。其方は、ヴェレッド侯爵家に招かれていただろう? そこで、不審な人物を目撃しなかったか?」


 皇帝陛下に問われ、私は昨日、ヴェレッド侯爵家の門の付近で不気味な人物を見たことを思い出した。

 不審といえば不審だったけれど……。それがどうかしたのかな。


「不審と申しますか、フードを深く被った人を見かけました。ジッと私が乗った馬車を見ていたので、不気味だとは思いましたが、それがどうかなさいましたか? というか、何故、御存じなのですか?」

「いや、マクシミリアンから、屋敷の様子を見ている不審人物がいたという報告を受けてな。それで、聖女殿も見ていたのではないかと思って尋ねただけだ」

「ああ、そういえば、ジロジロと見ていた者がいたと使用人達が申しておりましたね。もしかしたら同一人物だったりするのでしょうか?」

「それは、まだ分からん。だが、港での一件もあるし、調べておいた方がいいと思ったのだ」


 確かに、それもそうよね。

 貴族の住まう場所で不気味な人を見たのに、誰にも報告しなかったのはまずかったかもしれない。


「実のところ、港の一件は犯人の目星がすでについている」

「もうですか? 早いですね」

「犯人が証拠をいくつか残していたのでな。どうやら、犯人は俺達に自分の正体をバラして、どう動くのかを楽しんでいるようだ。全く、腹の立つことだ」


 イライラしたように皇帝陛下が爪を噛む。

 予想以上の早さで捜査が進展しているのは喜ばしいことだと思うのに、彼の表情からは余裕など感じられない。


「まあ、犯人の目的は見えてきたので、後は簡単に捕まえられよう。さて、では、次の話題に入ろうか」


 次の話題、つまり転送の宝玉のことよね?

 緊張しながらも私は口元を引き締めた。


「先日、フィニアス殿下から転送の宝玉を使って聖女殿を元の世界へ戻して欲しいと頼まれた」


 やっぱり、フィニアス殿下は皇帝陛下に頼んでいたんだ。

 ショックで気分が沈み込む。

 だけど、私にはやり残していることがあるのよ。


「ですが、私にはアルフォンス殿下の魔力を吸収する役目がありますし、それに聖水だって……。すぐに帰るのは」

「エルノワ帝国にも吸収属性の者がいる。その者をベルクヴェイク王国に派遣するとフィニアス殿下に約束した。聖水は絶対になくてはならないものではないだろう? なくなったところで命に関わる者が出るわけでもない。よって、其方が元の世界に帰るのに支障はないだろうと俺は思っているが」


 もう、そこまで話し合われていたんだ……。

 自分の知らないところで話が進んでいたことに、私は戸惑ってしまう。


「それに、フィニアス殿下は国は関係なく、個人の願いだとも言っていたからな。それなら話を聞いてやろうかと思ったのだ。まあ、其方の同意があれば使うのは別に構わんのだが、少しばかり気になることがあってな。だから其方を呼んだのだ」

「……どういうことですか?」

「フィニアス殿下から其方が召喚されたときの詳しい状況を聞いたのだ。それによると、其方は『血縁のいない者』という条件で召喚されたらしいな。本当に元の世界に血縁者はいなかったのか?」

「ええ。私を引き取って育ててくれた両親からは、そう聞いております」


 話を聞いた皇帝陛下は顎に手を当てて何か考え始めた。


「……育ててくれた、か。ちなみに引き取られたのは其方がいくつのときだ?」

「生後間もない頃だったそうですが、それが何か?」

「いや、状況を聞いて気になることがあってな。其方の二つの属性、見た目、年齢を考えると、まさかという気持ちになった。だから、覚えている範囲で構わん。どういう状況で引き取られたのかを教えてくれないか?」


 質問の意図が分からず、私は口をポカンと開けた。

 私の過去を知ってどうするというのだろうか。


「其方には大したことのない話であっても、こちらとしてはとても重要な話なのだ」

「重要ですか?」

「ああ、とてつもなく重要な話だ。確認するためにも話してもらいたい」


 どういう事情なのか分からないけれど、皇帝陛下は私の過去を知りたいようだ。

 言ったところで何も問題はないから構わないが、どうしてそこまで知りたがるのか不思議だった。

 もしかしたら、転送の宝玉を使う上で必要なのかもしれない。

 なら、話しておいた方がいいよね。


「その、ですね。私は神社、というか神殿の裏の森に捨てられていたそうです。かなりの高熱で命が危なかった私を見つけてくれたのが今の両親なのですが、すぐに医者に連れていってくれたお蔭で一命を取り留めたそうです。誰の子供なのか両親は手を尽くして探してくれたみたいですが、親を見つけることはできずに天涯孤独の孤児として子供のいなかった両親が引き取ることになったと聞いています」

「……ちなみに、其方の心臓のある辺りに痣はあったか?」

「なぜ、それを御存じなのですか!?」

「ついでに言うと、その痣は熱が下がったら消えたか?」

「え? えぇ。綺麗になくなっていたそうですが……」


 私が答えると、皇帝陛下は目を瞠った。


「やはり、そうなのか……。あり得ないとは思っていたが、こんな奇跡があるなど」

「あの、皇帝陛下?」


 あり得ないとか奇跡とか聞こえたけれど、どういうことなの?

 それに痣のことも知っているなんて……。どうして、両親や医療関係者しか知らなかったことを皇帝陛下は知っているのか。

 どう考えても、転送の宝玉を使うのに情報を聞き出そうとしているように思えない。


「これは転送の宝玉を使うのに必要なお話なのですよね?」


 確認するように問うと、皇帝陛下は押し黙ってしまう。


「一体、どういうことなのでしょうか? 説明して頂きたいのですが。それに、こちらの方が御存じでない痣のことも仰っておりましたし」


 皇帝陛下は視線を逸らして、言おうかどうかを悩んでいるように見えた。

 わざとらしく咳払いをした皇帝陛下が、ゆっくりと口を開く。


「いや、転送の宝玉を使うのに必要な話ではないのだ。……実はだな。俺は二十年ほど前に転送の宝玉を使って、ベアトリスの娘を異世界へと転送したことがある」

「え!? ベアトリス様のお子様は亡くなられたはずじゃ」

「死んでない。死にそうになっていたから、異世界に転送したのだ。その娘は分解と吸収の半能力半魔法属性で黒髪に茶色の目をした、薄い顔の赤子だったのだ」


 ……それ、なんかどっかで聞いたことがあるような。


「で、今、目の前にいる其方。其方は分解と吸収の半能力半魔法属性で黒髪に茶色の目をしている。おまけに薄い顔立ちでウメ殿と瓜二つ。しかも、発見されたときの状況が当時のベアトリスの娘と同じだった。率直に言おう。俺は、其方がベアトリスの娘ではないかと疑っている」


 …………え? 私が?

 思いも寄らないことを言われ、私は唖然とする。

 確かに、情報だけでいえば一致しているけど、言われて、はいそうですね、なんて納得できるわけがない。


「ぐ、偶然です! 偶然に決まっています!」

「だが、見た目や属性、痣のことも考えるとそうだとしか思えん。偶然にしては同じ点が多すぎる」


 皇帝陛下はかなり確信を持っているようで、口調もしっかりとしていた。

 対して私は半信半疑。むしろ嘘だと思っている。

 疑っているのが皇帝陛下には分かったのか「なら確認してみよう」と言い出した。


「……其方の年は二十であったな」

「はい」

「誕生日は?」

「おそらく秋頃、十月の後半あたりではないかとのことでした」

「そうか。ベアトリスの娘も十月の後半に生まれている。それと其方、右足の裏に黒子があるだろう?」

 

 言い当てられて、私はギョッとした。

 召喚されてから、私は一度たりとも足の裏を誰かに見せたことはない。その情報を皇帝陛下に教える人は誰もいないはず。


「やはり、あるのだな。ここまで一致していたら、疑う余地もないだろう」

「いや、まさかそんな! ……あ、そうだ! 召喚の宝玉と対になっているっていうのなら、使い方は同じですよね? どういう条件で使ったのですか? 私のいた世界と違っていれば、否定できます」

「俺が条件にしたのは、呪いの解ける者がいることと平和な世界であることだ」

「呪い? ということは、その子は呪術を?」


 神妙な顔をした皇帝陛下が頷く。


「稀な属性を持った子が生まれたことで、マクシミリアンと権力争いをしていた者が、これ以上ヴェレッド侯爵家が権力を持つことを恐れて、帝国一と言われた呪術師に頼んで生まれたばかりのベアトリスの娘に呪いをかけたのだ」

「ひどい……」

「ああ、酷い話だ。だが、俺達では呪いをどうすることもできず、このまま娘の死を待つしかなかった。それでベアトリスに頼まれて俺は転送の宝玉を使ったというわけだ」


 想像することしかできないけれど、多分ベアトリス様は藁にも縋る思いだったのではないだろうか。

 権力争いのために生まれたばかりの赤ん坊に呪いをかけるなど人間のやることではない。


「で、其方のいた世界と違っていたか?」


 考え込んでいた私は、皇帝陛下から声をかけられ我に返る。

 呪いを解ける者がいたのかは分からないけれど、平和な世界であったことは確かだ。


「私のいた世界は、というか日本という国は平和です。戦争もありませんでしたし、お金がある程度あれば、人並みには暮らして行ける国です」

「ということは、其方がベアトリスの娘であるという証拠がまたひとつできたな」


 そうなんだよねぇ。さすがに黒子のことまで言い当てられたら、反論できない。

 全然実感なんかないんだけど、ここまで一致しているとなるとね。

 というか、私がベアトリス様の娘ということが信じられないのは、あの顔面偏差値の高いベアトリス様から私が生まれたってことよ!

 全然、似てないじゃない! 仮に娘だったなら、もっと恩恵があってもいいはずよ!

 大体、日本人にしては濃い顔をしているけれど、いわば日系人と西洋人との間に生まれた子と同じなのだから、遺伝子的にもっと外国人顔に生まれているはずでしょうに。


「あの、仮に、仮にですよ? 私が本当にベアトリス様の娘だった場合、皇帝陛下はどうなさるおつもりですか?」

「別にどうもしない」

「はい?」

「ベアトリスがどう出るのかは分からんが、俺は単純に無事で良かったと思うだけだ。ただ、フィニアス殿下が其方を元の世界に帰す条件が使えなくなったな、とは思ったが」

「……ちなみに帰す条件とは?」

「『其方が生まれた場所』という条件だ」


 ああ、それは難しいよね。

 だって、私がベアトリス様の娘だった場合、生まれた場所という条件で転送の宝玉を使っても、出るのはヴェレッド侯爵のお屋敷になるもの。

 もしかしたら、本当に偶然の一致ってだけで元の世界に帰れるかもしれないけど、確実に帰れるという確証はない。


「俺は、その条件で転送の宝玉を使っても構わないと思っている。そうすれば、其方が本当にベアトリスの娘かどうかを確かめることができるしな」

「仮にそうなった場合、私はどうすれば」

「それは其方が考えろ。大体、其方だって実の両親のことを知りたいとは思わんのか?」


 いや、まあ、好奇心で知りたいとは思っていたよ?

 両親と血が繋がっていないと知って、私は実の両親がどういう人だったのかって気になっていたし。

 私が望まれて生まれた子供なのか知りたいと思っていたのだもの。

 でも、こんな簡単に見つかるかもしれないなんて思ってなかったから。それに、私がこっちの人間だったなんて思いもしていなかったし。

 実の両親が分かるかもしれないということよりも、私がこっちの人間かもしれないということの方が衝撃が強いんだよね。


「ああ、それと転送の宝玉を使うかどうかは其方が決めよ。心が決まったら俺に伝えてくれ。俺としては、宝玉を使って真実を明らかにして欲しいところだがな」

「別にどうも思わないと仰っていたではありませんか」

「俺はどうも思わんが、ベアトリスは成長した娘に会えるかもしれないのだから、喜ぶだろう。俺は妹の喜ぶ顔が見たいだけだ」


 皇帝陛下、意外とシスコンなんですね。

 思わず口から出そうになって、私は慌てて口を噤んだ。


「フィニアス殿下には、滞在中に転送の宝玉を使うとは言ってあるから、なるべく早めに教えてくれ」


 それだけ言うと、用は終わったのか皇帝陛下は立ち去って行った。

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