23・エピローグ
「面白いのう」
クレアーレは水面に映る瑠音とフィニアスの様子を見て、笑みを零す。
彼女にとって、気に入った者同士の仲が良いのは喜ばしいことだ。
このまま、瑠音がこちらに留まってくれればいいのに、と思いながら、彼女はしばらく二人の様子を眺めていた。
「さて、あちらはどうかのう?」
クレアーレの言葉に、水面に映っていた場面が切り替わる。
そこに見えたのは、帝位を狙っていたイヴォン。
彼は、ひっそりと帝国に入り込み、貴族と親交のある女性と懇意にしているようだった。
「女の方はイヴォンだとは気付いておらぬようじゃのう。それにしても、あの男はまだ皇帝の地位を諦めておらぬのか。欲の深いことじゃ」
これは、もう一波乱ありそうだ、とクレアーレは思うが、人のことに口出しはしないと決めている以上、誰にもこのことを伝える気はない。
「まあ、帝国の貴族を味方に付けている皇帝が、そう簡単に負けるはずもないが……。同じ祖を持つというのに、ここまで中身に違いがあるとは、ほんに人の子というのは面白い」
八百年前に出会った二人の兄弟。
武勇に優れた兄と知性に満ちた弟。共に心優しく勇敢な少年であった。
兄の方は土の神・テラメリタに愛されたため、彼女は弟の側にいることを選んだ。
勿論、兄も弟も同じように愛していることに変わりはない。
「血というのは、不思議なものじゃ。顔も性格も違うのに兄と属性を持ち、同じ匂いがするとはな……。いや、無茶をするところは似ておるな」
何百年か振りに生まれたときにクレアーレは喜んだが、すぐに手の届かぬ場所にいってしまい、悲しみにくれた過去が懐かしい。
だが、こうして再び会えた。
それだけで、彼女にとっては幸せ。再び手放すことなど、もうできなかった。
「……当の本人達はどうしておるかのう?」
再び、水面に映っていた場面が切り替わり、今度は見目麗しい青年と妖艶な美女が映った。
青年は美女に向かって、よく知る人物に似た少女の話を口にすると、彼女の表情が驚きに変わる。
そして、近くにいた中年の男性に興奮した様子で駆け寄り、是非会いたいとねだっていた。
「ほう。存在を知ったか……。これはどう動くのか楽しみじゃのう」
クレアーレが水面に手をかざすと、それまで映っていた場面が静かに消える。
顎に手を当てた彼女の口はニンマリと笑っていて、非常に満足そうな様子であった。
「己の出自を知って、どう出るか……。どのような選択をするか。本当に楽しみじゃ」
手すりから手を離したクレアーレは、部屋の奥へと消えていった。