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16・逃亡と再会

 牢屋に入ってきた兵士に見張り達は「どうした!?」と声をかけた。

 よほど切羽詰まっているのか、牢屋に入ってきた兵士は息を整えることもせずに大声を上げる。


「屋敷から火が出た! 消化するから急いで来てくれ! 旦那様もご家族も客人も無事だが、火の回りが早くて人手が足りない!」

「なんだと!」


 報せを聞いた見張りの兵士二人は慌てた様子で牢屋から出て行ってしまった。

 火事、と聞いて私の体から嫌な汗が噴き出す。

 で、でも、さっきの兵士は客人も無事って言ってたし。

 なら、フィニアス殿下が安全な場所にいるのを誰かが見ているはずだと安心した私は、胸に手を当てて息を吐いた。

 それにしても、人手が足りないからって見張りの兵まで連れて行くなんて、かなり大規模な火事なんじゃ……。


 ……………………あれ? ちょっと待って。


 見張りの兵士まで呼びに来たということは、他の場所にいる兵士も消火活動に駆り出されているはず。

 ってことは、見張りのいない今なら普通に逃げられるんじゃない?

 そうと決まれば、と壁に手を当てて分解しようとした瞬間、斜め向かいの男の人がうめき声を上げたことで、私は動きを止めた。


 屋敷とここがどれくらい離れているのか分からないけれど、木に燃え移って、もしかしたらここまで火の手がくるかもしれない。そうなったら、あの人は逃げ出せずに死んでしまう。


 どうしよう、あの人も連れて行く?

 でも、暗殺者って言ってたし、犯罪者だよね。

 だけど、明日殺されるとか言ってたし、あの人も騙された立場っぽいし。

 それに、ここで見捨てたら、多分、きっと絶対に私は私を許せない。

 と、分かっているんだけど、犯罪者なんだよね、この人は。

 ……あ~~~~~!!!


 私は、頭を抱えて数秒考えた。

 結果。


 ………………………………よし! 連れて行こう!


 置いていったら、絶対に私は後悔する。

 罪悪感でいっぱいになる。

 暗殺者って言っても、あそこまで怪我をしてたら動くのは大変だろうし、武器もないし、私に危険はないはず。

 国王派の人に合流して、彼を託そう。あの人は先代皇帝側の情報を色々知ってるみたいだし、きっとフィニアス殿下達の助けになるよね。

 そう決めた私は、鉄格子の鍵に触れ、砂鉄のようになるイメージをする。

 間もなく鍵は砂状になって、なくなったことで扉が開けられるようになり、私は通路へと出て、斜め向かいの鉄格子の鍵を先ほどと同じ要領で分解した。

 中へと入った私は、驚いてこちらを見ている彼の腕を私の肩に回し、強引に立ち上がらせる。

 寄っかかられてよろけてしまうが、助けると決めたんだ、とその場で踏ん張った。


「……し、しにたくなかった、ら、じぶんの! 足、で! 歩いて……!」

「……」


 喋る元気もないようだったが、話は通じたらしく、私の体の負担が少し軽くなる。

 そのまま、私と彼はゆっくりと通路に出た。

 さすがに、二人分の穴を開けるのはできるか分からないし、周囲に兵士がいないか扉から外の様子を見た方がいい。

 ゆっくりと一歩ずつ出入り口まで歩いて行き、私は扉をちょっとだけ開けて外の様子を窺う。

 周囲には人気がなく、少し遠くが明るくなっており、あっち方面が火事になっていると分かった。

 今なら森の方に行っても気付かれないと思い、私と彼は森の方へと移動した。

 裸足だったので、砂利や大きめの石を踏んで痛かったが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 遠くから人の声が聞こえてきて、その声がいつこちらへ近づいてくるかと思うと怖かった。

 大人の男の人を支えて歩くのは思った以上に大変で、私は兵士に見つかりませんようにと願いながら、やっと森の中へと入ることができた。

 あとは小川を目指すだけ。

 どこにあるのかはわからないけど、裏手を真っ直ぐ歩けば着くよね? と、塗装もなにもされていない森の中を私と彼はひたすら歩いた。


「……あっち、だ」

「え?」

「おがわは、あっち」


 左方向を指差している彼。

 本当? と疑ってしまうが、私だって小川がどちらにあるのか分からない。


「本当にあっちなんですね」

「……ああ」


 喋るのも大変そうな彼が、ここで嘘を言う必要はないと思い、私は左方向へと進路を変えた。



 どれくらい歩いただろうか。

 木の枝や石を踏んで歩いているため、足から血が出ていた。

 膝から下も切り傷と打撲で酷いことになっている。

 だけど私も彼も歩みを止めない。

 死にたくない、という思いが私の足を動かしていた。

 息が切れて呼吸がしにくい。限界が近いのかもしれないけど、倒れるならモーンシュタイン伯爵領で倒れたい。


 こうして無言で歩き続けた私達は、ようやく目的の小川に到着することができた。

 小川の幅はそれほどなく、水深も深くなさそうに見える。

 自力でなんとか川を渡り切れそうで安心して腰が抜けそうになるけど、まだだ。

 まだ、小川を超えていない。


「小川ですよ……もうすこしです」


 私も彼も水の冷たさに耐えながら最後の力を振り絞って、小川を渡りきった。

 水に濡れた足に土や草がくっついて不快だけど、もう少し歩かなきゃ。

 そう思ったのに、二、三歩歩いて、もうダメだと私がその場にへたり込むと、彼も限界を超えていたようで、立っていることができずに地面に倒れ込んだ。

 これで誰かに見つけてもらえたらいいんだけど、と、私は地面に座ったまま周囲を見回す。

 しばらくは何の変化もなかったが、やがて遠くから明かりが近づいてきているのが見えた。

 背後からだったなら、ザフィーア子爵の追っ手かと思ったが、前方である。

 すでにここはモーンシュタイン伯爵領。近づいてくる人もモーンシュタイン伯爵領の人だと思う。

 安心した私の目に涙が浮かぶ。でも、まだ泣いちゃいけない。

 ちゃんと全てを説明しないといけない。

 袖で目元を拭っていると、私の耳に慣れ親しんだ人の声が聞こえてきた。


「ルネ!」

「フィニアス殿下!」


 一目散にこちらへ駆け寄ってきたフィニアス殿下は、座り込んでいた私に抱きついてき……って、えぇ~~!!!

 

「本当に……、本当に無事で良かった……! 貴女に何かあったら、私は……私は……」

「ででで殿下! なに、なにして……!」


 フィニアス殿下に痛いくらいに抱きしめられ、私は思いっきり取り乱していた。

 いくら安心したからといって、いきなり抱きついてくるなんて……!

 お蔭で一瞬だけ、足の痛みとか忘れたけど……! 涙も引っ込んだけど……!

 あと、後ろでテオバルトさんが慌ててますよ!

 モーンシュタイン伯爵の兵か殿下の兵か分からないけど、気まずそうに目を逸らしてるじゃないですか!

 って、言いたいのに、フィニアス殿下の腕の中は妙に居心地がよくて口にすることができなかった。

 しばらく私を抱きしめていたフィニアス殿下だったが、見かねたテオバルトさんに声をかけられたことで我に返り、すぐに私から体を離した。


「済みませんでした。安心して」

「いえ、私も安心しました。助けにきていただき、ありがとうございます」


 優しげな笑みを浮かべていたフィニアス殿下であったが、私の足に目を向けると表情を険しくさせる。


「あ、裸足で歩いてきたので」

「見せて下さい。簡単な治癒魔法であれば使えますので、応急処置をしておきましょう」

「はい、お願いします」


 私の足に手を近づけたフィニアス殿下は、何やら呪文を口にしている。

 手を当てられている箇所がほんのり温かくなり、私はこれが治癒魔法かと感動していた。


「ところで、ルネ。そこに転がっている男はなんですか?」


 なぜか棘のある言い方に、勝手に暗殺者を連れてきたことを責められていると思った私は、詳しい説明をしようと口を開く。


「こ、この人は……名前は知らないんですけど」

「知らない男を連れてきたんですか!?」

「あの、先代皇帝陛下側が雇ってた暗殺者? っぽくて」

「どうしてそんな危険な男と行動を共にしたんです!?」

「いや、一人じゃ歩けないぐらい弱ってたんで、大丈夫だと思ったんです」


 必死に私は言い訳を口にするが、フィニアス殿下もテオバルトさんも呆れたようにこちらを見ていたことで、私は慌てた。


「でもですね! この人は逃げようとして捕まったみたいなんです。あちらの情報を知りすぎたからって殺されそうになってたんですよ。だから、何か情報を得られるかもっていう打算もあったり、なんかして……」


 反応が見られず、私の声が徐々に小さくなる。

 少しの間呆然としていたフィニアス殿下達は、ハッとした後で顔を見合わせた。


「誰か! この男の治療を!」

「重要人物ですので、丁重に扱って下さい!」


 周囲にいた兵士に声をかけ、暗殺者の彼が運ばれていく。

 あ~良かった、と彼を見送った後で、私もモーンシュタイン伯爵の屋敷へ移動となる。

 のだが。


「あの、フィニアス殿下。おろして下さい。靴があれば歩けますから」

「残念ながら靴はないので、大人しくしていて下さい」

「重いと思うので、おろして下さい」

「成人男性を抱えられるくらいには鍛えていますから、ご心配なく」


 なぜか私は、フィニアス殿下に抱っこされた状態で、移動していた。

 兵士の人達の視線が痛い。

 何か他の話題を振ろうと思い、私は色々と考えて、そういえばテュルキス侯爵って味方なの? と気になっていたことを思い出した。


「……フィニアス殿下、テュルキス侯爵のことなんですけど」

「それは、屋敷に戻ってからお話しします」


 早口で言われたことで、ここでは話せないことなのだと察し、私は慌てて他の話題を口にした。


「……アルフォンス殿下は大丈夫ですか?」

「ええ、あの後すぐに屋敷で保護しましたから、大丈夫ですよ。安心して下さい」


 保護されていると知り、私は安堵の息を吐いた。


「あの子は貴女が居なくなって、ずいぶんと落ち込んでいました。ですので、こうしてルネの無事を確認できて、本当にホッとしています」

 

 そんな話をしながらしばらく歩いていると、大きなお屋敷が見えてくる。

 フィニアス殿下によると、あれがモーンシュタイン伯爵の屋敷だそうだ。

 屋敷に入り、出迎えてくれた伯爵はフィニアス殿下に抱っこされた私を見て驚いていたが、すぐに表情を戻して客室へと案内してくれた。

 部屋に入り、フィニアス殿下によってベッドへと降ろされた私は、人払いをしたテオバルトさんから声をかけられる。


「なぜ牢屋から逃げたんだい? テュルキス侯爵から助けが来るとそれとなく臭わせていたと思うんだけど」

「……あれ、逃げろって意味じゃなかったんですか!」

「どうして、そう解釈したの!?」

「だって、兵士の意識は屋敷に向いてるし、見張りの交代が九時前後で、裏手の森の小川を超えたら国王派のモーンシュタイン伯爵領って言われたら、隙を見てそこまで逃げろって言ってるようなもんじゃないですか!」


 違うんですか! と口にすると、テオバルトさんとフィニアス殿下が同時に手を額に当てた。


「あれは、小川が境界線だと知らせることで、貴女をそこまで連れて行く兵士のことを信用して貰うためにわざと聞かせたそうですが……いや、確かにそうとも受け取れますね。まさか、ルネにそこまで行動力があるとは思っていなかったこちらの落ち度でもあります」

「牢屋に向かった兵士から、君がいないと報告を受けた我々がどれだけ驚いたか……」

「……すみませんでした。でも、どうして私がここにいるって分かったんですか?」


 とんだ斜め上の発想をしてしまい、余計な心配をかけてしまったことが申し訳なかったが、どうやって私がここにいることを知ったのかが気になった。


「貴女が誘拐されたところを見た人がいたのです。その人は、馬車の紋章を見て気付き、すぐに私に教えてくれたのです。それで、迅速に動くことができました」


 そうだったんだ。偶然でも見ていた人がいて助かったよ。

 お蔭で、こうして助けて貰えたんだから。

 だけど、牢屋に助けが来る予定だったということは、あの火事はフィニアス殿下達が仕組んだことだったの?


「じゃあ、火事は」

「あれは、うちの手の者がやりました。食事中で皆が揃っている時間帯でしたので、死者は出ませんでしたが。まあ、今も燃え続けていますけど」

「意外とやることが過激ですね……」

「兵を全てこちらに引きつける必要がありましたからね。うちの兵を賊として侵入させると絶対に死者が出ましたし。それに昼間の間に色々と証拠を回収していたので、燃えても大丈夫だとヨアヒムが言ってました」

「ヨアヒム?」


 聞いたことのない人名に私は首を傾げていると、ガチャッと音がして、牢屋で会ったテュルキス侯爵が部屋に入ってきた。


「ヨアヒムとは儂の名だ」


 特に笑顔を浮かべることもなく、無表情のまま彼は近くのソファに腰を下ろした。

 彼が部屋に入ってきても、フィニアス殿下やテオバルトさんが慌てる様子は見せない。

 ということは。


「……やっぱり、フィニアス殿下の味方だったんですね」

「フィニアス殿下、というよりも王家の味方と言った方が正しい。それとフィニアス殿下、儂のことは名前で呼んではなりませんと申し上げたはずですが」

「失礼しました。どうも、味方ばかりの場だと気が緩んでしまいまして。それよりもザフィーア子爵はどうなりました?」

「屋敷はほぼ全焼ですし、王都の屋敷に戻るそうです。病気の妻を理由に領地に戻っていたのに、お可哀想に。それと人身売買、違法薬物の密輸、税収の虚偽報告、そして先代皇帝陛下の側近との手紙。言い逃れのできぬ証拠を部屋から拝借しておりますので、式典後に陛下から処分が下されるかと」

「苦労をかけましたね」

「大したことではございません」


 フィニアス殿下と話しを終えたテュルキス侯爵。

 殿下の味方じゃなくて王家の味方って言っていたけれど、じゃあ、私が王城で聞いた五十年前の話はどこまでが本当の話なんだろう。


「テュルキス侯爵が王家の味方であるのは分かりましたけど、なら、城内で噂されていた戦争の話はどこまでが事実なんですか?」


 五十年前の戦争で捨て駒にされたという話。

 あれが事実だと思ったからこそ、私はテュルキス侯爵が国を滅ぼそうとしていると思ったのに。

 という私の疑問に、テュルキス侯爵が、ああ、その噂か、と言いながら話し始める。

 その説明によると、五十年ほど前の戦争では、捨て駒にされたのではなく、そもそもテュルキス侯爵の父親が自ら囮になることを申し出て、当時の陛下が泣く泣く案をのんだのだという。

 戦争後も気にかけていただき、エルツを発見したときも国が権利を主張することもなく、研究の援助をしてくれた。

 恨むなどとんでもない、らしい。

 ただ、国を恨んでいるという噂を否定しなかったのは、ザフィーア子爵のような腐った貴族にボロを出しやすくさせて証拠を得るためなのだというのが、真相であった。

 

「今回のように攫われたときに拷問にかけられ、儂が王家の味方であるとばらされたら大変なことになる。だから、フィニアス殿下には本当のことを話さぬようにと伝えておった。申し訳なかった」

「私からも謝罪します。すみませんでした」

 

 二人から謝罪を受け、私は気にしていないと首を横に振った。


「結果的に無事でしたから。それに、今ちゃんと教えてもらいましたし」


 だから、大丈夫です! と私は答えるけれど、フィニアス殿下の表情は曇ったまま。

 一方、テュルキス侯爵は、私の感情などさして気にも留めていないのか、あっさりと話題を変えた。


「ああ、それと君に関してだが、牢屋も焼け落ちているから、火事で焼け死んだということになっておる」

「はい!?」


 何か勝手に殺された!?


「表向きは城内で事故死したということにする。お主が生きているとなったら、ザフィーア子爵から命を狙われるだろう。ということで、君は事が終わるまで、王都にあるフィニアス殿下の屋敷で生活してもらわねばならん。この屋敷でも良かったのだが、フィニアス殿下がどうしてもご自分の屋敷で面倒をみると言って聞かんのでな」

「王家がルネを守ると契約していますから、それを違えることはできません」

「本当に、厄介な契約をしてしまったものですね」


 テュルキス侯爵の苦言にフィニアス殿下は苦笑を返した。

 けれど、フィニアス殿下はすぐに真剣な表情になり、こちらへと視線を向ける。


「ここ数日、色々とあって疲れているとは思いますが、聞かせて下さい。貴女が連れてきたあの男。彼は本当に先代皇帝陛下側が雇った暗殺者なのですね?」


 フィニアス殿下の言葉に私は力強く頷いた。


「私が牢屋にいるときに、イヴォンが彼に会いに来て、そう口にしていました。私が見たイヴォンが王妃様の仰ってたイヴォンと同じかどうかは分かりませんけど」

「イヴォンが!?」


 部屋にいた三人はイヴォンの名前を聞いて驚いている。

 そうだよね。先代皇帝の側にいる人が、こんな簡単にベルクヴェイク王国にいていいのかって私でも思うもの。


「お主の申しておることが事実であるならば、保護した男から情報を得ることができよう。こちらとしては大助かりだが……話ができる状態なのか?」


 テュルキス侯爵はチラリとテオバルトさんを見ると、彼は一礼した後で説明を始めた。


「怪我と衰弱が激しく、意識もありません。ですが、命に別状はなさそうなので、近日中には話を聞けるかと。まずは、回復してもらわねばなりませんが」

「そうか。ならば、手厚く看病せよ。恩を売って、こちらに付いた方が利があると思わせよ」

「はっ」


 命に別状はないと聞いて、私はひとまずホッとした。

 だけど、ただでは助けないという裏事情を聞かされ、なんともいえない気持ちになる。

 王国側の事情を考えれば仕方ないことなんだけど。


「話が聞けるのは奴が王都に来てからになるか。まずはユリウス陛下にご報告せねばなるまい。こうして成果を得られたのだから、喜んでくれよう。……では、私はザフィーア子爵の監視に戻ります。それと殿下。あまり長居せずに宿へとお戻り下さい」


 そう言って、テュルキス侯爵は部屋から出て行った。

 シーンとなった部屋で、口を開いたのはフィニアス殿下。


「……真実を知ったら、もっと貴女は怒るかと思っていました」


 真実ってテュルキス侯爵のことだよね?


「いえ、話が壮大すぎて怒るどころの話じゃありませんでしたから。それにテュルキス侯爵が言ってた通り、拷問されたらあっさり私は口を割ると思うので、秘密にしていたことは間違っていなかったんだと思いますよ」


 思ったことを口にすると、フィニアス殿下はそれは大きなため息を吐いた後で顔を伏せた。


「どうして君は……そこまで優しいのか」

「そうですかね?」

「そうですよ。普通は怒ります。最初から騙されていたんですから」

「……言われてみればそうですね。でも腹が立たないんですよね」


 死ぬかも知れないという状況から助かって、興奮しているせいもあるのかもしれない。

 あと、敵だと思っていたテュルキス侯爵が味方だって知って安心したのも関係があるのかも。

 

「何にせよ、声を荒らげて興奮されるよりはマシではありませんか?」


 という、テオバルトさんの言葉を合図に話は終わった。


 翌日、テオバルトさんからフィニアス殿下達が王都へと戻ったと聞かされ、私が王都へと戻るのは暗殺者の男の人の回復を待ってからになると教えられた。

 テオバルトさんは、暗殺者の男の監視と私の護衛として、ここに残ることになったらしい。

 知らない人ばっかりで緊張していたから、見知った人がいて安心した。

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