Epilogue「Diary 2047.4.28」
2047年4月28日(月)天気:雨
あいつが寿命を失って1ヶ月。
個人的に日記がこんなに続くなんて、思っていなかった。
病床で見せてもらったノートを、終わらせてはいけない。
あいつはまだここにいてよかったんだという証明としてペンを握ったのは、あの日の翌日からだった。
俺や雪音は4月から大学に進学。
相変わらず《眼》を気にして暮らすのが億劫で、同級生には言いふらしてばかり。
理は相変わらず親を離れてここに居候。
それでも彼の頭脳は本部の活動に欠かしちゃいけない。
夏希さんは組織が壊滅してから飛躍的に売れ始めて。
MEIに加入してからは俺を弄るばかり。
…何というか、俺に日記は向かない。
字が下手で、あいつと俺の境界線の頁が一目瞭然で。
段々何を書いているのか、筆を走らせる内に見失っていく。
あいつの字に連ねて日々を記すのは、少し面映ゆい。
きっと急に自分たちのことを書きたくなったのは、あいつに今のMEIを見て欲しかったからなのかも知ない。
呪われた《眼》に厳しい世界でも生きて、歌い、グダり、偲んで。
初めてあいつと《眼》と《眼》の文字盤をかち合わせた時、あいつは俺のことを同じ境遇にいる仲間だと思ったのだろう。それは俺も同じだ。
だけど、同時に息苦しさを俺は感じた。
---生きている時間が違う、と。
過去と現在では、ラジオのダイヤルがずれているようで、どうにもしがたい《差異》があった。
周波数が合わなくて、お互いに知り得ない場所があった。
いつだったか、雪音が言っていた。
過去は寵愛するべきものだよ、と。
初めて言われた時、俺はその言葉を半笑いで流したが、あいつと出会った時にふと、だが深く、俺は鑑みた。
こいつには、寵愛する過去さえない。
それさえも、許されない、と。
過去を司る者の性として、心臓の血が泣いたのかも知れない。
こいつに過去の在り方を伝えて、それを伴う生涯を教えてやりたい。
辛くても残酷でも、その上にお前は在るって、言い放ってやりたい。
そんな思いが突沸した時には既に、俺はあいつに声を掛けていた。
目的を遂げるには《差異》を埋める必要があった。
35年。17歳だった俺には果てしない年数。
だからこそ、周りの存在は本当に大きなものだった。
雪音に理、先輩、リーダー。
《眼》を宿す者同士として、最大限の助力を貰った。
その約束は、果たされる。
実感を得た。1ヶ月前、あの病床で俺とあいつは完璧に一体化した。
それはまるで、文字盤の長針と短針が1日の変わり目で重なったように。
あいつは、皆の未来は私が保証するから、と言ってこの世を去った。
未来を見据える者として。
だから俺もそれに言葉を返してやろうかな。
ここに書いたからって、あいつに届くわけじゃないけれど。
---黒乃の過去は、俺が保証した、と。




