【閑話】 行きたい場所
差し込めない!けど、書きたい!そんなネタが出てきたので、早い気もしますが閑話です。
ある日の放課後。いつものように翔の家で二人は寛いでいた。佳子が話し、翔が聞く。翔が甘えて、佳子か照れる。そんな繰り返しも、もう300年立つ。
翔は基本動かない。人間の事はただの食料袋としか思っていないし仲間もいないから、誰かに会いに行く事もない。住居も佳子がここに居てと言うから動かずに待っているだけで、日が当たらなければどこだって構わなかった。
佳子と出会ってから翔が受け取る刺激は、佳子が与えたものだけだ。視覚も嗅覚も聴覚も触覚も味覚も。佳子が側にいなければ、目を開けるどころか、息もしなかった。
せめて人の気配がしたら見つからないように逃げてね、と佳子に頼まれているので本当に稀にくる人間に会わないように動くことはあった。白雪姫の王子様が現代だって居ないとは、限らない。
だから、翔がこんな事を言うのは珍しかった。
「城に行きたい」
「突然だね。どうしたの?」
「前に見たんだよ。なんか昔を思い出した」
へー、と佳子は頷きながら佳子は考えた。
「城って言うとなんだろ?ロワール地方の?私はドイツのノイシュヴァンシュタイン城をこの前テレビで見たよ!綺麗だよね!」
「そういうのなら、俺はセゴビアのアルカサルが良いわ。スペイン」
「要塞じゃん!」
「機能美だろうが」
「あーでも海外かぁ。まだ本堂佳子のパスポートがないや。ルゥも海を渡るのに準備がいるね」
「まぁ俺が行きたいのはそこじゃない」
「ん?じゃあ日本?姫路城?」
「…お前、何気に白が好きだな」
言われて、佳子は顔を赤くする。俯く前に無意識に見たのは翔の白銀の髪だ。
何故佳子が突然照れたのか翔は理解して、満足気に笑った。
「そんな本格的な城じゃなくて、近くにあるやつだよ」
「近く?あったっけ?」
「うん。国道沿いの。夜、光ってたよ」
「?? ライトアップ?」
「まぁ宿泊施設らしいけど。hotelって書いてあった」
ああ、と佳子は顔を赤くした。今世紀最大に。今度は翔は照れた理由を理解出来なかった。
「…?なんかさ、入り口にイルカのオブジェがあったんだよ。ロビーに巨大水槽でもあるなら行きたいな、と。水族館は餓鬼が来るからウザいし。ラスベガスにもそんなホテルあったろ?あれはカジノか。魚見たい、魚」
「あー、うん、翔さん。ちょっと落ち着こうか」
「なんだよ」
「その反応からみるに、もしやその宿泊施設が何なのか理解してない?」
翔は眉間にシワを寄せた。理解してないらしい。
佳子はアレ何コレ何と聞きたがる子供の親の苦労を思い知った。しかも厄介な事に翔は子供じゃない。
「えっと。今行くと警察に捕まるから止めとこう」
「え。なにそれ。どういう事?」
「それに、行っても利用出来ないし」
「ラウンジとかもないわけ?」
「……とりあえず、諦めて」
「ケイが質問に答えないの珍しいね。何なんだあの城」
佳子は学ぶ事の喜びを至上だと感じている。だから、聞かれれば知っている事は何でも答える。喜びを分かちあう為に。でも。この先は佳子に答えることは出来なさそうだった。もうこれ以上顔は赤くなれない。
無知男子可愛い(*´Д`)
きっと利用方法を知ったら佳子をからかうのに使うんだろうな。宿泊はしませんが