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人間④

「駄目だよ可奈、ちゃんと時計見て動かないと」


「そーだね。ごめんなさい」


「やっぱり可奈には俺がいないと駄目なんだから」


 ぐっと力強く可奈の頭が引き寄せられ、徹也の肩に乗せられる。可奈は歩きづらいなと思った。でもなぜだろう、身体は甘えるように徹也にすりついて離れようとしない。


「うん。私は徹也がいないと駄目みたい」


 そうだっけ?私、そんな事思ってた?

 不思議だった。全身はこんなにもリラックスしていて、口は徹也を肯定している。頭でだって納得している。可奈という人間を作るいったいどの部分が何に違和感をもっているのか。


 ふと気付くと何時もと違う帰り道だった。知っている道。ただ、最短距離では無いと言うだけ。何故こんな道をわざわざ通るんだろう。こんな、小学校の時の通学路なんて。


 ここには小学生の頃よく遊んだ公園がある。遊具は滑り台のついたジャングルジムと鉄棒とブランコがあって、後は3方向を樹木と高いネットが囲ってあるだけの広い空間。日曜の朝早くから遊びにいくと老人会がゲートボールをしているのを見かけた。


 二人は公園へと入っていく。行こうと言われた訳じゃない。可奈も懐かしく思ってはいたが声に出した訳じゃない。でも何故かこうする事が普通だと思った。なのに。

 心臓がどくり、どくり、と存在を主張する。この現象はなんだろうと似た場面を可奈は探していた。ホラー映画かな。なんでだよ、恋愛ドラマだろう。


今、心の中で、否定したのはだれ?





「こんばんは」


「佳子?」



 何故、佳子は正面にいるのか。防犯上、公園の入り口の道路に面した部分は低い木しかなくて、中を見渡せる。確かに、裏から入れる場所もある。でも薄暗いからってこんな広場の真ん中に来るまで気付かないなんてあるだろうか。


「駄目だよ」


 佳子は徹也だけを見つめている。困ったように微笑んで。姿は佳子なのに、知らない大人のようだと可奈は思った。


「縛りつけては駄目」


「なんの話だよ。昨日初めて会った初対面だろ。年下の癖に!偉そうな顔んすな!」



 徹也は何故こんなに怯えているのか。今日の可奈は分からない事ばかりだ。何故、何故、私の身体は動かない。

 噛み付く様に徹也は佳子を睨む。その瞳を受け、佳子は困った顔から悲しい顔へと変わっていった。



「そのままでも別に構わないんだけどね。貴方は幸せだろうし、可奈も不幸にはならないでしょう。でもそれは、非合法ズルなのよ」


「だから、なに言ってるかわかんねぇよ!」


「無自覚なんだから、言っても無駄だろ」


 佳子の横に生首が浮かんでる。随分格好いいオバケだ。直ぐに輪郭が浮かび上がり背の高い男の人だと分かる。上下黒い服だから目の錯覚で首だけに見えたのだろうと可奈と徹也は納得したが。


「わかるよ。いい匂いだもんな?これは自分だけの物にしときたいわ」


 佳子の隣に居たはずの男の人が二人の肩を抱く。動いた気配は無かった。霧か煙か幽鬼のように、瞬きのうちに二人の間に立っていた。

 可奈は肩に置かれた腕を必死にどけようとするがビクともしない。重さは無いのに石像の様に動かない。


「ちょ、何なんですか!やめて下さい」


「…ルゥの浮気者」


「うわ、やべ!つうかやめて。死ぬ」


 佳子とルゥと呼ばれた男の人の間で見えないやり取りが行われている。比喩では無く、見えないだけで刺すような何かが何度も通過しているのが分かる。


「どうせ浮気より食い気のが心配なんでしょ?ケイは」


 可奈に置かれた腕が解かれた。弾かれる様に可奈は佳子の元へ駆け寄った。いつの間にか身体は自由に動くようになっていた。


「あはは、信用ないねお前」


 翔は徹也に話しかける。徹也はずっと苦しそうに呻いていた。


「ルゥ。無理矢理剥がすのはやめたげて。元は純粋な愛情なんだから」


「愛ねぇ。欲しけりゃ奪えばいいのに。本人に願えばいいのに。人間はホントに面倒臭い。だいたい、コイツはまぁまぁ顔がいいから純愛なんだろ。不細工ならストーカーじゃねーか。(のろ)いに洗脳に、外堀埋めて、閉じ込めて」


 翔が話す毎に徹也の顔が苦痛に歪んでいく。腕が喉を絞めてるのかと思ったが、翔はピクリとも動いていない。


「なにそれ。それじゃあまるで徹兄ぃが私の事好きみたいじゃん」


 可奈の言葉に、佳子はあーあという顔をして、翔はだからなんだという顔をして、徹也はますます苦しそうな顔をした。




「……そうだよ。好きなんだよ!可奈に好きな奴が出来たって聞いて気が付いたんだ。ずっと、いつからか分からないくらい前から、好きだったんだ」


「そんな、いきなり言われても、分かんないよ…」


「だから……俺は兄で良いと思ったんだ。毎日昔のこと思い出して、このままの関係でいいって」


「はっ、イイコぶるなよ」


 翔が徹也の顔を掴んで、無理矢理自身の方へ向かせる。すっかりと暗くなった中でも紅い瞳と白い髪が存在を主張する。


「毎日思ったんだろ?『可奈を自分の物にしたい』『可奈が自分以外求めなければいい』毎日、毎時間、寝てる時すら夢みたんだろ?そうじゃなきゃ呪いになるかよ!」


 とても楽しげに翔は宣言した。


「…俺は、呪ってなんか」


「思い通りに行くのは楽しいよなぁ。想い人が頼ってくれるんだ、別に兄で良いよなぁ。イイコでいれば周りの誰も反対しないんだ。楽だよなぁ!」


「ルゥ!」


 佳子が声を荒げて止めた。翔の煌々と光っておた瞳が落ち着いていく。だが、楽しそうに笑っていた顔は無表情になる。


「これはね、可奈の言葉で解決する事なの。私、可奈に幸せになって欲しい。不幸にはならないなんて曖昧なものじゃなく」


だから、と佳子は言った。可奈は身を固くしている。願わくば部外者でいたかった。でも、可奈こそが中心であり、ヒロインである。どんなに親友が不思議な力を持っていようが、その恋人が化け物だろうが、完の印を押せるのは彼女だけだ。



「私、は」

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