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人狼②

「佳子は仕事してるの?モンスターを倒す?」


 可奈は先程気になった事を聞いてみた。というか、話しをふらないと翔がスリスリをやめそうにない。


「うん。出来る事はしたいもん」


 佳子は可奈の意図を汲み取り、背中に力を入れて翔を引き剥がす。少し頭は外せたが、腕に抱きしめられたままだった。


「他にも誰かを治療したり、水脈とか鉱山探したり、占ったり。色々してるよ!」


「ケイはモンスターに恐れられてるんだ」


「え。そうなの?」


 可奈に話しかけているので、翔は調子を合わせてモンスターなんて言っているが。もうすでに紅い瞳は目の前の佳子越しに美しい何かを見ている。


「そう。胸を焼く威圧感がしたと思ったら黒髪だけを軌道上に残して、一瞬にして灰は灰に。塵は塵に。ケイが通った後すら近づく事も出来ない。夜が活動時間なのに、ケイのいる地域の化け物共は夜が一番怖い。闇に紛れてしまって、何時この髪が燐くのか分からないから。俺はケイに会って初めて眩しさを知ったんだ」


「ルゥさん!?恥ずかしい!私、恥ずかしさで死ぬ!今、生まれて一番、命の危機を感じているよ!?」


 翔は上機嫌だった。

 佳子と触れ合い、佳子を肺に一杯吸い込んで、佳子しか目に入っていないから。これはもう酔っている状態に近い。






 次の日の放課後。昨日は佳子がもう無理だと宣言してお開きになったので、学校で続きを話し合う事にした。最近の携帯端末は便利だ。相手とその場に居るように話せる。…まあそれは、使う人に依存する技術だが。


「ごめんね、佳子。私、文字打つの遅くて」


「いや、むしろ私が持ってなくてすみません」


「徹兄ぃ本屋のトコだって。もうちょい待ってて。……ところで昨日大丈夫だった?」


「あー。聞くかー」


 佳子は照れて机に突っ伏した。今度は机になってしまうかもしれない。


「いやさ、佳子ん家のおじさん厳しいでしょ?見つからなかった?」


「その辺は大丈夫。ルゥが上手くやってるよ。全力で」


 ああ、と可奈は昨日のクローゼットから飛び出してきたところを思い出して納得した。あれならバレなさそうだ。


「でもどうだろ?おじさんもカンが凄そうだよね。主に佳子とおばさんに関しての」


「そうなのよ。まぁ、今回はある意味助かってるんだけどね。夜中も見に来るのは勘弁して欲しいけども」


「愛されてるねぇ」


 可奈は、モテモテだね!と笑った。佳子は頬杖をついて赤い顔を少し隠しながら、まあね、と小さく言った。


「そうそう、佳子!私ね、気になって人狼の噂集めてみたんだけど。不思議だよね。昨日まで全然知らなかったのに、ちょっと見ようと思ったら凄い色々あるっていうか」


「『そういうの』は、気付いたら目に映るようになるからね。道端の花と一緒だね」


「なんか綺麗な物に例えたけど、悪い噂だからなぁ」


「そんな悪い人狼なの?」


「んー?そう言われるとどうなんだろ?なんか徹兄ぃの高校の生徒の前に現れてるだけっぽいというか」


「脅してるのか、警告してるのか、ってカンジかなぁ?」


 佳子は鞄から地図を出した。市役所から貰える地域の地図だ。そこに徹也の通う冬葉高校をオレンジ色で囲んだ。次に赤で道路に点を打っていく。次はピンクで色んな所に○を書き込んでいった。


「これは何?」


「人狼の出現場所。赤は冬葉の生徒が実際会った場所で、ピンクはそれ以前の目撃情報から現れた場所を予測したもの」


「え。凄いね」


「言ったでしょ。『そういうの』は知ってる人の場所に集まって来るんだって」


「いや、確かに情報量もだけど、出現場所の割り出しとか。……ああ、そういやこの子頭良かったわ」


 佳子がふふふん、と無駄に多く鼻をならし、胸をはった。






「徹兄ぃ遅いよ!」


「ごめん!藤田先生に捕まってた」


「あー顧問だもんね」


「前のね」


「藤田先生が顧問って事はサッカー部?」


「そうそう。OBとして部活出ろって言われて焦ったわ」


 教室に駆け込んできて徹也は鞄を可奈の横に置く。そのまま佳子と可奈の座っている机の横に椅子を持ってきて。

 ハッとした。


「あ…えっと。すみません…」


「いやいやいや!なんで!?」


「ルゥのせい!?ルゥのせいでトラウマが!?」





 徹也をなだめたり慰めたり笑わせたり拗ねて失敗したりして、どうにか普通に話せる様になった。二人がかりで20分をかけた。


「息ぴったりだな。コント見てるみたいだわ」


「こっちは徹兄ぃのせいで無駄に疲れたよ…」


「可奈。褒められたんだから喜んどこう」


「ウェーイ」


 可奈と佳子はハイタッチをした。阿吽の呼吸は歴戦の戦友のものだ。



「いや、どっちかっつーと、可奈が普通なのが不思議なんだけど」


「…………例えばさ?私がかぐや姫だとするでしょ?…まぁ聞けよ。なんだ佳子その顔は!…んで。私は実は月の住人だったのです!って言って。でも、今まで通り暮らします!って言われたら?敬語使って距離置く?」


「……んん?」


「…………喩え話が下手ですみませんね」


「いや、何となくはわかるけど」


「つまりね?佳子は佳子だからこのままで良いのよ!」


「親友の自信って事か」


「怒られたら敬語にします!」


「そのままで良いですよ!?」







 佳子はまずはさっきの地図を徹也に見せた。地図にはさらに黄色で獣の傷跡があった場所が書き込まれている。そして。


「これは?」


「狼男」


「…………」


「徹也先輩。言っておやりなさい。可奈に引導を渡してやるのです。それが優しさというもの」


「……たぬきじゃないんだ」


「うるさーい!」


「まぁ、それもだけど。…なんで暖色ばっかなの?」


「それは、私が好きだからです…」


「あぁ、佳子ちゃんが書いたんだ?いいよ分かるし」


「ずるい!なんで、佳子には優しいの!?」


「……ずるいって思うなら可奈にも優しくするけど?」


「あ、ぅえ?なんか、普通の事言われたのに無性に恥ずかしい」


「ウフフ、アツいわぁ。残暑かしら?」


「昨日恥ずかしい事してた人に言われたくないわぁ!!」


「ちがっ!私はしてない!」


「もういいから。地図これ埋めちゃおう」





 徹也がもってきた情報を佳子が地図に記していく。

 人が人狼に会った場所に赤。ただ現れた場所にピンク。謎の傷跡のついた場所に黄色。高校と目撃者である生徒の家をオレンジで。地図は可愛い模様で埋まっていった。

 地図の中で、ピンクはバラバラだったが、赤は大体オレンジの近くに。そして黄色はパラパラとだがある一部に集中していた。


「多分だけど、狼憑きかもしれない」


「狼憑き?」


 徹也と可奈の声が揃う。


「日本だと狐憑きの方が分かりやすいかな。それから狗神使いとか」


「その2つは別物じゃないの?」


「まぁね。要は動物霊を使ってるってこと。人狼という種族じゃない」


「そうなの?なんで?」


「もし、人狼の子が狼に変身しちゃって暴走してるなら、まず目撃情報と傷跡は一致するはずなの」


 佳子は地図の上のピンクを指差した。ピンクの側に黄色はない。


「そして、明らかに特定の複数の人物を狙ってるでしょ?人狼の暴走中ならこんなの無理だし、理性があるならやたら暴れるのもおかしい」


 佳子は地図の黄色をなぞった。


「きっと最初に苦しくて暴れるんだと思う。そして、落ち着いたら襲いたい人を探しまわった」


 ぐるぐると佳子の人差し指が黄色からピンクをなぞり、赤に行きつき、オレンジをトントンと叩く。そうして、何度も黄色とオレンジを動きまわり。



「『人狼』はここにいる」




 あるマンションを指した。

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