柔らかい棘
名前が思い付かなかったので、名前はありません。お読みになる際読みづらいかと思いますがご了承ください。当然ですが全てフィクションです。
彼女は私とは正反対で、夜遊びや派手な格好を好む、いわゆる不良系の女の子だった。もちろん正反対なのだから私は夜遊びなんてしたことがないし、格好も派手ではない、清楚なものが好きだ。こういう子をなんと呼ぶのかはわからないが。
接点なんてなかったし、私はそういう子とは関わりあわなかった。面倒ごとに巻き込まれたらいやだし、関わりあったとして夜遊びなんてしてる暇なかった。
私の両親は私が高校生になってすぐに、いつ作ったのかもわからない愛人と駆け落ちしてしまった。二人とも、同じ日に。恐らく二人が送ってきているものだろう、その日から毎日二万円、ポストに入るようになっていた。罪滅ぼしのつもりなのだろうか、笑えることをする。
貯金するタイプの私は、一日五千円で生活している。だから私は、夜遊びなんてしたくない。貯金したところでなにに使うのか、そもそも貯金する意味なんてあるのかわからないけど。
電気代やガス代等は請求書自体来ないため、恐らくどちらかが払っているはずだ。もしくは二人で分割して。
つくづくバカな親だと思う。私がどれほどの優等生だったとして。猫かぶりだったとして。まだ、まだ高校生だ。甘えられる人がいなくなってどれほど寂しくなるか。……愛人と駆け落ちするくらいだ、考えたこともないだろうな。
反して彼女は、本当に私とは正反対だった。両親はいまでも新婚同然の初々しさ。愛人の気配なんて欠片もない。そして一人っ子。だからこそ甘えがほとんど通る。いやそれ以前に彼女の両親は、自由主義なのだろう。夜遊びしていても、派手な格好していても。なにも言われていない。
……私たちは似た者同士だった。
その日は雨が降っていた。天気予報を見ていた私は傘を差し、鞄の中には折れてしまったとき用に折り畳み傘が入っていて、どしゃ降りの中を歩いていた。ふと帰り道にあるコンビニに目がいって。店の外、ちょうど雨が掛からない場所に立っている彼女が目に飛び込んできた。
傘を持っている様子はなく、次の日まで止まない雨を降らす雨雲を見上げて、どこか困っているように感じた。だから、鞄に入っていた折り畳み傘を取り出し、彼女に近寄って傘を渡した。
目を見開いて驚いている彼女に傘は要らないのかと聞くと慌てて受け取ったので、彼女から離れてすぐ帰ろうとした。が、彼女に引き止められて、彼女の方を向くと、顔をほんのり赤くしながら礼を言われ、首を傾げながら首を振る。当然のことをしたまでだと思っていたし、礼を言われるほどのことはしていない。
それから、学校に行く度に彼女が構ってくるようになった。私のそばにいるときは私から話しかけない限り静かにそこにいる。当然最初のころは話しかけることなんてしなかった。それでも、一人でいた私に寄り添うようにそこに居続けた。
その頃には、彼女は私の家に住んでいた。もちろん私から誘ったのだけれど。彼女は夜遊びをしなくなり、よほどのことがない限りは私のそばにいるようになっていた。ただ少し心配で、私から贈った服以外で身につけられるもの全てに盗聴器、もしくはGPSをつけてある。犯罪だとわかってはいるが、心配でやめられない。
派手な格好も抑え気味になり、私と同じような服を着るようになって、その格好に違和感がなかったからなにも言わなかった。むしろこちらのほうが彼女の性格にあっていると思った。
突然、本当に突然。同性を、私と同じ女の子を好きになってしまったことに気づいた。両親に見捨てられて、甘えられる相手が欲しかったという私のエゴかもしれない。だが確かに、私の中に彼女が好きという感情があった。でも気味悪がられたくなかったから、彼女のことが好き、ということをひた隠した。
隠すのは現在進行形で続行中。隠すのは好きな方だ。たまに崩れそうになるときもある。彼女が、言ってくるのだ。好き、大好き、愛してる、と。私だって好きだ、大好きだ、愛してる。でももし彼女の言う、好き、が友達としての好きだったら?私とは違う、もっと純粋なものだったら?
きっと気味悪がられてしまう。それが怖くて、私はなにも言わない。好き、と言われる度抱き締めて、気持ちを落ち着けている。そうしなくちゃ、いつか襲ってしまいそうだ。
「………ねえ」
「なぁに?」
今日、彼女の方に予定が入ってしまい少しの間離れていた。たかが十数分、されど十数分。携帯にイヤホンを差し、画面をつける。聞こえてきたのは彼女の声と、知らない男の声。楽しそうな彼女の声に頭の中が真っ白になった。
途中から話が頭に入ってこなくて、戻ってきた彼女に携帯とイヤホンをしまいつつ、抱きついて声を出す。
「…誰と、あってた?」
「?隣のクラスの立花くんだよ」
私のクラスは一番端。隣は一つしかない。立花。覚えた。消す。
なんの話をしていたのだろう。なんで聞いてなかったんだ私の馬鹿。
彼女から少し離れて、顔を覗きこむ。影ひとつない可愛い笑顔で首を傾げている。とても、とっても可愛い。
「……なんの話、してたの?」
「んー?猫の話をちょっとね」
猫?……ああ、そういえば彼女は動物が好きだったな。私としたことがうっかり。猫の話をしていたのならやましい話はなかった、ということになる。安心した。
安堵の息を吐きながら彼女の肩に顔を埋めた。私の気持ちを言えてしまったらどんなに楽なんだろう。言ってしまったらおそらく彼女は離れていくだろうけど。
目を瞑って、彼女の匂いを身体に覚えさせる。といってもほとんど私と同じ匂いだ。もう覚えている。これから先もずっと同じ匂いであれ、と願わずにはいられない。
彼女は気づかない。気づけない。
「そうなんだよねー。私の可愛い猫ちゃんは小さい狂気に怯えちゃってさ。一線を越えてこないの。そこがまた可愛くって」
「……なんていうか。同族嫌悪、って本当にあるんだな。俺こんなに怖い奴だったのか」
「いまごろ頭真っ白で私たちの会話聞こえてないんだろうなー。まあ聞いてくれた方が私的には嬉しいんだけど」
「その顔やめろ。マジ怖い」
「えー、立花くんだってたまにしてるよー?」
「マジか、俺怖い。それはそうと戻らなくていいのか?」
「ん、戻るよ。あ、そうそう、立花くん。夜道には気をつけてね」
「あーはいはい。そもそも夜は外に出ねえよ」
彼女は気づかない。気づけない。
もしかしたら、気づこうとしていないだけなのかもしれない。