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AC戦記リベリオン  作者: TEI-HEN
1/1

野生の幕開け

「アレだな・・」

「ああ・・ゴミ漁りから、追い剥ぎやらカニバリズムまで、て広く扱う何でも屋の住処だ」

「要は不法居住者でしょう。イリーガラーだ。知ってますよ、そんぐらい」



搭乗する機械に搭載された望遠カメラ越しで見える視界には、標的と定められた相手の襤褸長屋が映っている。襤褸と表現するに相応しく、耐震構造もへったくれもない周辺の原生林を切り崩して建てただけの小屋そのものである。ちょっとした火の粉が降りかかれば実によく燃えそうだ。そんな印象である。



如何に望遠で不鮮明とは言え、廃屋との違いは人が使用している形跡があるかどうかである。灯りはないが、家の正面の位置に農具やら乗り物やらが置いてあり、あれは人が住んでいる証拠であろう。



「で、そんな対象の沈黙に駆り出されたのが我々ですか・・・」


溜め息混じりの無線。如何にも不満げな様子で伝えているのが上司には分かった。現在時間にして深夜二十三時、さらに人里離れた山並みの辺境ときたから苛立ちも納得だ。

 しかし、立場上宥める意味も兼ねて、再度経緯と理由を告げる。



「この辺りのイリーガラーが駐屯地管轄下でおいたが過ぎたらしい、ちょくちょくな。主は窃盗だから、MPと自警団レベルで手を打とうとしたが悉く返り討ちさ。しかも旧型だがリベラル仕様のVARISを奪われてる。もう手に終える事態じゃない、だから俺達にお呼びがかかったのさ」



同じく、型や形、性能は異なれどVARISという名のバリエーションを冠した立体機動兵器に乗する彼等の機体には正規モデルの規格が与えられ、肩部には州軍を表すデザインが施されている。



 AF-PA08の番号、通称をモーファス。人形を模してはいるが、一般的な人間の優に十倍はあろうかという巨体に、見合っただけのサイズの小銃を携え、闊歩する様は伝説、伝記上の巨人そのものに相応しい。

対人兵器としては過度な持ち出しだが、相手が一応のVARISとなれば運用も理解の範疇である。



従来兵器ではその立体機動に押し負け、汎用性においては手を扱えることから武装の換装が容易で、対G環境の作用により不整地であれ海中であれ地形を問わず運用可能な機密性も合わさって、兵器として主力としてお見えになる存在を確立した。今では、VARISを倒せるのはVARISだけ、のフレーズが浸透し、言葉通り各国で開発が進められ、モドキとも亜種とも捉えられる機体が戦場に現れている。



「いつもはアンチな活動に熱心なのにこんな時だけ、懇願されましてもね。仰々しいですよ、実際。一方的な戦闘が見えてます」

「まあ、国民の安全を提供するのが軍の存在意義だ。それ以上は理由があるまい」



 そこに不法居住区の人間は含まれない、そもそも人間としての扱いすら曖昧だ。



「分かりましたよ。早くやりましょう」

「距離も十分だ。行動を開始する」



一言の後で二機は、それぞれの役割を帯びて姿勢を変える。

片方は周囲の警戒に文字通り眼を光らせ、もう一方は膝をついて構えに入る。

 眼を成す巨人のカメラアイは住居と思わしき場所に定点を置き、得物を挙銃し、照準を付ける。



「これより射撃を始めるぞ。索敵怠るなよ」

「了解」



 上司の引き金に掛ける指に迷いはなく、部下はチラと彼がナショナリズムに傾倒しているのではないかと考えたりもしたが、作戦間の緊張を持って思考を中断した。

 瞬き一回程度の時間の後に、三点バースト計二回の射撃を浴びて瞬時に、印象通り小屋は燃え上がった。


 火元にもならない、ちょうど深夜を迎えたこの時間には、優しい静寂さを持って建物は沈む。大黒柱と言うべき根幹となる組み立てのない、まるでブロックハウスの様な作りの小屋は最初の三発を持って瓦解し、残りは壊れた木々にめり込んで砕くだけの無駄撃ちとなった。


 正直、拍子抜けするぐらいあっさりとしたもので、内心では闇夜を一瞬でも照らし出す変則的な花火を期待したものである。若干の緊張を見せた若者が自らを恥じたくなるあっけなさだった。



「穴を突っついてみたがどうかな?」

「・・沈黙したんじゃないんですか」

死んだ、という意味合いで。

 事態をまるで飲み込めないまま、建物の倒壊と命を共にする。

思ったよりもかなり一方的な展開に、虚しさと白け具合を実感し、これを一帯全体に行おうと言うものだから、改めて、帰りたいという気持ちが芽生えだした。



「穴はまだある筈。しらみ潰しで片付けるぞ」

若い彼の思惑とは逆に、淡々とした上司は変わらず、命令通り通信でそう伝え、陣を解き、破壊した目標の方へ機体を四、五歩と前進させる。

 


否応なしに追随せざるを得ない部下も、やる気とは相反して、その後方を同じ歩数分踏みいった、その後――――。


ドダダンッ!

聞き慣れた、武器の銃声音が鳴り響く。

「どっからです!?」

いきなりの発砲は、急を要する事態である証。それまでに考えていた感傷やら恥やらは頭の片隅からも消え去り、戦闘独特の緊張と、若さ故の高揚感が働きだす。



「気付かれていた! 二時の方角から接近してくるぞ!」



姿勢も態勢もなく、二機は漸く機体の有視界の範囲内に入り込んだ敵を追うようにして射撃を行う。

 機体番号はやはりリサーチしていた自警団が所持していたリベラル派の旧型VARISと一致する。

 確かに巣穴から獲物が出てきた。


「このォッ!」

制限点射も何のその、連射モードで次々と排莢し、二重の銃弾の線が五月雨を形成し、容赦なく降り注ぐ。





しかし、相手は何処の仕様で付けてきたか、脚部のローラーダッシュで推進力に物言わせ横へとスライドする事で射線軸より上手く外れている。

夜に映える深い青のカラーを輝かせながら、VARISは数秒から十秒に近い一斉射を凌ぎ切り、敵は此方の左側面へと回り込み、更に楕円の軌道を描いて接近しつつあった。


「接近して殴るつもりか」

「都合が良すぎますよ!」


武器もない、スペックも見劣りする格下のVARIS、それも相手はイリーガラー、ここまで優位性を示した上で正規兵である自分達が易々と接近を許してしまう。幾ら視界不利のアウェイな状況下であれ、こうも綺麗に射撃を外されては、単なる偶然ではないと理解する。



「コイツ・・違うぞ、やるぞ!」

上官のいつも淡々とした冷静な声に驚きが含まれ、上ずっていた。


誤りがあったのは、自分達がここまで持ってきた事前の印象。たかがという相手の見積りに検討違いがあったという事だ。



この場合に切り替えが早いのは生業とする軍人であり、危機に瀕してから遅すぎる認識更新をするのが慢心持ちの甘ちゃんだ。



「それならそういう対応をするまでだ!」

目標を正確に狙い打つお手本射撃から、横に凪ぎ払う

ような荒々しい無駄弾もいとわない水平撃ちで敵の足止めを計る。



「奴の装甲は脆い。一発でも当たれば間接ごと吹っ飛ばせる」



自然の木々もろともまとめて薙ぎ倒しながら広範囲の銃撃で襲い掛かり、相手の動きを先読みした銃弾がちょうどのタイミングで誘導し、敵の左腕へ突き刺さる。



「ヒット!」

発言通り、たった一発だけで左腕をもぎ取り、有り余る威力はそのまま貫通していった。



これには流石に怯んだのかじわりと詰め寄った距離も戻され、ジグザグな動作で回避に専念させ、一歩足りとも前へ踏ませない。

 バディとしての戦術を利用し、リロードと攻撃を互いに組み合わせ、確実な被弾を負わせていく。



いずれは、勝ちの見えた詰め将棋。




だが、このままでは埒が開かないと踏んだか、業を煮やしたか、青の機体は回りくどい円周軌道から一気に直進し、急スピードで最短距離を辿る。



「かかった! 焦るなよ、構えまでだ。引き付けが肝要だからな」

「了解!」



虚をついたつもりだろうが、それも想定の範囲内。武器のない敵であれば十分に引き付けてから、狙い撃てば回避の時間もままならない。一方向に速度を出しすぎたせいで、今度は自由な動きが利かない、無理に動かせば機体の耐久も含め、衝撃で中の搭乗者も無事では済まない。



相手の特性、または性格までも考慮して、自らの術中へと追い込み、経験を積んだ熟練の戦い方を披露する。


腕前に自信がついてから若干軽んじてきた上司に対する態度を、改めなければならないだろう。



「よし・・」

「さあ、来い!」

機関銃の銃口は接近する機体の中心を捉え、左右に並ぶ機体の二つの照準が重なる。



後は合図一つ。

舐めた真似をしてくれたが、次は外さない。正規兵である自分の威信を賭けた一撃が銃口から敵機をしっかりと捉えて離さない。


「何ッ!?」

敵が動いた。

しかし、猪突猛進と言うべき直進は変わらず、相手の射程距離外からのモーション。

「何だ?」

無手の相手がこの間合いで出来る、まるで投擲でもしたかのような・・。



その時、モニターが大きく揺れ動いた。

いや正しくは頭部に突如として起きた振動により、モニター全体が暗転し、視界が一切利かない状態に陥ってしまった。


「目標ロストどころか!? 一体何が 、何が起きたンです?」

状況が掴めず狼狽する部下の代わりに、上司は唖然としながらも目撃した。


「・・・」

頭部のカメラアイを貫く物体、それは、先程自らが吹き飛ばした左腕そのものであった。

「馬鹿な・・・コイツ一体何者が搭乗している?」

マニュアルに頼らない、角度や目測等を自ら計算し、あまつさえ命中させる腕前。自分達を出し抜く奇抜な発想。



「チィィ!」

もはや目前まで迫る敵機に対し、機体はともあれ自身の態勢を崩されたが、際どいタイミングで前進を阻むべく応射する。

 VARIS同士の歩幅でいえば十歩程度の至近距離で、二十五ミリ口径の機関銃が次々と的を撃ち抜き、コクピット周辺をも突き破る。間接部、駆動部、装甲、頭部とそれぞれを本体から破壊し、後方へと捨て去るも青の進軍を止められない。



「なんと!?」


交差するコンマを争う攻防、無数の銃弾を撃ち行く中で、モニターから脳裏に焼きついた瞬間の描写―――。

 VARISの搭乗者は自ら、コックピットの高さ十数メートルより地表へと身を投げたのだ。

更に、困惑を与える謎の存在、それは暗がりではあるが不鮮明なそのシルエットはまだまだ年若い子供のように見えた。



「搭乗者が・・まだ子供だと?」

どこぞの雇われライダーか、落ちぶれた兵士辺りかと予想していたが、素はプロでもアマでもない。VARISの歴史よりも短い人生の子供が自分達と相対していたとは。

 



「グワッ!」

度重なる衝撃も今回は最大級で、マトモな操縦さえもままならず、フル出力で突破してきたVARISの捨て身のタックルを正面から喰らう。

 敵のVARISは覆い被さって、機体自体が壊れながらも此方へと体重を預け倒れ掛かる。

重心は上側より後ろへと傾きに踏ん張りの利かない両足より先に崩れて、人でいう尻もちをついた状態となった。


その場、周囲に地震が起きたかの様な振動と、地面が形作って陥没する様な衝撃、それでも主だった損傷は見られず、装甲に凹みすらもないが、耐G処置のされていないVARISであれば、搭乗者は全身骨折、内蔵破裂、頭部への深刻なダメージと、いずれかの致命傷は避けられなかっただろう。



朦朧とする意識の中で、走馬灯にも似た感覚を味わいながらも、自分の過去や家族の事よりも、刹那の逡巡に何故機体を放棄した理由が気掛かりで、今しばらく動かない体で考えを張り巡らす。



勝ちは無いと見据えての特攻にしてもあの高さからの身投げは自殺行為に等しい。死を恐れないのなら降りる訳もなく、結果的に優勢な逆転への可能性とて考えられた筈。なのに――ー。



「まさか・・!?」



彼は、本能的に察する。

あの場面で、敢えて無謀と取れる選択肢を選び、それが彼らを表すイリーガラーの本質の行動であることに。


身体を小刻みに震わせながら上体を起こそうとするも自由にままならない。


兵士として、搭乗者として、今身体が動かないことが恐ろしい。

やがて、狭いコックピットの中で仰ぎ見る霞む景色に、夜空に浮かぶ星空と冷たい外気が入り込む、そしてーーー。


「チェックメイトだぜ、おっさん」

やはり子供の、少年の声が耳から頭へと伝わった。

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