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8、夜闇に朽ちて

 陽が傾き始め、あと一時間程で沈みそうな頃、ようやくすべての準備が整った。

 村人達は交代で仮眠をとったり、食事を食べたりしていたが、今は皆起きて盗賊の来襲に備えている。

 備えている、といっても決して盗賊に罠の存在、

敵対心を気づかれる事のないよう、ほとんどの村人が自宅に待機している。

 攻めて来るのは盗賊だが、無論盗賊にも色々な者がいる。

 例えば、なりふり構わず人々を襲って持ち物を強奪する者達。こういった者達は人々への殺傷も辞さない。

 そして、盗みを働くのは主に成金だったり、悪徳な地主だったりして、奪った物品を人々に分け与える、所謂義賊のような者達。彼らは殺しは滅多にしない。悪い者に対しては別だが。

 ウィーク村に強奪を働きに来る盗賊達は、ほとんどが家族をモンスターに殺され、半ば自暴自棄になった者達である。故に彼らに非はない──と言えば嘘になる。

 なぜなら、彼らが行っているのは強奪、殺傷といった明らかな悪の行為だからである。

 すでに最後の打ち合わせは行った。あとは万全の状態で盗賊を迎え撃つだけだ。

 村長の家のソファーに深く腰を下ろしながら、星は言い様のない緊張を感じていた。

「罠に掛けるだけとはいえ、緊張するなあ……」

 自発的に作戦を練って命のやり取りを行うのは、

星にとっては初めてである。

 地球で、ましてや平和の国日本で命を賭した戦いなど、一般人であればまず行う事はない。異世界に来た時点で一般人ではなくなった訳だが。

「さて、そろそろか」

 そう独り言を言って、ソファーからゆっくり立ち上がる。

 カノンはもしものために、いつでも盗賊を攻撃できる場所に身を潜めている。

 星はポケットから折り畳み式の携帯電話を取り出すと強く握り、沈みゆく夕日でかろうじて明るさを保っている部屋を後にした。


     ◇


 それから直ぐに夕日は沈んだ。それが意味するは盗賊の来襲。

 女子供、老人は家の奥に隠れ、戦える村人二十五人は皆、広場へと集まっている。そこに罠を仕掛けているのだ。

 盗賊は村唯一の木の門を堂々とくぐると、各々強奪を働くために離散しようとした。

 だが、そこに突然前方から一人の少年が現れた。

 長袖の黒ティーシャツにジーパンという格好が夜闇に溶け込む、その少年──天枷星は、如何にも盗賊ですといった彼らの格好に少なからず戦慄する。

 全員が黒いベストを地肌に着用し、作業着のズボンのようなものを履いている。その何人かは、木こりが持っていそうな斧を身に付けている。

 だが、それらがおまけに見える程の巨体男が先頭に立っていた。身長は優に二メートルを越し、横幅は一メートル程もある。まさに巨大な豚のような男だ。

(なんだ、あいつ!?)

 その規格外の大男にたじろぐ星。しかし慌てる事はなく、落ち着いて持っていた携帯電話を開きICレコーダーの機能を出すと、再生の文字を押し、一番新しいデータを最大音量で再生させた。

『無能な盗賊共よ! 無能でないなら広場へと来い!』

 村人達の声がウィーク村中に盛大に響き渡る。

 それに盗賊達は、怒りの表情をあらわにして星を睨み付けた。

 中でも、中央先頭に立つ大男は歯を剥き出しにして喚いた。

「このファット様を怒らせたな。村人は皆殺しだ! てめえら、広場に行くぞー!」

 そうして盗賊全員が広場へと駆けていった。

 星は一足先に向かっている。

 ところで、ここウィーク村の広場へ行く道は入り口の門をくぐって真っ直ぐ進むか、他の2つの道を通って行くしかない。

 故に、盗賊達は固まって一つの道を進む事になる。

 そして盗賊達は広場へと入った。

 彼らは気付かなかった。

地面から不自然に生える蔦、そして息を潜めて自分達を見ている村人に。

 傍目から見ればどうということはない、半径三十メートル程の円形の広場。そこに盗賊全員が集まった。

 その時、三方の入り口に松明を持った村人が現れ、地面から飛び出ている蔦に火を点けた。次に他の村人が木の柵を置いて広場への入り口を閉ざす。

 簡易的な方法で一時的でしかないが、広場は閉ざされた。

「よし、これで倒せる」

「そうね。これなら」

 星とカノンは村人達に合流した。村人達も安心したように地面に座り込む。



 広場内は非常に混乱していた。

「か、身体が動かねえ」

 盗賊達は木の柵で広場を閉ざされて直ぐに、それを破壊し村人を襲おうとしたが、やはり直ぐに身体の異変に気付いた。

 痺れ蔦。

 パラリシビーとも呼ばれるその蔦は、百メートルにも伸び、所々に生える小さな実は神経性の毒を含んでおり、燃える事によって毒を周囲に撒き散らす。

 星は村人達にデルー密林の植物等の事を尋ねた時、この蔦を使う事を思い付いた。そして村人数人と、護衛にカノンが密林に蔦を採取しに行き、帰還して直ぐに広場中の地面下にこれを張り巡らしたのだ。

 固まって移動していた盗賊は、余計に多く毒を吸ってしまう。

「終わったか」

 星が呟く。広場の外からでは中の様子はわからないが、既に音は聞こえない。盗賊達は今頃痺れて手も足も動かせない筈だ。

 しかし──星達がいる場所の前方にある木の柵が突如吹き飛んだ。

 そこから1人の大男が現れた。盗賊の頭領、ファットだ。

「よくもやってくれたなあ! ぶっ殺す!」

 そう言って、手に持っている自身の体格に見合う巨大な斧を振り回しながら突進してきた。

 痺れ蔦の毒が効かなかったのか。

 カノンが剣を構え迎え撃とうとした。だが。

「ここは俺に任せてくれ」

 星がカノンを背に立った。その手には長さ一メートル程の木の棒が握られている。

 カノンは唖然とした顔で星を見る。彼は一つ息を吐くと、カノンの方に首だけ振り返ると、言った。

「そろそろ俺も、いいとこ見せたいからね。大丈夫。絶対に死なないさ」

 星の目は本気だ。カノンはじっとその双眸を見つめる。しばらくすると、諦めたように、しかしどこか嬉しそうにも聞こえる声で言った。

「わかった。でも絶対に死なないで。危なくなったら私が戦うから」

「ああ。ありがとう」

 そうして星は再び前を見る。ファットの方を。

「いい度胸じゃねえか、ガキがっ!」

 叫び、突進してくるファット。星も木の棒を握りしめ地を蹴る。

 ファットは上段から真っ直ぐに斧を降り下ろした。

「死ねやあああぁぁぁ!」

 右横に跳び、その攻撃を避ける星。大きな得物で大振りな攻撃を繰り出した事で、ファットに隙が生じる。

 絶好の反撃の機会だが、星は攻撃をしない。ファットから少し距離を取ると、再び木の棒を構える。

「てめえぇぇぇぇぇぇ! なめやがって!」

 怒りで余計好戦的になるファット。縦横斜めと斧を振り回すが、星は全てを避ける。

 次第に呼吸が乱れるファット。星も少し息が荒いが、その比ではない。着実に痺れ蔦の毒が効いてきているのだろう。

 そして何分か経ち、ファットに決定的な隙が生じた。

「今だっ!」

 そう一声叫び、ファットの腹に思い切り木の棒を叩きつける星。

「ぐっ!?」

 呻き声をあげて倒れるファット。毒が身体中に回り、もはや動く事もままならないだろう。

 今頃は村人達が、動けない盗賊を縛っている筈だ。

 こうして、盗賊退治・捕縛作戦は見事に成功したのだった。

主人公がチート化したらかなり楽になりそうです。

それでは

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