7、団結
村長は一時間もすると戻って来た。
率いて来た若者は総勢二十五人。盗賊軍団の半分である。彼らが村長の家に入った事で、先の部屋はぎゅうぎゅうとなり暑苦しさが漂っている。
村長は星とカノンを指し示して、血気盛んな若者達へと大音に告げた。
「こちらの方々が盗賊退治に協力してくださる旅人殿じゃ」
集まった者共は一斉に二人の方を見やる。
それらの顔にはあからさまな失望の表情があった。
若者達が口々に批判の声をあげる。
「ただのガキ共じゃねーか」
「盗賊を甘くみるな」
「帰ってミルクでも飲んでろ」
しかし星とカノンはその反応に動揺する事なく、寧ろそういう反応を予想していたかのように毅然としている。
「盗賊といっても所詮は烏合の衆。きちんと作戦を練れば、絶対に倒せる筈だ」
星は総員を見渡しながら堂々と言い放った。
村の若者達はいかにも不服そうな態度をしている。それに対し、星の顔を横目にちらりと見てから、カノンが言った。
「彼は大賢者アグライアの予言した救世主よ!」
音が消えた。
村の若者達と村長は絶句した。そして全員の視線は一斉に星へ。彼は頭を掻いて、はにかんでいる。
村人達はまたもや一斉に我に返ると、再び言い放った。結束は意外と固いらしい。
「嘘吐くな!」
「ガキが調子乗るな!」
「そうだそうだ!」
星自身、自分が本当に救世主なのかまだ確証がないので、強くは言い返せない。そこで、ポケットから携帯電話を取り出すと皆に見せた。
「これは、俺がいた世界ではごく普通に皆が持っている、携帯電話という物だ」
そして、カメラの機能を使って村人達を撮ったり、音楽を流したりしてみる。
これには村人達も驚いた。
「うわ、何だこりゃ」「すげえや」等々、皆口々に驚きを語っている。
「これで、信じてくれたかな」
「もちろんです。やはりあなたは救世主じゃ」
村長が村人を代表して答えると、他の者も主に謝罪を述べる。
「疑って悪かった」
「許してくれ」
「すいやせんした」
星は笑って返す。
「いいって。じゃあ、皆で盗賊をやっつけようぜ!」
「「「おおー!」」」
ウィーク村の人達は、単純だった。
星は思わずにやけていた。なぜなら、救世主イコール主人公のように、皆を指揮し、かっこいい台詞も吐き放題だからである。
(日本だと、あんな台詞吐いたらイタイ奴だからなあ)
カノンはそんな星を見つめつつ、少しの憂いを感じていた。
◇
改めて作戦会議が開始された。
参加したのは、星、カノン、村長、村人が5名である。
「次に盗賊が襲ってくるのはいつ?」
星が村人へと尋ねる。それが分からなければ対処が出来ない。
「明日の夜でさぁ。奴らは一週間置きに、太陽が沈むのを期にやってくるんでさぁ」
村人の一人が返答する。
質問は続く。
「どこからこの村に?」
「門から堂々と入って来まさぁ」
「盗賊達の頭脳は?」
「ただ暴れまわり、略奪を繰り返しているだけなんで、そこは弱い筈でさぁ。だけんど、逆にそれが厄介だったりするんでさぁ」
「襲ってくる時以外で、この村に来る事は?」
「ありやせん」
他にも幾つか尋ねた星だったが、ある考えに思い至ったのかおもむろに語り出した。
「敵にも味方にも死者は出したくない。ここは罠を仕掛けて生け捕りにするのが良いと思う」
そうして彼は更に村人達に質問を投げ掛ける。 主に、デルー密林の木や植物の事について。
全員で作戦を考え、決まった頃には陽がすっかり落ちていた。
◇
盗賊退治の作戦が決定されてから一時間程してから、罠等の準備が開始された。
デルー密林へと、ある植物を採取するために向かう者、村に仕掛ける罠を作る者、盗賊を縛る練習をする者と分かれて、各員去った。
星はカノンと共に外に出て、夜風に当たっていた。空は曇っていて暗いが、村には人口の明かりが灯り、仄かに明るい。
しばらくの間、二人は黙って月も星も見えない夜空を眺めていた。
ふと、星が口を開いた。
「実のところ、少し不安なんだ。盗賊を倒せなかったらどうしようって」
先程までの堂々とした態度はどこへやら、星の顔には不安が溢れていた。
カノンはそんな星の胸中を理解し、ゆっくりと言った。
「村の人達も皆不安に思ってる筈よ。五十人もの盗賊が攻めて来るんだから」
「ああ、でも、だからこそ不安なんだ。村人達がもしも死んでしまったら……」
「そういうことは言わないっ」
突然カノンが星の口に指を乗せた。星は驚きに目を見開いた。
「!?」
星の唇にカノンの細い指の温かさが伝わった。彼女はその指をそっと離しながら言う。
「そういう言葉は本当に死を覚悟した時に言うものよ。それに、絶対に誰も死なせない、でしょ」
そして、にっこりと微笑んだ。その笑顔にドキッとくる星。しかし、しっかりとカノンの言葉を噛みしめる。
「そうだよな。やる前から弱気になってちゃだめだよな。ありがとう、カノン」
それにカノンは、はにかみながら返答する。
「私は何もしてないわよ。君の意思が強いからこそよ」
「ありがとな。少し自信が持てた気がする」
深夜のウィーク村には珍しくどこの家にも灯りが灯っている。
もはや、村人全員が一丸となって盗賊を退治するために動いていた。
星とカノンの二人も、罠の準備の手伝いをするために広場へと向かった。
雲の合間からほんの少し、月が姿を表していた。
次回盗賊が来襲します。
それでは