6、ウィーク村
デルー密林を後にした二人は、近くに小さな村があるのを見つけ立ち寄る事にした。
周りを簡素な柵で囲まれた村の入り口には、木を五メートル程の間隔で二本立て、上部を平たい看板で繋いだこれまた簡素な門が設えられている。
看板の表面には黒いペンキのような物で、ウィーク村、という文字。
「ずいぶん質素な村だな」
「そうね。村人の姿も見えないし」
まばらに散在している木造の小さな家々は、どこもカーテンが掛かり、寂れた漁港のように活気がまるで感じられない。
「村人達はどうしたんだろう」
「何かあったのかな…… あっ、あれ村長の家じゃないかしら?」
カノンがひときわ大きな家を指差し言った。その家も他と同じようにカーテンが掛かっている。
「ちょっと行ってみましょうか」
そうして、村長のらしき家の戸を叩く。
二十秒程の間を置いて扉が開いた。しかし開いたのはほんの少しで、そこから誰かが怯えているような声で告げる。
「ど、どなたですかな?」
老人の男性の声だ。
二人は、その怯えるような態度を訝しがりながらも、返答した。
「旅人です」
カノンが短く告げると、老人は戸をもう少し開けて星とカノンを一瞥する。
やがて、なぜか安堵の表情になると戸を大きく開いた。
「どうやら本当のようですな。どうぞ、お入りくだされ」
言われるがまま、二人は村長のらしき家へと入った。
「そちらの部屋へどうぞ」
老人は入って直ぐ左手にある部屋へ二人を招き入れた。
「どうぞお掛けくだされ」
老人は二人掛けのソファーを指して言い、自身は木でできたテーブルを挟んだ、向かい側の安楽椅子に深く腰掛ける。
星とカノンが座ったのを見届けると、老人は口を開いた。
「私はこの村の村長をやっております。さて、このウィーク村へは如何様で?」
「宿に寄って行こうと思いまして」
代表して星が告げる。それに村長はああ、と言って納得したような顔になる。
「デルー密林を抜けて来た方ですな」
「ええ。ゆっくり休んだ方が良いと思いまして」
そう星が言うと、村長は申し訳なさそうに言った。
「すみませぬが、この村からは出ていった方がよろしい」
それに今度はカノンが返す。
「何でですか? 外に誰もいない事に関係が?」
村長はしばらく黙っていたが、ただ追い返すのも良心が痛むのかゆっくりと語り出した。
「ここ数年でモンスターが急増、凶暴化したのはご存知ですかな?」
「はい」
星が首をかしげる隣でカノンが首肯する。
「モンスターによって家族や恋人を殺され、どうしようもなくなった人々がどうするかはご存知ですかな?」
「モンスターへ復讐をする、ですか?」
「そのために兵士に志願する者も大勢おります。ですが、盗賊と成り下がる者も少なからずおるのです」
村長はそこで一度大きく息を吸い、激情的に言い放った。
「ここウィーク村にそんな盗賊共に毎週のように襲われ、暴虐の限りを尽くすのです。そのせいで村人は皆怯え、家から出ようともしないのです」
「立ち向かおうとはしなかったんですか?」
「若者が大勢立ち向かいましたが、皆盗賊の頭領のファットに殺されました」
安楽椅子を大きく揺らしながら悲嘆にくれる村長。
「そういう訳で、あなた方は一刻も早くこの村から出た方がよろしい」
村長の話が終わると、互いに顔を見合わせ、頷き合う星とカノン。村長は怪訝な顔をしている。
星が言った。
「俺達も協力します、盗賊を倒しましょう」
村長は唖然として口をあんぐりと開けた。
「突然何を言い出すのですか。失礼じゃが、あなた方には奴らを倒す事は出来ない」
だが星は折れない。
「やってみなければ分かりません。しっかりと対策をすれば何とかなる筈です」
「しかしのぉ、盗賊は五十人もおるのですぞ」
「絶対に誰も死なせやしません」
星の表情は真剣そのものだ。村長はしばし悩んでいたが、彼の表情に何かを汲み取ったのか決意を表明した。
「分かりました。あなた方に任せます。好戦的な若者を連れて来る故、しばしお待ちくだされ」
そして村長は老いた身体を奮い立たせ、外へと走っていった。