表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/55

5、奇襲

 姿を現したモンスターは合計十体。他にも、密林に隠れている可能性がある。

 彼らは、血走った目で星とカノンを睨み付けていた。

「なっ!? あんなにいっぱい」

 再び現れた、それも前回の五倍の数のモンスター。星は、昨日殺されそうになった瞬間を思いだし、戦慄した。

 それを後ろ目に認め、カノンは呟く。

「星君。君は私が絶対に守るから」

 そして、十体のモンスターが海岸に雪崩れ込んだ。逃げようにも二人の後ろには海。文字通り背水の陣だ。

 まず一体が先立って突貫を仕掛けた。

 その直線的な攻撃をカノンは身をひらりと横に移動して避け、がら空きになった身体に容赦なく剣を降り下ろす。

 結果、胴体と下半身が分離し、血の代わりに黒い粉塵が吹き荒れる。だが、他のモンスターがそれを見て怯む様子はない。寧ろ、おぞましい雄叫びをあげ、三体が左、中央、右から同時に突進してきた。

「グギャアアアッ」

 それらのモンスターをギリギリまで引き付けたカノンは、勢いよく地を蹴り、真上に跳ぶ。

 突進の勢いを殺しきれなかった三体のモンスターは、互いに頭を思い切りぶつけ合い、その衝撃にふらついた。

 カノンは空中で剣の切っ先を下に向け、五メートル程の高さから落下する。

「グアアアァァァッ」

 見事に一体の脳天に剣が突き刺さり、断末魔をあげ黒い粉塵となり、消えた。

 着地すると同時にカノンは、未だにふらついている二体のモンスターに向け剣を横凪ぎに一閃する。

「はあああっ!」

 すると、それらも黒い粉塵となって風に流れていった。


 後ろに下がり過ぎて海水に足が十センチメートル程浸かっている星。恐怖があるのは確かだが、今彼は同時に情けなさも負けず劣らず感じていた。

「女の子が一人で戦っているっていうのに、俺は何も出来ないのか」


 その間にもモンスターは突っ込んでくる。

 カノンはそれらのモンスター一体一体に目をやり、星の方に近づかないように牽制する。

 ある時は海岸の砂で目眩ましをし、またある時は胴体に蹴りを放つ。そして隙を見て一体ずつ斬っていく。

 次々とその数を減らしていく恐竜モンスター。

 そしてカノンは最後の一体に上段から斬りつけ、これもまた黒い粉塵となって消えた。

 カノンは安堵のため息をこぼし、星の方に向きなおる。

「もう大丈夫」

 だが、星は驚愕の表情になると同時に叫んだ。

「カノンっ、後ろだっ!」

「えっ!?」

 咄嗟に後ろを振り向くカノン。彼女の直ぐ目の前には三体のモンスターが迫っていた。おそらく密林に潜んでいたのであろう。

 三体のモンスターが一斉にカノンに襲い掛かる。

 凄まじい速度で剣を振るうカノン。その剣撃に二体のモンスターが消滅する。しかし残りの一体がその隙に鋭利な爪を降り下ろした。

「っ!?」

 思わず目を瞑ってしまうカノン。

 だが予想に反しその華奢な身体は引き裂かれない。

「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 天枷星。

 彼が全力を込めてモンスターに体当たりを仕掛けたため、モンスターはあらぬ方向へと吹っ飛んだのだ。

「今だっ! カノンっ!」

 星が叫ぶ。

 一瞬で状況を把握したカノンは、倒れているモンスターへと目にも留まらぬ速さで剣を凪ぐ。

「はああああっ!」

 そしてモンスターは為す術もなく消滅した。


     ◇


「カノン、大丈夫かっ!?」

 心配そうな顔でカノンに駆け寄る星。

「うん、大丈夫、だよ」

「そうか。本当に良かった」

 しかしカノンは、やるせない表情をして言った。

「星君を守るって言ったのに、逆に助けてもらって。ごめんなさい」

 それに対し星は、そんな事ない、という表情で返す。

「いや、俺の方こそごめん。君が戦っている間、ただ見ている事しか出来なかった」

 彼自身そうは言っているが、恐怖に立ち向かうにはそれなりの覚悟が必要である。ましてやゲームの中でしか戦闘経験の ない星にとっては、未知の怪物に立ち向かえただけでも好成績だといえる。

 だがカノンは、非常に心配そうな、逆に見ている方が心配しそうな顔で言った。

「いえ、この世界の救世主が怪我でもしたら、私……っ」

 悲痛の表情で話すカノンに、星は微笑み言う。

「いや、人の命に救世主も何もないよ。だって俺達は同じ、人間なんだから」

 それに面食らったように口を手を当てて驚くカノン。しかし次の瞬間には星の言葉の意味を噛みしめ、同調する。

「同じ、人間……」

「そう。確かに俺はここでは特別なのかもしれないけど、 誰かが傷付くのなんて見たくはないんだ」

 我ながらゲームやアニメの主人公みたいな台詞だな、と鼻の頭を擦りながら苦笑する星。

「なんか偉そうに言ったけど、そういうものなんだと思う」

 モンスターの痕跡の残らない、さっきと何ら変わらない海岸から遠くを見つめ、星は最後にそう語った。

「やっぱり君は、救世主なんだね」

 カノンの嬉しそうな小さな囁きは波音にかき消え、海の記憶の一ページに深く刻まれていった。


     ◇


「そういえば、昨日とさっきのモンスターは何で 血が出ずに黒い粉? になって消えたんだ?」

 雑学を聞く探求者よろしく星がカノンに尋ねた。

ちなみに今現在、二人は密林の出口へ向け歩いている。旅人であるカノンが地図を携帯していたのだ。

「ああ、あれは『創造の粉』って言われていて、十年前に突如出現したモンスターがそれで造られていたみたい」

「誰が、何のためにそんな物を……」

 わざわざそんな大層な物を使って有害なモンスターを造る狂者って、と付けたし、難しい顔をする星。

「アグライアの予言と関係があるって言われているわ」

「予言、か……」

 下を向いて考え込みながら歩く星。

 と、カノンが前方を指差し、声をあげた。

「出口に着いたよ」

 星は顔を上げて、木々に閉ざされる事のなくなった陽光に目を細める。自然とその顔には笑みが浮かんでいた。

「じゃあ、行こうか」

「ああ」

 そうして、星とカノンは長い旅の一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ