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54、ニヨルド・レイヴァンス

 カノン、ディオネの役に少しでも立ちたいと自ら潜入を提案した星だったが、やることは正直あまり考えていない。山賊の内情を知り、良く言えば、彼らを助ける。悪く言えば、彼らの弱みを探り、それを用いて脅す。どちらにしろ、山賊を懐柔できれば問題ない。

 最低限の警戒をしながら、星は山を歩く。今現在彼は、仮にも山賊の一員なのだ、こそこそしていると逆に怪しまれる。

 しばらく歩くと、ちょっとした高台に着いた。人は多く見かけたが、なぜかほとんど発見されなかった。声を掛けられても、挨拶をされたぐらいだ。ひょっとすると、上手く木々に隠れる形になっていたのかもしれない。

 ふと前を見ると、なにやら木製の牢のようなものがあった。

「ん?」

 中には一人、男が閉じ込められていた。星は少しの間様子を見ることにした。

 五分程観察していたが、男はただ座って何かを考えているようだ。もちろん星には気づいていない。

 星は、なぜ男が牢に閉じ込められているのかが気になった。真っ先に思い浮かぶのは、山賊内で何か規則を破るようなことをして閉じ込められた、ということ。

(山賊内で何かあったのか……?)

 なんにしろ、これは星にとってチャンスである。牢の男は、山賊内で確執のようなことがあったからこそ牢に閉じ込められたのであって、それならば他の山賊に対して反感を抱いていてもおかしくはない。そんな折に星が現れれば、内部情報を漏らしてくれることも考えられる。

(声を掛けるべきか……。けど、うかつに声をかけて仲間を呼ばれるのもなぁ)

 下手をしたら、即死ぬ。星は今のところカノンやディオネのように魔法を使えず、体術でも、十人程度ならともかく、数十人を相手にうまく立ち回れる程の腕はない。

 一分考えた。

(よし、声をかけてみよう)

 幸い牢の周囲には人がいない。チャンスは今しかなかった。それでも一応もう一回辺りをさっと見回し、誰もいないことを確認すると、あえて正面からゆっくりと歩いていった。

 牢の真ん前まで歩いて来ても、男は星に気づかない。よほど集中しているのだろうか。

 と、ふと動かした足が小石を蹴ってしまい、木製の格子に当たってしまった。

「!?」

 びっくりしたように男は顔を上げ、星の方を見る。だが直ぐに我に返り、星を上から下まで観察する。その眼光は鋭い。

 星は、常に男の所作に気を配っていた。牢の中にいるとはいえ、いきなりナイフでも投げられたら洒落にならない。もちろんそれは、牢の男、ニヨルドにも言えることだった。彼にしても同じで、星がいつ凶器を自分に向けるかも分からないのだ。

「お前……いや、君は誰だ?」

 ニヨルドが先に声を発した。少し低めの声で、若干しゃがれている。

 君、と言い直したのは、星が見た通り少年であったからだろう。

 星はニヨルドの眼を見た。

(ああ、この人にはばれてるな、俺が賊の一味じゃないって)

 直感でそう思う。正確には直感ではなく、牢にいてなおも生気ある眼光を宿す男に、ある種の凄みを感じたのだ。

「俺は、天枷星。あなたは?」

 やはりこの世界では星のような名前は珍しいのか怪訝な様子を見せるが、直ぐに星の問いに返す。

「ニヨルド・レイヴァンス。山賊の元首領だ」

(首領っ!? いや、まてよ……)

 まさか今回の騒動の黒幕がこんなにあっさりと見つかるなどとは思ってもみなかった。が、その黒幕がなぜ牢屋になど入っているのだろうか。

「元?」

 一瞬の驚愕をどうにか振り払い、あくまで冷静に問いかける。

「ああ。俺達は元々、モンスターに居場所を奪われた奴らが集まってできたんだ。そして憎しみを糧にモンスターを見つけ次第殺していった」

 山賊は元はモンスターに恨みを持つ者の集まり。モンスターを根絶やしにするという、憎悪による信念を持った者達。話に聞いた通りだ。

「だが、いつからか、モンスターによる被害を受けていない他の人間にまで敵意をむき出しにする奴らが現れた。……馬鹿げているだろう? 同じ人間を相手にやりたい放題だ」

「そしてあなたは……」

「捕らえられた。オルフォー達は……あいつらは、大切な人を失った時点で壊れてしまったのかもな」

 誰かを失うということを星は知らない。例えばその誰かが、長時間プレイしてじっくり育成したゲームのキャラクターだ、などと他人に言えば嘲笑されるのがオチだろう。

「今の首領はオルフォーといって、壊れてしまった奴らの代表みたいなものだ。そして……俺の友でもある」

 『ある』という表現に星は心底感心した。『あった』とは言わない以上、ニヨルドはオルフォーを未だに友だと思っているということだ。牢に閉じ込められてなおも。

「あいつらは明日、王都レフェリアへ攻め込む」

「……は?」

 重苦しい雰囲気の中突然冗談のようなことを言われると、人間実に間抜けな顔をしてしまうものだが、今の星の顔はまさにそんな感じである。

 どのくらいそんな顔をしていたのかは定かではないが、ようやっと星は正気に戻る。戻っても頭は未だに混乱したままだ。

「レフェリアに、明日、攻め込むっ!?」

 特に星を驚かせたのは、進攻――いや侵攻とさえ言ってもいいかもしれない――の決行日が明日だという事実である。

 『山賊が王都レフェリアに攻め込む』という部分だけならばそこまで驚きはしなかった。それぐらいなら、予想出来たし、止めることもそう難しくはないからだ。

 しかし、明日となれば話は別だ。今からでは対処する時間がない。

 先刻からあまり人と会わなかったのは、山賊達が明日の王都進攻に向けて色々と考えたり、早めに休んだりしていたからだろうか。

(ちっくしょう、どうすればっ! 今からカノンとディオネのところに戻って、速攻で山賊を壊滅させてもらうか? ……いや、だめだ。そんなの、わざわざ俺らがこの山に来た意味がないじゃないか)

 ならば。

首領あたまを潰す、いや、懐柔させるしかないか)

 よほど統率された軍団でもない限り、大体はトップを潰せば自然とまとまりが失せる。山賊達が、言ってしまえば烏合の衆であればなおさらだ。

「俺をここから出してくれ」

 唐突に、しかし落ち着いた様子で賊の元首領は言葉を紡ぐ。

「オルフォーを……あいつを止められるのは俺だけだ」

 正直今すぐにでも出してやりたい気持ちは山々なのだが、この男が信用できるのか星には分からないし、何より、この牢を開けることそれ自体ができない。その旨をニヨルドに伝えると、少し黙考してから、

「あっちに真っ直ぐ進んだ所にある小屋に、この牢の鍵がある筈だ。ただし、おそらく見張りがいるだろうし、他の者に気づかれないとも限らない。それでも鍵を取ってきてくれるか?」

 と言った。

「任せてくれ」

 星は即返答を返した。元々一般人であった山賊を二、三人相手にしたところで、今の自分なら負ける気がしないし、鍵を取ってくる間にニヨルドが信用に足るべきか考えられる。

「いいのか?」

「ああ。時間が惜しい、さっさと取ってくるよ」

 直ぐに星はニヨルドが指した方へと走る。もちろん極力誰にも見つからないように配慮して。

(絶対にレフェリア進攻なんてさせないっ)

皆さん、こんばっぱー。

どうも、蒼穹天使です。

期間が空いてる割りには短くなってしまいました、すいません。



山に1人、足を踏み入れた星ですが、この後どうなるかは未定です。と言っても大まかな内容は考えてありますので、さすがに3か月も空くことはないと思います。フラグではない、ですよ。


それでは、また次回

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