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53、潜入

 太陽もまだ顔を見せない明け方に三人は出発した。本来、陽が沈みきった夜中に山にたどり着く予定だったのだが、別に日中に着いてもそこまで支障はない筈だ。

 一時間と三十分程歩くと、そう遠くない地点に目的の山が見えてきた。目測で五キロといったところだろうか。

 ところで、今では山賊以外が寄り付かないこの場所を山の方へ向かっていく星達はとても目立つ。そこで彼らは、ごく自然に山に入るか、もしくは誰にも気付かれないように山に入るかしなければならない。 山賊を全滅させるだけなら適当に山ごと破壊すれば済むのだが、今回はそれが目的ではない。

「星君、本当に大丈夫?」

「ああ」

 気遣うカノンに短く答える星は、肯定とは裏腹にかなり緊張していた。

 実は、出立前にちょっとした作戦を星が提案していた。

 どこか遠くでモンスターにやられて逃げてきたふりをして山賊に上手く潜り込み、情報を得るというものだ。

 この作戦を実行するのはもちろん彼自身だ。二人には言っていないが、カノンやディオネの場合、身体能力の他に美しさも常人離れしているので逆に目立ってしまうに違いない。

 これを朝食の最中に立案した時点で、カノンが反対した。無論、危険すぎるという理由からである。

 敵の陣営に間諜として潜り込んだはいいが、ちょっとしたミスでそれがばれて即刻処刑、などといった事例が歴史上でも幾度となく起こっていたことは星も知っている。しかし彼は、自らが行動を起こしてカノン、ディオネの役に立つことを強く望んでいた。

 何度も、本当に何度も思うことだが、自分はまだ十分に二人の役に立てていなかった。だけど、カノンもディオネもそれを――星の弱さを全く責めることはせず、むしろ優しい言葉を掛けてくれ、彼の成長を心から願ってくれた。そして彼は、自分でもよく分からないが、常人ではかなり強い部類に入るであろうギャノンを倒すぐらいには成長した。

 今の星は、正直山賊を怖いとはあまり思わない。もちろん、死ぬかもしれないという恐怖はある。ただそれ以上に、救世主としての使命のようなものの方が大きかった。

 カノンは、ちらとディオネを見やる。彼女が頷くのを確認すると、カノンは星の方に向き直り、彼の瞳に視線を送る。

「……絶対に、無茶しないでね」

「ああ、って言いたいところだけど、俺にもどうなるかは分からない。けど……俺は絶対に死なない。約束するよ」

 なぜか星は、凛々しい顔でカノンにそう言うことができた。

 ――絶対に死なない。もとよりそのつもりだ。

「では、手筈を整えるとしよう」

 淡々とディオネが言うと、特に星は着々と準備を推し進めていった。

 ……この時彼らはまだ知る由もなかった。明日、山賊達が王都レフェリアに攻め入ろうとしていることなど。



                               ◇



 薄汚れた衣服を纏った男が一人、フラフラとした足取りで山に向かっている。

 そこら辺を歩いていた山賊が彼に声をかける。

「ん? 誰だおめぇ」

「た、助けてください……モンスターが」

 ひどく怯えた様子で男――天枷星は訴えた。彼は、山賊がモンスターに襲われて行き場を失った、元はただの一般人だということを知っている。ならば山賊は、『同じ境遇の者』にひどく同情するのではないか。その当たり前の心理を星は突くことにした。

「モンスターに襲われたのか!?」

 面白いくらいに心配そうな声色だと、正直星は思った。そして、山賊が純粋に自分を心配してくれることに心の高揚を覚えた。

「はい。俺の村は、モンスターに、襲われて、みんな……っ」

 できる限り感情を込めて演技する。本当にモンスターに襲われた人々に申し訳ないという気持ちもあるが、今は任務を全うすることに全力を注ぎこむ。

「ならここにいるといい。ここにはおめぇみてえにモンスターに住む場所を奪われたもんしかいねえからな」

「ほ、本当ですか!」

「おう。じゃあおれっちに着いて来い」

「は、はい」

 星は、壮年の山賊の後に着いて行く。発見された瞬間武器を振り回されたりはしなかったので、ひとまずは安心である。

 疲れているように歩きながら、星は辺りをさりげなく観察する。

 簡易的な家屋や、その他様々なものに使用するであろう木々はそれなりに伐採されているが、まだ多く残っている。身を隠すのは割と容易そうだ。

(それにしても、人の多いことといったらありゃしないな)

 少し歩くだけで数十人は人がいた。この山自体、特別大きいといったこともないので、五千人が住む時点で人口密度が大きくなるのは必然だ。普通の山、と言っては変だが、この山がここ周辺の要衝であることは確かだ。

「よし、着いたぞ。ここがおれっちの住処だ!」

 大木の洞を利用した簡素な寝床にたどり着いた。

「は、はい」

 ここからが星にとって重要だ。下手に動いて感づかれては危険なので、それとなく情報を探っていくしかない。

「あの、少し回ってきてもいいですか?」

「おう! おれっちはここにいるから、終わったら戻って来い」

「はい」

 あっさりと一人になることができた。

(一刻も早く用を終えて、カノンとディオネのもとに戻らないと……)

 使命感を胸に抱き、星は一歩を踏み出した。

皆さん、こんばっぱ~。

前回の投稿時はまだ多少寒かったような気もしますが、もうすっかり(すっかりではないかな)暑くなってきましたね。

一人山に潜入した星。このあとどうなるのか。相変わらずの未定ですが、気長にお待ちいただければ幸いです。

それでは

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