52、チョコレート
(ゲームやアニメでは殺しなんて当たり前だけど、実際の所どうなんだろうな……)
複雑な気持ちで歩を進める星。
と、ディオネはそんな彼の頭にポン、っと手を置き、優しく撫でた。
ビクッとして振り返った先に窺える彼女の表情は、微かに覚えている幼い頃の母親のようだった。
「少し休もうか」
彼女はそう言うと、ちょうど近くにある木陰を指さす。夕方ということもあり、人通りはあまりない。いや、それ以前に、盗賊が山に蔓延るようになってからこの道を通る者は格段に減ったのだろう。
「そうね」
カノンも異議なし、といった風に直ぐ同意する。
自分のために二人がそう言ってくれたのだと分かる星も断る筈などなく、三人は少々の休息を取ることにした。
それぞれ適当に腰を下ろすと、ディオネがおもむろに何かを取り出す。
「それって……、チョコレート!?」
と驚くのは星。スイカやコーヒーでもそうだったが、なぜか驚いてしまう。
「これを知っているのか。なかなかに貴重なもので、王族でもそうは食せないんだが」
「そうなんですか。俺がいた世界ではそこらへんの店で売ってて、結構いろんな種類をたべましたね」
「ほお、興味深いな。まあ、甘いものは疲れを癒すというから、食べてみようか。私もだいぶ前に食べたきりだから、あまり味を覚えていないんだ」
そして四角い板チョコを三等分に割って、二つを星とカノンに渡す。そんなに大きくはないので、食べ終えるのにそう時間は掛からないだろう。
「ん、いい匂い」
チョコレートを食べたことがないのか、触ったり、匂いを嗅いだりしているのはカノン。既に一欠片を口に含んでいる星、ディオネに続き、彼女も人生初のチョコレートを口にする。
ゆっくりと舌で溶かすと、独特の甘みが口いっぱいに広がる。
「ん~~、美味しいっ」
ほっぺたを押さえて瞳を閉じ、風味、食感を忘れまいとする。次に食べることができるのはいつになるか分からない。
じっくりとチョコレートを味わった三人は、一転して真剣な表情になる。
彼らにとっては、山賊をできるだけ被害を抑え早急に恭順させるのが一番だが、そうそううまくはいくまい。
「さて、どうしたものか……」
戦闘経験から言ってディオネが一番こういった策を考えるのが得意なのだが、星も毎回奇抜なアイデアで、盗賊を倒したり、カノンと共にディオネに一応は勝利した身ではある。
考えているうちに時間も過ぎ去ってゆくが、無策で突っ込むよりはずっとましである。
「やっぱり、二人で下っ端を引き付けておいて、残った一人が頭を捕らえるのがいいのかな……」
とカノンが提案するが、そこまでは星もディオネも考えていた。基本はその策でいいのだが、もちろん問題点も存在する。
例えば、頭を捕らえても下っ端が全く動じない場合だ。むしろモンスターを忌み嫌う者同士の結束で、余計に勢いを増してくる可能性すらある。
更に時は過ぎ、辺りは真っ暗になっていた。
「予定を変更し、今日はここで休もう」
三人は軽く携帯食料を食し、寝る準備をした。
夜中、ふと目が覚めたカノンは、隣で眠る星を見て囁く。
「君は、何があっても私が守るから」
皆さん、こんばっぱ~。
過去最大級に間が開いてしまいましたが、過去最大級に短いです。
次回も未定ですが、気長にお待ちいただければ幸いです。
それでは