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49、山賊退治に向けて

「お二人も戻ってきましたので、わたくしはお暇させていただきます。何かありましたらお呼びください」

 仕事モードに戻り──星の側にいることも仕事の一環だったのだが──アリスは部屋を出て行こうとする。

 星は慌てて、アリスさん、と呼び掛ける。

「ありがとうございました」

 アリスは薄くだが確かな微笑みを星に向け、扉へと向かう。

 カノン、ディオネが会釈し、自身も同様にすると、今度こそ部屋を出た。

 扉が閉まるのを確認すると、二人はベッドにて上体を起こしている星の許に向かった。

「二人と顔を合わせるのが久しぶりに思えてくるよ」

 カノン、ディオネの顔を最後に見てからまだ半日と経っていないが、二人、特にカノンとはこの世界に来た次の日からずっと一緒にいたからか、その姿を見るだけで安心した。

「そうだな。それほど一緒にいたということか」

 ディオネにとっては、長く生きてきたからこそ、こうして星やカノンと共に旅をする日々はとても貴重なものであった。

 先程までアリスが座っていた椅子に座り、カノンが心配そうに問い掛ける。

「星君、身体の方はどう?」

「ああ、もうすっかりよくなったよ。キレイに腹に打撃を受けたからかな」

 元気そうに笑む星を見て、カノンは心底ホッとしたように息を吐く。

「よかった……」

 二人共、星をただの救世主としてではなく大切な仲間として接している。だから、重症を負っていたら救世に支障が出るだとか、その類の心配はしていない。

 いや、全くしていないと言えば嘘になるが、彼女らにとっては星という一人の人間の方がよっぽど心配なのだ。

 と、星がタイミングを見計らい本題を切り出す。

「山賊退治の件は、どうでしたか?」

「ああ、今から話そうと思っていた所だ。それと、すまないな、置いていってしまって」

「いえ、全然気にしてませんよ。アリスさんともたくさん話せましたし」

「アリスさん?」

 誰? いう風に尋ねるカノンだが、直ぐにメイドのことだと思い至る。就寝中の星の側でメイドが彼を見守っていたのはカノンも知っている。

「城に着いた時から色々と世話してくれたメイドさん。なんでもファイの妹さんらしいよ」

 若干驚いたような顔をする二人だが、星が思っていたよりは静かな反応といえる。

「もしかして、二人共気づいてた?」

「確信はなかったのだが、見た目、雰囲気共にファイに似ていたからな」

「戦ってみればきっと分かったんだけどね」

 真に実力のあるもの同士ならば、戦っているうちに相手が身に纏う『何か』を感じ取ることができるものだが、ファイとアリスが兄妹ならばその『何か』に類似点があるのも頷ける。一度ファイと剣を交えたことのあるカノンだからこそ言えることだ。

 少しの間アリスについて話した後、本題に入る。

「まず日程だが、出発は明後日だ。明日は十分に身体を休めてくれ」

 星としてはやはり剣や魔法の稽古をつけてもらいたいが、それで身体を痛めても明後日の行動に支障をきたすだけだ。

「山までは徒歩で半日程歩けば着くらしい。山賊の数はクレイドが言っていたように約五千。殲滅するだけなら山ごと消してしまえば問題はないが、当面の目標は賊全体にラフェリアに忠誠を誓わせること、つまり恭順させることだ。どうしてもそれがかなわない場合は、退治するしかないだろう」

 五千もの人数を味方につけることができれば、モンスターに対してだいぶ優位に立てる。

 星達はまだ知らないが、現在、モンスターはウェリアル各地に十万体程存在する。もちろんその全てが恐竜型という訳ではない。

 だが、驚くべきはやはりその総数であろう。十万体分の粉をどうやって用意したのか……、いや、そもそも創造の粉とは如何にして造られるのか、誰が造りだしたのか、考えてもまだ分からないことだ。星達は旅の中でそれらを知ることができるのだろうか。

「ってか、山に五千人て、食糧とか直ぐに尽きるんじゃないですか?」

 もっともな疑問を口にする星。

 そう、と切り出してからディオネは続ける。

「前は山を通る人々から強奪していたようだが、そのうちそういった人々も危険性を熟知し、全く山に近づかなくなった。故に今は、山から下り集団で村を襲ったりもしているらしい」

 ウィーク村で実際に盗賊を目にした星だから分かるが、奴らは平気で略奪を繰り返すような人間だ。放っておいてはどれ程の被害が出るかも分からない。

 主にモンスターによって家族や仲間、家を失ってしまった者が盗賊へと成り果てるのだが、モンスターへの憎悪は、逆に彼ら自身をモンスターへと変えてしまっている。

「奴らも焦っているのだろう、近いうちに全員で王都に攻め入らないとも限らない。もしそんなことが起きれば民衆が大混乱することは目に見えている」

 それだけは絶対に避けなければならない。それは本来、絶対に流れてはいけない血であるのだから。

「これも全てはタナトスが……っ」

 カノンが恨めしそうに歯噛みした。

 彼女は、自分自身故郷の村を滅ぼされた身であるので、山賊達の気持ちは痛い程分かる。だからこそ彼らが無差別に他人を傷つけているというのが悔しく、そしてモンスター発生の原因であるタナトスが憎い。

「……いつか、そう遠くない未来、タナトスを倒そう。あいつはお前の仇であり、ならば私の仇でもある」

「もちろん、俺の仇でもあるよ」

「ディオネ、星君……」

 カノンが星達と旅をしているのは、大賢者であるディオネに育てられた身としてこの世界自体と深くかかわっているが故に、ウェリアル滅亡を阻止するために救世主――つまり、星――を見つけ、共にウェリアルを救うという、使命感のようなものを持っているから。

 そしてもう一つ。タナトスへの復讐だ。

 タナトスはカノンの故郷の村を焼き尽くし、同胞を皆殺しにした。そんな者を相手に復讐心を抱かない方がおかしい。

 しかし今は、星のことを側で見守っていたいという気持ちが大きい。

 星と出合ってまだ日は浅いが、カノンの中で星の存在はかけがえのないものとなっていた。それこそ一生を共にするパートナーさながらに。

「それでは続けよう、と言いたい所だが、特に話すべきことはもうないな。詳しいことは道中で話せばいいだろう」

 そこでひとまず、話し合いは終了した。



                              ◇


 昼食、夕食等を済ませ、あっという間に夜はやって来た。

(山賊五千人、か。俺に何ができるのかは分からないけど、二人の足だけは引っ張りたくない。……本当に、頑張ろう)

 布団の中、星は決意した。

皆さん、こんばっぱ~。久しぶりの投稿です。

山賊退治へは、次回には必ず向かいます。

それでは

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