4、スイカ
サブタイトルは、お気になさらず。
あれから五分もしないうちに、星は再び眠りに就いた。よほど疲れていたのだろう。
少女も、未だに燃えている焚き火を海水で消し、
他者が来たら音がなるような簡単な罠を仕掛け、星の向かい側で仰向けになり、瞼を閉じた。
「おやすみ」
そうして少女も、ゆっくりと寝息をたてていった。
◇
翌朝。
割と早く起きたなあ、とか言いながら、星は辺りを見回す。
「あれ、あの娘は……?」
少女がいない事に気付き、焦る。さながら、迷子になった子供のようだ。
星はとりあえず、静かに待っていることにした。
二十分ぐらいして、少女は戻って来た。両手で何かを抱えている。
星は手伝おうとしたが、
少女は涼しげな顔で歩いてくる。あまり重くもないのだろうか。
星に気づいた少女は、抱えている物を地面に置き、星に話しかけた。
「おはよう。よく寝れた?」
「あ、ああ」
星は、空返事を少女に返す。何故なら――星は、少女に見とれていたからだ。
昨日は混乱していてあまり顔は見なかったし、 夜も、暗くてよくは見えなかったが、改めて見るとものすごい美少女である。
腰の辺りまで伸びる美しい金髪が風に靡き、瞳はエメラルド色に煌めいている。頬と唇はほんのりとした桜色が印象的だ。身に纏っている服のような鎧からは、すらりと細い手足が伸び、その肌は、病的な程ではない、健康的な白さをしている。
「どうかした?」
少女が問うた。
「あ、いや、何でもない」
見とれていただなんて恥ずかしくて言えない星。適当に誤魔化して、話を反らす。
「その大きいのは、何? ええと……」
ええと、の部分で何を聞かれているのか少し迷った少女だったが、直ぐに、名前だろうと検討を付ける。
「そう言えばまだ名乗ってなかったわね。私の名前は、カノン・ミシュリ。気軽に、カノンって呼んでね」
やっぱり、日本人の名前っぽくはないな、と考えながら星も自己紹介をする。
「ん、俺は天枷星。俺の方も星でいいよ」
「じゃあ、星君。さっき周りを探索してたら、なんとスイカが落ちていたの!」
カノンと名乗った少女は、そう言いながら地面に置いてあるそれを指さす。
「あるのか!? スイカ」
密林でスイカ? というのはさておき、この世界にスイカがある事に驚く星。対してカノンは、普通だけど、というような表情をしながら返答する。
「うん。暑い季節になると、たくさんの人達が食べてるよ」
「へえ。俺がいた地球っていう世界でもあったよ、スイカ」
異世界に地球の食べ物があるのに驚いた星だったが、ここ(ウェリアル)の人達からしたら、自分も異世界の人だな、と思い返す。
「じゃあ、食べましょ」
星が考えている間にスイカを切っていたのか、 カノンが、見事に十等分になっているスイカを星に差し出した。
「ああ、そうしよう」
そしてなぜか、スイカ食べ会が始まったのであった。
◇
「もう食えないっ」
「私もっ」
二人は、一時間で五切れずつ、即ち半分ずつスイカを食べた。その結果、至って普通の体型の星、ましてや細身のカノンは、腹を抱えて悶絶していた。
暫くして体調も良くなってきた二人は、お互いに笑い合った。
「美味かったけど、食いすぎたなぁ」
「本当。お腹パンパンだよ」
二人共なんだかんだで満足そうである。
だが、星もカノンも、お互いに話す事は山程あるのだ。そうのんびりもしていられない。
自然と真剣な表情になっていく二人。空気さえも厳粛している。
星が口火を切った。
「で、世界を救うために俺は何をすればいいんだ?」
つい最近まで、普通の高校生として春休みを謳歌していた彼に、どうやって世界を救う術があるのか。その答えを得るため、星は期待を込めつつも真剣な眼差しでカノンを仰ぎ見る。
彼女は、それに端的に答えた。
「実は、分からないの」
「え? それはどういう……」
「アグライアはあまり具体的な事は言わずに、救世主が現れる、とだけ言ったの」
その返答に動揺する星。
「それじゃあ、俺はどうすれば……」
黙り込む星。同様にカノンも黙っている。が、彼女は突然顔を上げると、言った。
「まずは、アグライアを探す事から始めるのが良さそうね」
それは言外に、アグライアを探さなければ何も始まらない事を語っていた。
「やっぱり、それしかないか。でも、そのアグライアっていう人がどこに住んでいるか分からないとなると……」
「この広い世界を片っ端から探さないといけない事になるわ」
この世界、ウェリアルがどれ程の広さなのか星には分からないが、一生掛かっても大賢者を見つけられないかもしれない事は分かっていた。
それはつまり、世界を救えない、即ち地球に戻れない事を意味する。
星は、どんなに困難でも、ただ前に進む事に決めた。
迷ってなんかいられない。彼は自分の命の恩人に別れを告げる。
「カノン、君には本当に世話になった。感謝してもしきれない」
だが、彼女は不思議そうな顔をして、その後笑いながら言った。
「私も一緒に行くよ。ちょうどアグライアを探してた所だし」
驚いた表情でカノンを見つめる星。その瞳は何かを問うような色をしている。
それに対し、カノンは目を逸らした。いや、他の場所を見た。そう、現在いる海岸の奥、木々が生い茂る密林を。
「星君、ゆっくりと、慌てずに私の後ろに隠れて」
星に言葉を放つが、その二つの瞳はしっかりと密林の方に向いていた。
そして、そいつらが現れた。
昨日、星を襲った、あの恐竜が。
なんだかんだで、前回更新から3日経ってますね。
ゲームや読書等で忙しいですが、途中で終わる事はないと思います。中途半端は嫌いなので。
それでは。