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48、アリス・オミクロン

「う~ん」

 無意識に声をあげながら、星は目を覚ました。

「おはようございます」

「ん、ああ、おはよう」

 覚醒したての意識を眩しさに慣れることに傾け、声の主を見る。

「…………あ、れ?」

「どうかなさいましたか?」

「い、いや、そういう訳では。って、なんでメイドさんがこんな所に!? 俺はまだ夢を見てるのか?」

 一気に眠気が吹き飛んだが、変わりに混乱と慌てが頭を席巻する。

「現実です。あなたにとっては夢も同然かもしれませんが」

 だんだん星は冷静になっていく。

(ってか、起きたらベッドの側にメイドが立ってるって、よく考えたら凄いシチュエーションだよな)

 我ながらアニメやゲームの主人公みたいだな、と今更ながら思いつつ、メイドの身体をじっくりと眺めてしまう。

 リボン等の飾り付けが少ないメイド服はかえって、細身の腰、標準的な大きさの胸を強調し、その長身も相まってそこいらのモデル顔負けのプロポーションを実現している。

 艶のある銀の髪は大きく三つ編みで結っており、それだけでまるで芸術品のような美しさ、色香を感じさせる。全てを射抜き、また、全てを内包するがごとき切れ長の瞳は紅に輝き、星の姿を映し出す。

「そ、そうだ。カノンとディオネはどこへ?」

「お二人は、既に話し合いの場に向かわれました」

「え、それじゃあ俺は、その間ずっと寝てたのか……」

「気にすることはありません。なれない戦闘で疲れていたのでしょう」

 罪悪感を顔に表す星に、メイドは今自分がここにいる事の成り行きを説明する。聞き手が星でなく彼女をよく知るものならば、彼女の口調が『淡々と』ではないことに気づいただろう。それを置いておくとしても、意外、と言っては失礼だが、よく話してくるメイドに星は親しみを感じた。

「そうですか。なんかすいません、俺のために」

「いえ、務めですので」

 メイドはいかにも事務的に受け答えるが、次にはやや神妙な顔つきになり、仰向け状態の星の瞳に視線を送る。

「ですが、個人的にあなたと話をしてみたいとも思っていました」

 この世界の人からすると、星の方が異世界から来た人間という事になるので、興味を持たれるのは当たり前である。首肯する星を確認すると、メイドは先を続ける。

「まずは名乗っておきましょう。わたくしの名はアリス・オミクロンと申します」

 星はつい、ビクッ、と反応してしまう。

「オミクロン……?」

「あなたが思っている通りでしょう。わたくしはファイ・オミクロンの妹になります」

 よくよく言われてみれば、なるほどと思う。切れ長で紅の瞳、艶やかな銀髪、そして美形な所などそっくりだ。

「兄妹揃って城勤めですか。なんか、いいですね、そういうの」

「ええ、兄には昔から世話になりっぱなしでしたから、こんどはわたくしが近くで恩返しをする番なんです」

 いつになく生き生きと喋るメイド――アリスに、星は穏やかに微笑む。星の中で彼女に対するイメージは初めと打って変わった。

「ファ、いや、お兄さんのことが好きなんですね」

「はい。あなたが仲間のお二人に対して思うように、わたくしも兄を誇りに思っております」

 アリスは微細に、しかし星にもはっきりと分かるくらいの笑みを見せる。

(アリスさんみたいな人が妹で、ファイが羨ましいな)

 と、星はアリスが立ちっぱなしなことをふと思い出す。

「あの、どうぞ座ってください。ってか、俺も起きます」

 重い身体を無理にでも起こそうとするが、思いの外なかなか力が出ない。やはりギャノンのパンチが応えているのだろう。

「お心遣い感謝しますが、あなたは寝ていてください。救世主たる者、無理はなさらぬよう」

 壁際に整然と置かれている木製の椅子を持ってきつつ星を戒める。

 星は言われた通りに、起きるのを止めた。というよりは身体を起こすだけの力が出なかった。やはり、先程の戦いで予想以上に身体にダメージを受けたらしい。

「再び休みますか? お二人が戻ってくるまではここにいますが」

「いえ。俺もアリスさんと色々と話してみたいです」

 アリスと話せば何か重要な情報が得られるような気がする、という謎の勘もあるが、彼女と同じく星も個人的に話をしてみたいと思っている。趣味や日常生活、なんならただの世間話でもいい。

「そうですか」

 嬉しそうに微笑するアリスを見ていると、初対面の頃はただ職を全うしているだけだと思っていた彼女も、実は話しやすい人なんだ、とこちらが嬉しくなる。

「では。──まずは、先程の戦いお疲れ様でした。わたくしの目から見ても最後の動きは実に良いものでした」

 純粋に褒められ少々気恥ずかしいが、直ぐに、いえいえと謙遜を表す。

「たまたまですよ。全部カノンのおかげと言ってもいいくらいです」

「確かに彼女の力によるところは大きいでしょう。ですが、実質勝負を決めたのはあなたです。自信をお持ちください」

「……そう、ですね。俺、実力がないことでカノンやディオネに負い目を感じていたんだと思います。救世主で、しかも男なのに、彼女達には守ってもらってばかりで俺からはほとんど何も……。ははっ、こんなこと二人に言ったら絶対怒られますよね」

「…………」

「もう負い目を感じてないって言えば嘘になります。けど、彼女達に着いていけるようになるまでは頼ってもいいんじゃないかって思います。きっと、俺一人じゃこの世界を救うことはできないから」

 まだ星は弱い。ギャノンに勝てたのだから常人の中では強いくらいのレベルにはいるのだろうが、それではダメだ。カノン、ディオネに並ぶぐらいの実力を得なければ、強敵とは満足に戦えない。

 そして、強くなるには、剣の腕を上げ身体能力を向上させることはもちろん、魔法の習得が不可欠と言える。

(確か、ディオネが魔法を教えてくれるんだったな。この件を終えたら教えてもらおう)

 魔法を習得すれば、いよいよもって力の上で人外のごとき存在となるが、星はそんな些末なことは気にしない。普通の『人』を遥かに超えられるのならば、自分自身が大きな戦力として敵と戦うことができる。

「そうですね。どのようなことがここウェリアルで起こり、どのようにして滅びゆくのかはわたくしには分かりかねますが、あなた方の手助けになるのならば何でもお手伝いいたしましょう」

 なぜアリスがそこまで協力的なのかは分からないが、星としては非常にありがたい。なので一つ礼を言っておく。

「ありがとうございます」

「いえ。ウェリアル滅亡を防ぐためにわたくしの力が役立つのでしたら、それに越したことはありません。それはそうと……何か、わたくしに聞いておきたいこと等ありますか?」

「そうですね……、ここ最近、タナトスと名乗る赤い髪を逆立てた黒マントの男を見たって情報はないですか?」

「……ダレッタの町にいた商人が、ちょうど先日そのことを伝えにやってまいりました。ですが、ここレフェリアではそのタナトスとやらを見たという話は聞きません」

 レフェリア内でタナトスが何か事を起こしていれば、今頃ここは火の海に包まれているだろう。ならばタナトスは、現在ここ周辺にはいない筈だ。奴が無作為に町や村を襲っているのならこれ程大きな町、しかも王都を見過ごす筈はない。

 少し凝ってきた首をマッサージしつつ、星は仰向けのまま再び首をアリスの方に向ける。

「よかった……あいつがレフェリアを襲ってたらどれだけの被害が出ていたか」

 安心のためか更に身体が脱力する。寝ていなかったら床かどこかに座りこんでいた所だろう。が、アリスとの会話を中断したくはないので直ぐに話を始める。

「そういえば、ファイにこれをもらったんですが、何か効果があったりするんですか?」

 右手の中指に嵌められた黄金に輝く指輪をアリスに見せる。

 ちゃっかりファイの名をそのまま呼んでいるがアリスにそれを気にする様子はない。彼女は両手の指を忙しなく絡ませ、一瞬だが目を見開いた。

 明らかに動揺している。

「兄が、それをあなたに?」

「はい」

「まさか……、いえ、あなたになら託してもいいと思ったのでしょう」

「この指輪、そんなに高価なものなんですか? それなら、お返しします」

「そういう訳ではありません。それは……あなたが実際に効果を体感した方がいいでしょう」

 肝心な所をはぐらかす所も兄にそっくりだ。しかし、それには何か理由があるのだろう。

 星はアリスをそれ以上追及することはしなかった。何より、この指輪はもともとはファイのものだ。自分が色々と口出しできる立場ではない。

 このなんの変哲もない指輪にどんなに素晴らしい力が宿っているのかは星にはまるで分からないが、アリスの言い方によると、旅を続けていくうちにこれの効果を体感できる時が来るのだろう。

 その後も二人は会話を続けたが、星がウェリアル崩壊の根本を知るに至ることはなかった。これが分かれば具体的にやるべきことが確立するのだが、逆に分かったとしても今の星ではどうすることもできないのだろう。

 RPGの主人公パーティは旅の過程で研鑽を積んでレベルを上げていくものだ。いきなりラスボスの魔王に挑んでも勝ち目はない。

 この世界がゲームな訳ではないが、どうしても星はこのような、モンスターが徘徊し盗賊が闊歩し邪な心を持つ者が暗躍する世界をゲームで例えずにはいられない。

 そうこうしてるうちにだいぶ時が過ぎていたようだ。

 カノンとディオネが戻って来た。

皆さん、こんばっぱ~。1ヶ月以上も開けてしまいましたが何とか投稿です。

次回は、山賊退治に向かう、かな。

それでは

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