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45、奇策

 戦いが終わり、ひとまず三人は王達の許へ行き山賊を倒す旨を語った。

 身体を休めるためにも詳しい話はまた後で、ということでとりあえず部屋に戻ることにした。

 メイドが何か思わしげな表情でディオネを見ていたのに気付いた者は、誰もいなかった。



                              ◇



 部屋内。

 星、カノンが隣同士で座るソファーの反対に、テーブルを挟んでディオネも腰を落ち着けている。

 それぞれの剣は、壁の一ヶ所にまとめて立て掛けてある。

 再びコーヒーを飲もうとしたディオネだが、身体に悪いと言ってカノンは冷茶を淹れた。三千年も生きているディオネの身体の心配は杞憂と言えるかもしれないが、そのディオネは残念そうな顔をしながらも目に優しさを溢れさせている。

 さて、とディオネが切り出した。

「私の負けな訳だが、カノン、天枷、お前達の策を聞かせてはもらえないか?」

「ええ、いいわよ」

 と得意気に言うカノン。今回は星も勝気な笑みを浮かべている。

「私達の作戦は――」



                              ◇

 


 そもそもディオネを倒すには、どうにかして少しでも彼女の動きを止め、更にその間に決定打をたたき出す必要があった。

 勝負を決めるのは星、というのは割と早く決まった。というかカノンが決めた。星が攻めた方が不意をつけるし、カノンの行動も幾分かは楽になるからだ。

 そしてカノンの魔法だが、最大の利点である無詠唱発動を生かさない手はない。実際所々で魔法は効果を発揮した。

 具体的に作戦と呼べそうなものは無論、『機』の後である。

 まずはいきなり放電したディオネの剣。

 カノンとディオネはほぼ終始剣によって決闘を進めていたのだが、カノンは、剣を弾く時に摩擦によって少しずつ特別な電気を送っていたのだ。もちろん特別な電気というのは魔法だが、それをディオネ相手に気づかれずにやってのける点、カノンの強さが十分窺える。

 しかし、ただ電気を送るだけでは狙って放電させることはできない。

 そこで利用したのが星の携帯電話だ。

 携帯電話や各種機器で通信を行うと、どこに繋いだかによって電波に違いが生じる。そこでカノンは、星の携帯電話のネット接続時に伴う電波と同等のものを自身の魔法で創り出し、合図の雷で、星がネット接続ボタンを押した際に、ディオネの剣に溜まっている電気と反応して放電するようにしたのだ。

 ディオネが怯んだ直後のカノンの動きには、後から考えてみると目を瞠るものがあった。

 真正面からディオネに攻めかかり、右上段からの斬撃を繰り出す。持ち前の反応速度でディオネはこれを防いだ。が、想定外の出来事により意識は星から離れていた筈である。カノンの狙いはここにあった。

 この間に星が勝負を決めることになり、実際にやってのけたのだが、実は彼がディオネの後ろを取ったこと自体、並大抵のことではない。

 ただ走ってディオネの許に向かうには星の足では五秒は掛かり、それだけの時間があればディオネならば余裕で対処できる。

 なら、なぜ星はディオネに気づかれることなく彼女の背後を取ったのか。

 それは、やはりカノンの魔法によってだ。

 予め星の脚部に電気を纏わせておき、ディオネを怯ませた後にその電気を解放。爆発的な脚力を得た星はそのまま突っ込む。普通だったら、ほぼ一般人に近い体力の持ち主である星の脚はそれで壊れてしまうだろうが、そこはカノンがきちんと調整している。

 そして二人はディオネに勝利した訳だ。



                              ◇



「流石だ、としか言い表せないな。ホント、私はお前達が誇らしいよ」

「あなたは魔法を一切使ってなかったけどね」

 皮肉気にカノンは言い放つ。

「それを言われるとおしまいだな…………。悪い」

「いいわよ。だって、ディオネが魔法を使っていたら、ううん、本気で掛かってきたら私達は直ぐに負けてしまうわ」

 剣術では間違いなくウェリアル最強のディオネが、更に魔法を用いたら、いい勝負ができるのは同じ大賢者であるアグライアかクレイオーぐらいだろう。後は、星が救世主としての力に目覚めれば或いは……。

「だが、本当に感心した。私ではあんな奇策到底思いつかなかっただろう。二人で考えたのか?」

「ううん、星君が何から何まで。私の魔法をあんなに生かせたのも、それでディオネを倒せたのも星君の作戦があってこそよ」

 それを聞くと、ディオネは心底感心したように星を見る。彼は、あはは、と照れたように笑っている。

「作戦を考えたのは俺ですけど、ディオネと真っ向から戦ってたカノンに比べればなんてことないですよ」

「いや、それ抜きにしても良い作戦だった。天枷、カノン、これからのお前達の成長が楽しみだよ」

 カノンは、更に実力を伸ばせば確実にウェリアル最強クラスの剣士になれるし、星は救世主という特性上、何か特別な力が宿っているとカノンとディオネは信じて疑っていない。星自身ももちろんそうであってほしいと願っている。

 ところで、星、カノンが勝利したということは、二人も山賊退治に同行できるという訳である。

 そのことを星が話すと、ディオネは真剣な表情になって口を開く。

「ああ、もちろん一緒に行っていいのだが……天枷にとって――いや、私やカノンにとってもあまりよくない光景を見ることになるぞ」

 よくない光景とは、山賊達の死体の事だろう。大群の山賊自体よくない光景であるが、死体となればなおさらだろう。

 ディオネは、話し合いで解決できるならそれに越したことはないと思っているが、王の話では、何度か送った使いが一人として戻ってきていないとのことである。死んだか賊に引き込まれたかのどちらかの可能性が高いが、どちらを例にとっても、交渉の余地は皆無と言ってもいい。

「それでも俺は、行きます」

「もちろん、私も」

「……本当にいいんだな?」

 二人は当たり前だとばかりに頷く。

「よし、ならば休んだ後クレイド達の許に向かい、詳しい事を決めよう」

 そして三人はそれぞれ休息をとったのだった。

皆さん、こんばっぱ~。

久しぶりの投稿ですが、短くてすいません。星とカノンの作戦をまとめるのに手こずってました。

電気の性質とかかなり無視してますが、物理的に長々と説明するよりはいいと思いました。それにカノンが創り出す電気は魔法ですから、既存の物理法則に従わなくても何らおかしくはありません。

奇策と書いておきながら無理があるだろ、と見返してみて思いましたが、自分の発想力では真の奇策は思いつきそうもなかったんであのようなものになりました。

それでは


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