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43、決闘前

 星、カノン、ディオネが食堂を出ると、おなじみの寡黙なメイドが起立していた。

 彼女は三人に軽く一礼すると、機械のように──とまではいかないが、感情希薄に話し掛ける。

「部屋までお連れいたします」

「ああ、ありがとう」

 部屋までの道のりは三人共覚えているが、無下に断るのも悪いので礼を言って付いていく。

 客室まで戻ると、メイドは、

「衣類が乾きましたので、室内に置かせていただきました」

 そう言うなり、どこかへと去っていった。

「……あのメイド、相当な手練れだな」

 思わず感心してしまった、という風にディオネは呟いた。

「ええ、まるで隙がなかったわ」

 とカノンも同意する。

「マジか……全然分かんなかった」

 星が一人そっと呟く間にディオネが扉を開けた。

 右側にあるテーブルの上には、三人それぞれの衣服が綺麗に畳まれている。

「俺は外にいるから、着替え終わったら言ってくれ」

「あ、悪いな。直ぐに着替える」

 カノンとディオネが室内に入っていくと、星は扉を閉める。

(自然に入っていって、一緒に着替えようとしたらどうなるんだろうな)

 あの二人のことだから、追い出したりはしないのだろう。

(ああ、俺もやっぱり男だな。………………ディオネをどうやって倒すか考えるか)

 強力すぎる敵を倒すには自滅を誘うというのが鉄板だが、ディオネがそう易々と自滅するとは思えない。よって却下。

 携帯電話を使って何かをする。電子機器などないウェリアルではかなり奇をてらうことができるかもしれない。これは候補に入れておく。

 ごり押し。これは星が使い物にならないし、カノンもおそらく負ける。ただの蛮勇にディオネも呆れることだろう。よって却下。

(う~ん、どうすりゃ勝てるんだろ。ディオネが戦ってる所を俺自身見たことはないけど、カノンが自分より強いって言ってるんだ、相当強いんだろうな)

「星君」

 カノンの声と共に部屋の扉が内側から開いた。 

 彼女はいつもの鎧っぽい――言う程鎧っぽい訳ではないが――服を着ている。休息は終わったんだと実感させられる。

 自身の黒ティーシャツ、ジーパンに向かうと、今度はカノン、ディオネが出て行こうとする。

「あ、出なくてもいいよ。俺は男だし見られてもあまり気にならないから」

「ん、分かったわ」

 女性二人はこちらに戻って来てソファに腰を落ち着ける。ソファの真ん前に衣服が置かれているテーブルがあるので、星は自分が寝ていたベッドに行き、着替える。

 一分もせず着替え終えると、星もソファに座る。

 代わりにディオネが立ち上がった。

「先に行くぞ」

 そして、星の肩をポンと叩くとゆっくりと部屋を後にした。気遣いなのかどうかは分からないが、とにかく二人は感謝する。

「カノン、早速だけど、どうする? 作戦とか」

「正攻法ではまず無理ね」

「やっぱり、策、それも奇策を練るのが一番かな」

「それなら、ウィーク村の時に使った、携帯電話は?」

「ああ、俺も考えた。でもあんな単純な方法じゃダメだ」

 あの時は挑発の台詞を録音して流しただけだったが、盗賊達が能無しだったからこそできたことだ。そんな罠に引っかかるようなら、ディオネは大賢者などと名乗ってはいないだろう。

 闘技場という限られた範囲故に、策を練ろうにも複雑なものはできない。

 やはり正々堂々、正面からぶつかるのが一番なのか……。

 カノンが立ち上がり、コーヒーを淹れて戻って来る。

「ありがとう」

 熱いというよりは温かいコーヒーをカップ半分程飲むと、頭が少し落ち着いた。

 しばらく瞼を閉じ、考え込む星。カノンはそんな星を穏やかに見守る。

「カノン」

 ゆっくりと瞼を開く星の顔は、満足そうに微笑んでいた。

 彼はカノンに、思いついた策を雄弁に語った。

「……なるほど、それならいけるかもしれないわ」

「だけど、相手はディオネだ。カノン、いけるか?」

「いけるか、じゃなくて、やってくれ、って言ってほしいわ」

 ちょっぴり頬を膨らませるカノン。そんな彼女を見て素直に可愛いと思う星だが、一つ笑って、ごめん、と軽く謝ると、真剣な表情に戻る。

「カノン、ディオネを倒してくれ」

 カノンはふふ、と不敵な笑みを浮かべる。彼女とてディオネに全く及ばない訳ではない。勝機は必ずある。

「任せて」


 

                         ◇



 おなじみのメイドに案内され、星とカノンは闘技場へと足を踏み入れた。

 一辺が五十メートルの正方形で、均等に石版が並ぶ、割とイメージしやすい闘技場だ。障害物や遮蔽物の類はもちろんない。よってそういうものを利用して戦うのは不可能だ。

 クレイドとクレアは被害が及ばないと思われるぐらい離れた所に立ち、黙って事を見守っている。メイドもそちらに向かい、王夫婦の後方に姿勢よく立つ。

 ディオネは目を瞑り悠然と佇んでいたが、星とカノンがやって来ると、ゆっくりとその翡翠色の瞳を二人に向ける。

「……来たか」

「ええ、あなたを倒すために」

「そうか……ならば見せてみろ、お前達の強さを!」

「上等っ!」

 そしてカノンは剣を掴む。

 跳ぶ。

 決闘が始まった。

 

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