41、レフェリア城の朝
朝。
「ん~っ」
と気持ちよく伸びをするカノン。疲れは完璧になくなり、身体中活気に満ちあふれていた。
ふと辺りを見てみると、ディオネが既に起きてコーヒーを飲んでいた。
「相変わらず早いわね、ディオネ」
とあくび混じりに言いながら、ディオネの隣に腰を下ろす。
「私もつい先程起きたばかりだ」
室内はまだ薄暗い。カーテンの隙間からはまだ陽光は射し込んできていない。
「コーヒー、飲むか?」
「うん」
ディオネはカップを卓上に置き立ち上がると、設置されているコーヒーメーカーの容器内に残っているコーヒーをカップに淹れた。
カノンの前に湯気がたつコーヒー、そして砂糖とミルクを置く。カノンはブラックが苦手なのである。
「ありがとう」
砂糖とミルクを入れてかき混ぜた後、カップを持ち上げ、少し息をかけて冷ます。
「ふぅ、ふぅ」
そしてちょっとずつ口に含んだ。熱いのがそこまで苦手な訳ではないが、平気で飲める程ではない。
「うん、美味しい」
「それはよかった」
二人は声のトーンを少々落として喋る。まだ寝ている星を気づかってのことだ。同様の理由で電灯もつけていない。
しばらくコーヒーを飲みつつどこか虚ろな意識を覚醒させると、カノンは、ディオネ、と切り出した。
「星君が魔法を発動できなかったのは、一体何が理由なのかしら?」
「んー……これは私的な意見だが、天枷の中を循環する魔力の流れが不完全なのではないかな」
「魔力は確かに星君の内に存在するけど、それをうまく使いこなせていない、ということね」
「まあ、そんな所だ」
言ってしまえば、各所が接続されていない回路のようなものだ。その回路がうまく繋がれば、電流のように魔力も円滑に流れ、魔法を行使することができる。
幻影の小屋を例にとっても、星の身体に魔力が存在している(流れている)ことは確実だが、魔法を行使することはカノン、ディオネが言うように、簡単なことではない。
故に、星は日々鍛練を積み重ねて魔法を会得していくのが筋なのだろうが、だとすればそれはアグライアの言に矛盾すると言えなくもない。まあ、星が危機になれば魔法を使えるということにカノン、ディオネに異論はないのだが、できれば常時魔法を行使できるようになってほしい。
「天枷には魔法と剣術は是非ともお前くらい強くなってほしいものだが、救世主の名を背負った天枷は見た目以上に重責を抱えていることだろう」
星は決して心が強い訳ではない。気丈に振る舞っているように見えて実は多大なプレッシャーを抱えてました、というのが地球、ウェリアルを問わず今までに何回もある。
そんな中、身体的、精神的両面で疲労を抱えたまま剣や魔法の鍛練をしていては、いつ倒れるかも知れたものではない。
「確かに星君はまだ強い訳じゃない。でも、いつか私より、もしかしたらディオネよりも強くなるんじゃないかって思う。根拠はないんだけどね」
「……ああ、その時が楽しみだ」
ディオネは、深い眠りに就いている星を一瞥すると、意味有り気に口元に笑みを浮かべた。
そうだ、とカノンは呟く。
「顔を洗ってくるわ。このままだとみっともないし」
「ああ」
と言うディオネは既に顔を洗い髪を梳かしていた。そして流れるような黒髪もいつものポニーテールにまとめてある。衣服は、三人共メイドに預けてある。もちろん洗ってもらうためだ。
「さて、私はどうしようか。天枷の寝顔でも見るか」
と、ディオネが星の許に来た直後だった。
「ふああぁぁ」
「起きたのか……。残念」
星の寝顔を見れずちょっと悔しげなディオネなど露知らず、星は目を少しずつ開く。
「ん、う~ん」
「おはよう、天枷」
「あ、ディオネ。早いですね」
「まあな」
星はカノンが寝ていたベッドを見る。
「カノンは……、ってカノンももう起きたのか」
「お前が起きる少し前にな」
「そうっすかふぁああああ」
「眠いならまた寝てもいいぞ。後で起こしてやるから」
「い、いや、俺は、ふあああぁぁ」
「寝たほうがいい、というか寝ろ」
「あ、じゃあ、お休みなさい」
星は直ぐに深い眠りへと落ちた。
三時間後。
星が落ちたのが四時だったので、今は七時だ。
「……か……」
(ん? 何か聞こえる)
「天……せ……」
「ん~、あと少し」
「天枷っ!」
「!?」
ガバッと一瞬で起き上がった星の姿は正に傑作であった。
◇
食堂。
昨日と同じように、王族達――クレイド、クレア、ギャノン、シュリテア、シャリイ――が席に着いて談笑していた。
「いらっしゃいましたか」
やって来た星、カノン、ディオネにいち早く気づいたシュリテアが告げる。
「悪いな、待たせてしまって」
ディオネがそう言うと、クレイドが返す。
「いや、旅の疲れが出ていただろうから、寧ろゆっくり休んでもらえたようで良かった」
三人は昨日と同じ席に着く。
やはり朝から豪華な食事が並んでいた。
一見すると一般人の食事に見えなくもない。というのも、食卓に並ぶのはロールパンやサラダや目玉焼きなど庶民的な食べ物が大抵を占めているのである。
しかし見る人によっては分かるかもしれないが、どれも最高級の素材を使用している。見た目だけでは判別できない人も、食してみれば分かる。
いただきます、と言ってからロールパンを一口かじった星は、思わず顔を綻ばせる。
「美味いっ」
このロールパン一つを取っても、小麦からこだわり、一流のパン職人の手によって丁寧に作られている。
そんなこんなで皆朝食を食べ終え、しばらくするとクレイドが口を開いた。
「ギャノン、シュリテア、シャリイは一度外してくれ。私達は客人のお三方と大事な話があるのでな」
それなら、とギャノン、シュリテアは直ぐに食堂を出ようとするが、シャリイは、
「まだ星さんとお話したいよぉ」
と残念そうに星を見る。
「ごめんね、シャリイちゃん。本当に大事な話なんだ」
「でも……」
「そうだ! またシャリイちゃんの部屋に行ってもいいかな?」
と星が言うと、シャリイは顔を華やかせる。そして、兄と姉と共に食堂を後にした。
「さて、始めるとしようか」
皆さん、こんばっぱ~。
この小説も初の投稿から1年が経過しました。1年でこのペースは正直自分でも遅いと感じますが、まあなんとかやってこれました。
拙い文章ですが、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。