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40、穏やかな夜

 前を歩くシャリイの小さな背中を見ながら、星は微笑む。

 ――二人は、シャリイの部屋に向かうために城内を歩いていた。

 ところで、星を呼びに来たシャリイは、薄紫色のローブを着ていた。既にシャワーを浴びたのだろうか。

 螺旋階段を幾らか上った先に、シャリイの部屋はあった。王族なので、他の政務諸々に使うような部屋とはだいぶ離れている。

「ここが私の部屋だよ」

 と元気よく言いながら、シャリイは華美な装飾が施された扉を開ける。

 一言で言えば凄い部屋が広がっていた。

 可愛らしくピンクで彩られた室内はきちんと家具類やその他の品が整えられていて、ピンクの統一感に清潔感が相乗されている。

 部屋を見れば人が分かるというが、シャリイに対して、おてんばでいながら芯はしっかりとしている女の子だという印象を星は改めて受けた。

 掃除をしているのは召し使いだろうが、主の使いようによっては、部屋は直ぐに汚くなってしまう。その点でもやはり彼女の性格が窺える。

「座って、星さん」

 天蓋付きのベッドに自身座りながら言った。

 星はシャリイの隣に腰を下ろす。

「シャリイちゃん、何する?」

「星さんとたくさんお話したい!」

「うん、いいよ。じゃあ、何か聞きたいことはある?」

 ん~と、と少し考えてシャリイは尋ねる。

「星さんは、何で旅をしてるの?」

 答えづらい質問だった。旅の目的は世界を救うことだが、具体的に説明しようとしてもなかなかに難しい話になる。そして、十歳程の少女にウェリアルが危ないなどと言いたくはなかった。

 結果、彼はこう答えた。

「みんなを幸せにするためだよ」

 間違ってはいないが、正確にあっている訳でもない。

 誰かが幸せになる過程では、必ず不幸になる人が出てくる。

 全ての人々が幸せな世界なんて、現実的に考えて存在しないのだ。

 例えば、どれ程優秀で評判の良い王がいたとしても、彼或いは彼女の治世に反発する悪官僚や邪心を持つ国民は、少ないながらも幾人かはいる。

 世界中の人々を遍く幸福にするには、それこそ神にでもなる必要があるだろう。

「みんなが幸せになるなら、星さんも幸せになるんだよね」

 鋭い、と星は思った。

 星自身、救世主としてこのウェリアルを救ったら自分がどうなるかなど到底分からなかった。

 日本に戻れるかもしれないし、カノンやディオネとこの世界で暮らしているかもしれないし、もしかしたら死んでいるかも分からない。

 しかし星は、シャリイに悪い気分にはなって欲しくないので、ゆっくりと首肯する。

「うん」

 と短い返事。そしてそのまま、

「じゃあ、今度は俺からシャリイちゃんに聞いてもいいかな?」

 うん、と元気よく頷くシャリイ。彼女は立場上、普段は王族や城の者以外とは滅多に話したりしない。だから星とこうしてゆっくりと話すことが至上の喜びなのだ。

「お城での生活は、楽しい?」

 聞いた後で若干後悔する。なぜなら、

「うんっ!」

(愚問だったな)

 シャリイの満面の笑みと元気な言葉が、全てを物語っていた。



 シャリイは、ふわぁ、と大きなあくびをする。

 星は携帯電話を開き時間を確認すると、少し驚いた。あまり時間が経っていないような気がしていたが、どうやら一時間以上話していたらしい。

 シャリイもまだ十歳程の女の子だ、もう眠くなったのだとしても仕方ない。いつもはもう寝る時間なのかもしれない。子供の夜更かしは厳禁だ。

「じゃあ、俺はもうそろそろ行こうかな」

「……星さん」

「ん?」

「寝るまで、ここにいて……」

 懇願するように上目遣いでシャリイは星を見る。

「ああ、もちろんいいよ」

 という星の返事に、シャリイは無邪気に微笑む。

「ありがとう」

 シャリイが布団に入ったのを確認すると、星は立ち上がり、電灯を消した。

 部屋の中は真っ暗になり、視界が一気に狭まる。

「おやすみ、シャリイちゃん」

「うん、星さん、おやすみ」

 直ぐに可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 しばらく星はシャリイの寝顔を見ながら微笑むと、シャリイの許を離れた。

(おやすみ)



     ◇



 シャリイの部屋を出た星は、一度大浴場の前まで戻ってから、メイドに案内されたルートを逆に辿ってカノンとディオネが待つ客室へと戻った。

 カノンとディオネは何か話し込んでいたが、星が入ってくると──実は入ってくる前から気配や足音で分かっていたので、厳密に言えば入ってくるより前だが──話を止めた。

 ディオネが星に話し掛ける。

「私は少し部屋を出る。カノンと仲良くな」

 そうして部屋を出ていってしまった。

 ひとまず星は、室内にいるカノンに尋ねる。

「ディオネは、どこへ?」

「王様達と話があるみたい。久しぶりに会ったみたいだし、積もる話もあるんじゃないかしら」

「そうか……。ん、そうだ、ディオネのことで聞いておきたいことがあるんだ」

 言いながらカノンの向かい側のソファに腰を下ろす。お互いに向き合った方が話しやすいからだ。

「聞いておきたいこと?」

「ああ。ディオネって見た目二十代くらいだけど、王様達とはだいぶ古い知り合いみたいだし……一体何歳なんだ?」

 カノンは、寧ろ星が知らないことに驚きを感じたが、そのまま語る。

「正確には分からないけど……たぶん、三千歳ぐらいだと思うわ」

「あははは、俺の耳がおかしいのかな、三千歳って聞こえたんだけど」

「三千歳、であってるわ」

「……マジで?」

「ふふ、驚くのも無理ないわよね。私も初めて聞いたときは本当に驚いたわ。いつもは真面目なディオネが、珍しく冗談を言ったのかと思ったくらいだから。でも、何年経っても全く変わらないディオネを見ているうちに……いえ、一緒に何気なく話してるだけで、あの人は特別なんだってわかったわ」

 よくよく考えてみれば、星が知っているゲームや漫画、アニメでも、賢者は時々出てくるが、不老長寿の術によって何千年も生きているキャラが結構多かったりする。

「何か、術みたいなものでも使ってるのかな?」

「それは教えてくれなかったわ。当然と言えば当然だけど。でも、たぶん大賢者だけに可能なことなんじゃないかしら。そんなに長生きするのは」

 ということは、ディオネの他にも、アグライア、クレイオーもかなり長生きなのだろう。

「だよな。皆が皆何千年も生きてたら、人口が増えすぎて大変なことになるだろうし」

 それでディオネの年齢についての話題は終了する。

(そういえば、今何時だろ)

 いつものように携帯電話を開いて時間を確認する。先程シャリイの部屋で確認してからそんなに経ってはいないと思うが、如何せん今日は、いや今日も、色んなことがあった。よって星の身体には疲労が溜まっているのである。

 疲労が溜まっているということは、睡魔も比例して襲ってくる。

「ふあぁ」

 少し涙が出る程大きいあくびをかます。

 それを見たカノンは、星に言う。

「もう、寝る?」

「ごめん、いいかな。何かやることがあるなら、起きてるけど」

「ううん、せっかくいいベッドで寝られるんだから、これからの旅に備えて十分に休息しておきましょ」

「そう、だな。あ、ディオネは?」

「遅くなるだろうから、先に寝てても問題はない筈よ」

 そしてカノンは灯りを消す。

 二人は隣のベッドにそれぞれ横になった。

「すっげーふっかふっかだ」

「ええ。やっぱり、最高級の素材を使ってるのかしら」

 美味しい食事、広い浴場の後にふかふかのベッドとくれば、疲れた身体は直ぐにでも眠りにつくだろう。

 実際、二人はおやすみと言ってからものの一分で意識を手放したのだった。



     ◇



 星、カノンが眠りに就いてからニ時間程後。

「では、明日の朝に」

「ああ。では」

 王達と酒を飲みながら昔話を楽しんだディオネは、ひとときの別れを告げると、星とカノンが眠る寝室へと歩いていった。

皆さん、こんばっぱ~──って書くのを、前回と前々回忘れてました。別に書かなきゃいけない訳でもないんですけどね。


次回も城での話です。そもそもなぜファイが城へ行くように言ったのかもまだ謎ですし。



それではまた。

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