3、決意
すっかり腰が抜け、その場にへたれこんでいる星。その頭は、今一瞬にして起こった出来事を纏めようとするも、未だに残る恐怖と興奮で混乱していた。
そんな星の側まで駆け寄って来た少女は、とりあえず星を落ち着かせようと、静かに語りかけた。
「もう大丈夫よ。あのモンスターは私が倒したから」
その穏やかな顔は、星の心に安心感を与えた。
「だから、君はゆっくり休んでね」
その言葉に頷いた星は、ゆっくりと瞼を閉じた。
◇
数時間後。
空はすっかり暗くなり、月や星がはっきりと見える。
先程の海岸の、少し密林側に寄った場所。
焚き火の向かい側に星を寝かせ、少女はじっとその寝顔を見ていた。
(この人、もしかして)
少女は何かを勘ぐった。
◇
星は目を開けると、自分を見ている少女と目が合った。
「あ、起きた?」
少女は星が起きた事を確認し、ニコニコと微笑んでいる。
星は一瞬きょとんとしたが、直ぐにこの少女が自分を助けてくれたのだと察し、礼を述べる。
「さっきは助けてくれてありがとう。君がいなかったら、今頃俺は死んでいたよ」
「ううん、無事で何より。ところで、君はどうしてそんな格好でこんなところに?」
自然な疑問を少女は口にした。確かに、ジーパンにティーシャツ一枚でこんなところに来る奴はおかしい。
しかしそれは、常識的に考えて、だ。
不可抗力で来てしまった星は、そもそもの常識から外れてしまっている。
星はこの場所に来た過程を説明するか否か迷ったが、説明することにした。
「実は……」
◇
「で、危ないところに君が現れて、俺を助けてくれたんだ」
全てを語り終えた星は一息吐き、少女の顔色を窺った。
少女はそこまで驚かず、寧ろ、探し人を見つけでもしたような顔をしていた。
「思った通り。やっぱり君は、救世主だったのね」
「は?」
言っている意味が分からない、というふうに、反射的に疑問が返った。
「それは、どういう……」
「十年前のある日、大賢者アグライアが予言したの。十年後、この世界ウェリアルに、救世主がやってくるって」
少女が何を言っているのか、星には全く分からなかった。だが、この世界を日本、いや地球ではなく、ウェリアルと言った事から、ここが地球ではない事は分かった。
しかし、どうやってこんな場所に来たのか、ただの高校生である星には検討もつかなかった。
タイムマシンが発明されたなんてニュースは聞いたことがないし、バーチャルワールドを訪れる事が出来る機械もない。大体、部屋の扉を開けただけで空間転移なんてするものなのか。
星は尋ねたい事が山程あったが、一番疑問に思っている事を尋ねた。
「ここは、どこ?」
地球ではないと分かっても、具体的にどんな世界なのか、そして、この密林はどこなのか、星には知るよしもない。
「ウェリアル、っていう世界よ。そして、ここがデルー密林」
まるで星がこの世界に来る事が分かっていたかのように、自然に説明する少女。
それを疑問に思う星だったが、先程少女が言っていた、予言という言葉を思い出した。
星は、少女に感謝しつつそれを尋ねた。
少女はそれを待っていたかのように、ゆっくりと口を開いた。
「十年前、この世界のどこかに住んでいると云われている大賢者、アグライアが、ウェリアルの人全員の頭の中にどうやってか語りかけたの。『十年後に世界は滅びを迎える。しかし、異なる世界よりやって来る救世主が、必ずこの世界を救うだろう』って」
正直、星には、自分が世界を救う救世主なんていきなり言われても理解出来なかった。
こんなゲームみたいな事が、本当にあるのか。自分は長い夢を見ているのではないか。そんな考えが星の頭をよぎる。
だが、この世界に来た事、それは紛れもない現実だ。
「だけど、何で俺なんだ?さっき恐竜に殺されそうになってた通り、俺には何も力はないけど」
星より力がある人間なんて、そこら中にいるだろう。それに、今星の前にいる少女。彼女はずっと星より強いはずだ。
「それは分からないわ。でも、君は絶対に強くなれる、そんな気がする」
少女はしかし星を弱いなどとは言わなかった。
星は、自分なりに決意を固める。
まだ、何がなんだか分からない。
自分が救世主だなんて信じられない。
だけど、
(救世主っていうのも、悪くないよな)
世界を救いたい。そう思えた。
やっと2人が話しました。
次回は、出来れば明日にでも。それでは