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37、レフェリアの城

 城に入ると、まず二十メートル程の細長い通路が現れた。外から攻められた際、迎撃しやすくするためだろうか。

 床には真っ赤な絨毯が敷かれ、壁には風景画や肖像画が飾られている。

 この通路を抜けると、大広間へ出た。高い天井にはシャンデリアが設置されており、大広間全体を明るく照らしている。絨毯は敷かれておらず、大理石の硬質な輝きが清潔感を醸し出す。奥の方には、二階部へと続く階段が左右両方に位置している。そして大広間自体の広さだが、星の感覚でいうと学校のグラウンド並みに広い。

 星は端的に感想を述べる。

「流石に広いな~」

 本当はその広さ、豪華さに非常に驚いているのだが、表面上はそこまで驚かず、最低限の関心だけにとどめる。派手に驚くと兵士に呆れられそうであったし、何より自分が小さな人間だと認めるようだと思ったからだ。それだけで小さな人間だと感じる人は少ないだろうが。

 カノンとディオネは、意匠の凝らされた装飾品の数々には然して興味がないのか、ただ兵士の後に続いて歩みを進めている。

 兵士は左右の階段には上らず、間にある両開きの扉を開ける。すると、各階層を突き抜ける長い階段が姿を現した。王族もこれを上り下りするのか、と適当なことを考える星。

 流石にウェリアルに来てから運動──と呼ぶには過酷なことも多々あったが──を毎日こなしてきただけあって、長い階段でも大して疲れを感じなかった。女性二人は言わずもがな。

 階段を上りきると、そこは玉座の間であった。

 二つ並ぶ玉座には、それぞれ王、王妃が座っている。彼らの御許へ行く道程には、槍を携えた兵士が十人、こちらを見据えている。

 案内役の兵士が、ここでお待ちください、と言って王、王妃の許へ行き、跪いて報告する。

「ファイ・オミクロン様の御客人をお連れしました」

「うむ、ご苦労。それでは御客人をここまで連れてきてくれ」

 王が告げる。

「はっ」

 兵士は一礼した後、星達の方へ戻る。

「それでは、こちらへどうぞ」

 緊張してそわそわとする星。異世界の王に謁見するなど、総理大臣に会う──ここでは、会って、面と向かって話をするという意味だ──より遥かに緊張するのだろう、と彼は思う。推量なのは、もちろん彼が総理大臣に会ったことがないからだ。

 しかし、誰にしろ異世界の王と総理大臣では前者の方がより緊張するのではないだろうか。総理大臣など言ってしまえば自国民(日本人)のスーツを着たおっさんだ。それに引き換え異世界の王とは、異世界故にどのような人物なのか検討もつかないし、その高貴さから嫌でも身分的に自分より格上だと意識してしまう。

 王の前に行くと案内役の兵士は下がり、持ち場へ戻った。

 星は、障りのない程度に王と王妃を観察する。

 二人共年齢は四十くらいであろうか。長い間王座に着いているようで、貫禄が他の者とはまるで違う。王の彫りの深い顔立ちには力強さと同時に知性の片鱗も少なからず垣間見え、王妃のサファイア色の瞳からは、王を支えていくという確固たる意思が窺える。

 他の者とは一線を画すものに、間違いなくその豪奢な服装、装飾品も入ることは疑いようもない。金の輝きを放つ王のクラウン、王妃のティアラは素人目に見ても信じられないくらい高価なものだと分かる。そしてそれを何ら違和感なく被る二人は、やはり一国を背負うに相応しい存在だと認識させられる。服装の方は、質の良さそうな真っ赤なマントを着用する王、所々にちょうどよく散りばめられた宝石類がアクセントを添えるローブを纏うのは王妃だ。

 見れば見るほど溜め息を吐きたくなる程の感銘を受ける星だが、不粋な観察はやめて適当に視線をさ迷わせる。が、それも直ぐに止める。王が口を開いたからだ。

「よく来たな。あのファイの個人的な客なぞ初めてであるので誰かと思えば、まさかその中にディオネ殿がいたとは」

「久しぶりだな、レフェリア王クレイド、そして王妃クレア」

 ディオネの返答に王クレイドと王妃クレアは懐かしげに微笑む。それはディオネも同様だ。

 対して、兵達、星、そしてカノンまで驚いている。

「ディオネッ、王様と知り合いだったの!?」

 場も気にせずカノンはディオネに尋ねる。長いこと共にいた二人だが、カノンには初耳だった。

「彼らが王座に着きたての頃に少しな」

 なるほど、とカノンは思った。大賢者であるディオネならば王と知り合いだとしてもおかしくない。

 星は、

(あの王が即位したのって、絶対十年以上は前だよな。ディオネの見た目は二十代中頃って所だけど。ってかカノンを迎えたのも九年前だったよな、確か。……一体どうなってんだ?)

 ディオネが何世紀も生きていることを知らないので、深く考え込んでしまう。が、またもや王の言葉でその考えは閉ざされた。

「皆、疲れたであろう、部屋を用意する故、しばらく休むがよい。半刻程したら使いを送るので、共に卓を囲みゆっくりと語り合おうではないか」

 要するに一緒に食事をしようということだろう。

 素晴らしい提案だと星は自分なりに考える。無論豪華な食事が食べられるという点だけではない。王ともなれば国、世界の表裏両面──いや、表だけ、か──の情勢に詳しいだろうから、ウェリアルを救うことについて何か分かるかもしれない。たとえ小さなことでも、何か分かればそれだけで収穫だ。

(ファイは、そこまで考えて俺達を城へ行かせたのかもしれないな。なぜか俺が救世主だって知ってたし……)

 まあ、ファイにはファイなりの考えがあるのだろう。

 と、王が呼んでおいたのか寡黙そうなメイドが一人やって来た。

「では、皆様を客室にお連れいたします」

 と言って、そそくさと歩いていく。

「あ、どうも」

 そう星が言ったのは、メイドが背を向けた後だった。



 城内、客室。

 カノンとディオネはともかく、もうそこまで驚くこともない星だが、やはり客室も広く、豪華だった。ソファーにテーブルにベッド、基本的なものは一通り揃っている。

 三人は、まずは備え付けの洗面所で手を入念に洗い、うがいをする。その後テーブルを挟んで二つ設置されているソファーに、星とカノンが隣に、二人の向かい側にディオネが腰を下ろした。

 さて、とディオネが切り出す。

「天枷もカノンも気になっていることと思うが、ファイはなぜ私達をここへ行かせたのだろうか」

「ファイは星君が救世主だってことを知ってたから……、この町に何かあるってことかしら」

 ファイが星のことを救世主だと知っていたことについては言及しない。星が自分より強くなったら教えるとファイは言ったのだからその時を待てばいい。

「ああ、おそらくな。食事の時にクレイドとクレアに尋ねてみよう。何か分かるかもしれない」

 それに星とカノンは頷いた。星としても先程同じことを考えていたし、カノンも異論はない。

 話は早くも纏まった。まだ時間は半刻には程遠い。

「そうだ、せっかくだしウェリアルに来る前の天枷のことを聞かせてくれないか?」

 気を利かせたという風でもなく、ふと思いついたように星に尋ねるディオネ。カノンも期待の眼差しを星に送っている。

「そうですね。じゃあ、まずは趣味のゲームのことから……」



「……ってな感じですかね」

「なるほど。そのゲームとやらが大好きなんだな、天枷は」

 星の話が終わる頃には、既に半刻が過ぎていた。

 コンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえる。

『お食事の時間です』

「わかった、直ぐ行く」

 三人はソファーから立ち上がり、扉の方へと向かった。

皆さん、こんばっぱ~。

今回でてきた半刻ですが、一時間です。一刻が二時間なんで。


相変わらずいつ次回を投稿することになるか分かりませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。それではまた次回。

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