36、王都到着
相変わらず遅くなってしまいましたが、投稿です。
今現在、星、カノン、ディオネは、速くも遅くもない速度で王都レフェリアへと向かっているが、一体どれくらいで着くのだろうか。
パカッ、という音と共に星の携帯電話は開かれる。
「三時、か。順調にいけば五時ぐらいには着くな」
星は時間を確認すると携帯電話をしまい、思いを巡らせた。
──こっちの世界に来てから毎日色々なことが起こった。今日も、ディオネと二人で話したり、燃え盛る村を目にしたり、普通は見えない小屋に入ったり、魔法行使に失敗したり、ファイ・オミクロンと再会したりと、色々あった。
タナトスと戦ったのが昨日だということさえ嘘のように感じられる。星自身軽くあしらわれただけだったが。
そしてディオネが仲間になったのもまた昨日のことだ。それなのに、随分と長い間旅をしてきたように思う。
「俺が二人に出逢ってから、まだ一週間も経ってないんだよな」
しみじみとそう言った。
「そうね。星君と出逢ってから一月は経ったような気分だけど、実際は数日しか経ってない……。でもそれは、それ程一日一日が重かったってことじゃないかしら」
「ああ。そして、これからの日々も全てが大切なんだろうな、きっと」
カノンの言葉に深く頷き、失礼ながら会話を途切れさせてしまうのを承知で彼はウェリアルに来る前の日々を回想する。
特に何もない日々だった。良い意味でとか悪い意味でとか、そういう節をつけるのも憚られる程に。
目覚まし時計の機械音に起こされて面倒ながら学校に行き、ためになるのかも分からない授業を受け、友人と他愛のない世間話をして家に帰り、待ち焦がれていたようにゲームの電源をつける。学校がある日はその繰り返しと言っても過言ではない。
休みの日は朝から晩までゲーム――と言えば極端すぎるが、新作のソフトを買った週はそんな感じである。ちなみに運動するのは嫌いではなかったが、面倒なことはできるだけ避けたかった。
周りから見ればつまらない人間だったんだろうと思う。しかし、星はそれを卑下したことなど全くなかった。自覚していたから……。
そんな彼だが、感情が希薄な訳ではない。むしろ様々なゲームをプレイしたことで人並みか、それ以上に情はある。──キャラの死とか別れとかに直ぐに感情移入してしまうのだ。
それに、面倒くさがりの癖に割と行動的でもある。彼にとって何もかもが意味不明だった、ウェリアルという異世界に飛ばされた当初もただずっと同じ場所に立ち尽くしていた訳ではなく、未知の密林から脱出するべく積極的に探索をした。一向に動かずにいれば密林から出ることは不可能だったし、何よりカノンと出逢うこともなかったかもしれない。ある意味幸運な人間でもある。
「あてっ!?」
星は石につまづいて転んだ。それで考えが断ち切られた。
「大丈夫っ!?」
と心配そうにカノンが手を差し伸べる。
「あ、ああ」
バカみたいにこけたことで、恥ずかしそうにカノンの手を掴んで立ち上がる。
「本当に大丈夫?」
蔑みなど一切なく、心から心配するカノンに星も心から礼を述べる。
「ああ、大丈夫。ありがとう」
そうして直ぐに歩き始める。まだ出発してから三十分と経っていない。同じような景色が続く道を延々と歩くだけなので時間の感覚がおかしくなるが、そのうち王都の立派な姿が目に映るだろう。
それから少し歩いた。
すると、前方に何か動く物体が見えた。
「ん? あれは、モンスターか。しかし、こんな所にまでいるとは……タナトスも厄介なことをするものだな」
ハアッ、と軽くため息を吐きながらディオネは隣を歩く星とカノンを見やる。
「さて、どうする?」
まだモンスターまでの距離は遠いが、モンスターの種類は判別できる。お馴染みの恐竜型モンスターだ。
数は三体。鋭い爪、鋸状の歯を光らせながら同じ場所を徘徊している。モンスターが現れたのは最近のことだろうが、今までに運悪く餌食となった人がいるのかは定かではない。
「一対一、っていうのはどうですか? ちょうど数は同じですし」
「そうだな。よし、それでいこう」
各々は剣を抜くと一直線にモンスターへと走った。
「ギャッ!?」
とモンスターが気づいた時にはもう遅かった。三体中二体のモンスターの首が斬り裂かれ、身体諸共創造の粉に帰し、辺りを黒く彩る。倒したのはカノンとディオネだ。
星もやっと追い付き、残りの一体との交戦を始めた。
モンスターの突撃を待ち、返す形で剣を首元、或いは心臓部へと振るう。しかし星の剣捌きではモンスターへ致命傷を与えることはできない。それでも、何度か攻防を繰り返した後、なんとか倒すことに成功した。
「ふぅ」
一息吐いて剣を鞘に納める。
「うん、確実に強くなってきてるよ、星君」
「へへ、そうかな」
褒められて、まんざらでもない星。
それにしても、モンスターがかなり人目にふれるような場所にいることは大問題である。対抗手段を持たない一般人が何人も犠牲になることは必至だ。
「本当に、何としてもタナトスは倒さなくてはならないな」
創造の粉からモンスターは創られている故に、創っているもと、タナトスを消せばモンスターを消すことに直結する。
三人は休憩もまばらに再び歩き始める。
五時前。空は夕焼けで薄く染まりつつある。
三人の目の前には、荘厳とすら呼べるくらいに立派な城が聳え立っている。一キロメートルは離れているのにも関わらずそれは偉観であった。
若干速めに歩いたので、交戦時間を差し引いても予定通り五時過ぎには王都レフェリアに着いた。
城壁はダレッタのそれより更に頑丈そうに石を使って造られており、高さは十メートルは超える程で、長さは視界におさめることができない程ある。よって外から城下町の様子を窺い知ることはできない。ただ城を除いて。
星達は、屈強な兵士二人が守る王都への入り口へと向かった。
「中へ入りたいのだが」
ディオネが話し掛けた。
「その剣は何だ?」
「剣は旅人の必需品だろ?」
「旅人か。よし、通れ」
意外にあっさり通れた。
王都レフェリア内。
市場や豪奢な屋敷などが目についたが、城を目指して三人は進む。途中で噴水のある広場を通り、少し歩くと、城門に到着した。やはり兵士が見張りをしていたので、星はファイから受け取ったプレートを見せた。
「こ、これをどこで?」
「ファイ・オミクロンにこれを渡されて、王都レフェリアの城へ向かえって旨のことを言われて」
「そ、そうでしたか。少々お待ちください」
兵士が一人城へと入り、五分程で戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞお入りください」
ゆっくりと城門が開かれ、星、カノン、ディオネはゆっくりと中へ入っていった。
皆さん、こんばっぱ~。今回は、淡々と王都へ向かうだけという割と希薄なものになっていると思います。なのでタイトルに具体性が求められず、結局そのままなタイトルになってしまいました。
今話に出てきたゲームの話は、私自身にも少なからず当てはまります。ゲームって買った当初ははまりますよね。とまあ、ゲームは程々に、執筆も頑張っていきたいと思います。それではまた。