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35、王都へ

 星、カノン、ディオネ、そしてファイは、とりあえず先程三人がいた茂みの辺りに向かった。特に何も考えず話し掛けたので、どこで話すとか形式ばったことは全く考えていなかったのだ。

「それでは改めて聞こう。私に何か用か?」

 名前を呼ばれたのだから用があるのは当然なのだが、ファイにとって明らかに愚問なそれを、彼はあえて言った。

「聞きたいことがあるわ、たくさん」

「……答えられるものなら答えよう」

 そして問答が始まる。

「あなたは一体何者?」

直球に尋ねる。これくらい直球な方が、却って根幹をそのまま聞かれているようで、無下に嘘を言いづらい。

「ファイ・オミクロンという一人の人間だ。まあお前が知りたがっているのはおそらく、私が軍を率いていることだろう」

 カノンと星、ディオネは頷く。知りたいことはたくさんあるが、今はこれを聞いておきたかった。

「私は、ラフェリア王国騎士団の団長を勤めている。そしてあの行軍は、破壊された村への人事、物資の支援を行うためのものだ」

 騎士団などと聞くと大仰なものを思い浮かべるかもしれないが、現在ファイが率いているのは軽装の騎士で、数は百人にも満たない。

 実際は数千人或いは数万人はいるだろうが、軍隊は仕事の内容によって人数や装備がまるで異なるのだ。戦でもするのなら重装備の騎士がたくさん必要になってくるが、あまり大きくない村の支援ぐらいなら、人数が多いと逆効果だ。つまりは、支援する筈の騎士達の糧食で手一杯になるので、無駄のない人員の配分が大事なのである。

 そしてファイの服装もまた重々しい鎧ではない。しかし以前着ていた特徴のないフード付き黒マントではなく、白を基調として、所々に真紅の刺繍を施した、地球で言うと西洋の軍隊の将軍あたりが着てそうな軍服を着ている。ただし肩のひらひらは無く、軍帽もかぶっていない。腰には以前折られた剣では無く、バスターソードさながらの大剣を帯びている。鋭い真紅の眼光は相変わらず相手を委縮させるようで――カノンとディオネは平然としている――、小心者には近寄り難い雰囲気を醸し出している。長い銀髪は時間を掛けて梳いたようにさらさらとしているが、梳いたのはおそらく別の人だろう。

 左胸の辺りには、ドラゴンが描かれた盾という、こういう世界ではいかにもといった感じの紋章が存在を主張している。おそらく、ラフェリア王国の紋章か、騎士団の紋章か、だろう。

「ラフェリア王国の騎士団長自らが一つの村の救援のために行軍、か」

 ディオネが少し、ほんの少し驚いたように言う。

「何か変か?」

「いや。ラフェリア程の大国が、言ってはなんだが小さな村一つを救うのに騎士団長を派遣するものなのか? それに、対応が早すぎるのも気になる。タナトスがあの村を攻めてから、まだ一日と経っていないぞ」

 ラフェリア王国とは、この地域を含めた、ウェリアルの五分の一程の領土を有する大国だ。計二十箇所ある軍事拠点の内七箇所を有しており、ラフェリア王国騎士団とは、その中でもトップに君臨する軍だ。騎士団と軍は本来別のものだが、ファイ率いる騎士団は少数ながらも精鋭揃いで、一つの軍団さえも凌駕する力を有している。団長であるファイの高い統率力、巧妙な作戦、彼自身の高い実力から、今まで負けなしの、文字通り常勝軍と呼ばれている。

「私が王に申し出たのだ。一刻も早い救援が必要だからな、あの村は。そして、村の壊滅を知ったのは、放っておいた諜使が直ぐに知らせにきたからだ」

「ふふっ、見た目と違って随分と良心のある奴だな。お前が騎士団長なら私も嬉しいよ」

 長い間ウェリアルを見てきたディオネにとって、上に立つ者が人思いなのは喜ばしいことだろう。

「余計なお世話だ」

 ファイは苛立たしげにそっぽを向いて吐き捨てる。

 カノンが再び尋ねた。

「それじゃあ、この前は何であの大木の前に一人で立っていたの?」

「私事だ」

 忙しくないの? とか聞きたかったが、私事に一々口を出す気は毛頭ない。

 と、今までアウェイというか空気というかだった星がやっと話を振った。

「気になってたんだけど、あんたは何で俺が救世主だって知ってたんだ?」

 初対面のファイに救世主だと言い当てられた時は、流石に彼も焦った。その後に殺されそうになって更に焦ったのは今となってはいい思い出……な訳ない。

「お前が私に勝てるぐらい強くなったら教えよう」

「……あ、そう」

(出たよこういうの。最初の方で出るけど終盤になってから色々と分かる系のキャラ。その手のキャラは絶対口を割らないからなぁ、条件を満たすまでは。でも、ここは現実だ、問い詰めれば何とか……、いや、ファイを問い詰めるとか俺には無理だ)

 ということで、最大の疑問の答えを彼は得ることができなかった。

 今度はファイの方から尋ねてきた。

「お前は、世界を救う覚悟があるか?」

 とても、とても真剣な目だ。視線を逸らしたり曖昧な返答をしたら即斬って捨てられそうなくらいに。だから、いや、そんなの抜きで、星は同じくらい真剣な眼差しで返した。

「ああ。救ってみせるさ、必ず」

「……そうか」

 そのままファイはしばらく瞼を閉じて何かを思うような顔をした。そして、軍服のポケットから何やら名刺程の大きさのプレートを取り出し、星に差し出した。そこにはファイの持つ紋章と同じものが彫られていた。

「あの道に沿って二時間程歩けば、ラフェリアの王都レフェリアに着く。着いたら真っ直ぐに城へ向かえ。それを持っていれば入ることができる」

 そして、反対側のポケットから黄金に輝く指輪を取り出し、これも星に差し出す。

「餞別だ」

「ど、どうも」

 一応、ぴったりと合いそうな右手の中指に嵌める。

 そうしてファイは歩き去ろうとした。

「ファイ・オミクロン。あんたとはまたどこかで会うことになる気がするよ」

「……かも知れんな。その時までには強くなれ、救世主よ」

 一度立ち止まってその台詞――前にも言った、強くなれという台詞を言い、今度こそ去った。騎士団の部下達のもとへ。

「……結局あいつは何者なんだろう」

「ファイの仕事じゃなくてファイ自身のことは全くと言っていい程分からなかったし……」

「大賢者の私よりは謎が少ないんじゃないか?」

 ディオネは、自分で言うのも何だが、という風に冗談めかしく言った。ウェリアルに住まう大多数の一般人はディオネが大賢者だとすら知らない。それ以前に大賢者の存在自体知らない者も多くいるのが事実だ。大賢者は三人共、「私は大賢者です」などと言って回っている訳でもないし、仕方のないことだ。

 そして星はこの前何となく聞き流していたが、ディオネが『三日月』を作ったという話にて、作ったのは三百年くらい前というとんでもないことを彼女は言っていた。星はむしろ『作った』という語に食いついたので、三百年前の(くだり)は耳に入っていなかったのだ。星は今ももちろんそのことは知らない。

「それでは、ファイの言葉通り王都に向かうとするか。天枷がもらったプレートを持っていれば城に入ることができるようだし」

 二人は一緒に頷く。

 王都はそう遠くはない。三人は水を飲み、直ぐに道に戻った。

 

皆さん、こんばっぱ~。 またまた遅れてしまいました。


ということで、とりあえず投稿です。ファイの服装の描写が物凄く下手です。絵に描いてみたりしてもいいデザインが思い浮かばなかったので、西洋の軍隊の服装っぽいってことにさせていただきました。

一応、星、カノン、ディオネ、クレイオーの絵は服装も含めて描いてみたんですけど、ファイ……の服装、なかなかいいのが思い浮かばないものですね。


次回はもっと早く(遅くなるフラグなのかも)投稿できればなあと思います。それでは次回。


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