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32、元気ジュース

 レポートはそこで終わっていた。

 思った程詳しく書かれてはいなかったが、貴重な情報を得られた。

 今までモンスターが襲撃した場所が、裕福な町や村であること、だ。

 貧しい生まれ、もしくは一方的な虐げを受けてきた者が、妬みや憎しみから、幸せに生きている人達に害を為す、というのはよくあることだ。もちろんよくあってはならないのだが。

 あくまで例えばだが、タナトスが子供の頃恵まれない生活をしてきて、成長するにつれ心が歪んでいったのなら、人々を虐殺する理由にはなる。歪んだ心故に人を殺してもなんとも思わないし、あったとしてもただの快楽だ。

 だが虐殺が許される訳がない。

 タナトスによって家族や愛人、友人などを殺された者はたくさんいるだろう。

 結局、一方的に自分の憂さを晴らしたところで不幸になる人が増えるだけだ。

「このままタナトスに虐殺を続けさせる訳にはいかない。早めに探し出して倒さなくてはならないな」

「ええ、だけど……」

「ああ、アグライアの許に早く行かなければならない、だろ? それならこうするのはどうだ? タナトスの居場所について情報を得次第私が向かい、倒す。その間にお前達は旅を続ければいい。私はタナトスを倒した後、直ぐに合流する」

 ディオネは真剣な表情でそう言った。

 今ディオネが一人でタナトスを探し出そうとしても、その間に星とカノンが狙われては、後悔では済まない。かといって三人でタナトスを探し出しては、確実にアグライアの許に到着するのが遅れる。これからの旅路で何が起こるか分からない以上、そしてウェリアルの滅びを阻止するため、それは効率が悪い。

「……分かったわ」

 少々静寂を挟んだ後、カノンは一瞬星を見てから言った。

 異論はないので、星も黙って頷く。ここは自分が何か言うより強大な力を持っているカノン、ディオネに任せた方がいいと自覚しているのだ。

「そうか……ありがとう」

 タナトスはディオネに任せることに決まった。

 ──そして話はレポートのことに戻る。

「ところで、この手記だが……書いた人間が魔法を行使できるのなら、人数はかなり絞られる」

 魔法はそう簡単に使える代物ではない。先天的に魔力を持ち合わせていなければ使うことは不可能だ。そのような人間は極限られる。星達に分かっているだけでも、アグライア、ディオネ、クレイオーの大賢者三人、カノン、このレポートの筆者、そして、星だ。

「ディオネは――大賢者は、魔法を使える人達を全員知っている訳じゃないの?」

 カノンが尋ねる。

「ああ、知らなかった。ここウェリアルも広い世界だ、魔法を使える者が私達の他にいてもおかしくはないが……。」

魔法の達人中の達人である大賢者が、ウェリアルでも数える程しかいないという魔法の使い手を全員把握している訳ではないというのは、ある意味驚きに値する。

 しかし、極めて稀だが、魔力を持って生まれてきさえすれば魔法を行使できるということになる。

「だが、魔法は使いこなせるようになるまでが難しい。それに、普通は自分に魔力が宿っていることさえ気付かないものだ」

 魔法を知らない者がもし偶然魔法を発動してしまっても、それが魔法だと気付くことはない。魔法が廃れた今の時代、魔法自体を知らない者も多くいる。よって、魔力を持って生まれた者でもそれに気付かずに生涯を終えてしまうことがほとんどだ。

 このレポートを書いた者は明らかに魔法を知っている、非常に珍しい人間だ。

「まあ、これを書いた者はタナトスを追っているようだし、いつか会うことになるだろう」

 レポート談義、終了。

 雨は弱くなってきたようだ。この小屋には窓がないが、外から聞こえてくる雨音が小さくなったことから分かる。この小屋に入ってから、三十分程が経っている。どうやら少し長めの通り雨のようだ。

 と、ぐぅぅぅ、という音が小さい小屋中に響いた。

 腹の音だ。星の。

「あはははは」

 星は顔を赤くして頭を掻きながら笑う。

 もう昼だ。

「ふふっ。じゃあ、昼食にするか」

 ディオネが言うと、

「ええ」

 とカノンが微笑みながら言い、

「そうですね」

 星も、相変わらず頭を掻きながら言う。

 複数人でいる時に腹が鳴ると、結構恥ずかしいものだ。

 それはさておき、ディオネは持ち物から、謎の紙パックを三つ取り出した。日本の自動販売機で売られている紙パックの飲み物より少し大きいくらいの、四角形のそれだ。

 ディオネは紙パックの上部を手刀ならぬ指刀で開くと、机の上に置いた。

「これは、元気ジュースという飲み物だが、一パック飲むだけで本当に元気になるぞ。しかも栄養満点だ」

 結構ある胸を張って、誇らしげに言う。

「あの……これだけですか?」

 星は頬を引きつらせながら尋ねる。それは無理もない。ディオネはこれ以上何か食べ物を取り出したりはしなかった。昼食は本当にこれだけ、なのだろう。

「これだけだが。まあ、騙されたと思って飲んでみてくれ」

「は、はあ。じゃあ、いただきます」

 そして、女性二人が見守る中、一気に元気ジュースを飲み干した。

 数秒後。

「!? 何だろう、腹いっぱい飯を食ったみたいに、満足な感じだ。しかも、今までの疲れがすーっと取れていくようだ」

 とても驚いたような顔で星は元気ジュースを飲んだ感想を述べる。

「だろう? 手軽に栄養を摂取できて、しかも美味い。しかし、これはなかなか手に入れることができない。旅商人がたまに売っているのを買うしかないんだ。一回自分で作ってみようとしたことがあるのだが、いかんせん材料が不明なので、よく分からない謎の飲み物ができてしまった。味は……そうだな、カノンの料理を食べたことがあるなら、それを思い浮かべてもらえばいい」

「それってどういう意味!?」

 すかさずカノンが反応する。

「いや、その、まあ、凄く美味いって意味だ」

 明らかを嘘っぽいディオネの態度に、星は苦笑いし、そんな二人にカノンはジト目を送る。

「それは置いておくとして、私達も飲もう」

 少々腑に落ちない感じのカノンだが、机上に置かれている元気ジュースの紙パックを二つ取り、一つをディオネに渡す。

「ありがとう」

 そして、星同様一気に飲み干す。

「ん、雨の音がしなくなったな」

 星が呟く。

「止んだのかな」

「そうだろうな。それでは、昼食も食べた、いや、飲んだか。まあとにかく、そろそろ発とうか」

 この小屋にはもう何もなさそうなので、三人は小屋を出た。

 外は太陽が燦々と輝いていた。


 

皆さん、こんばっぱ~。またまた二週間も経っての投稿となってしまいました。いやはや、ネタが浮かばない。この後は、いかにもRPGにありそうな話になるかもしれません。お城が出てきたり、救出イベントが発生したり。まあ、なんというか……未定ですorz

それでは

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