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31、謎のレポート

 星、カノン、ディオネが廃墟の村を出て、早一キロメートル。

 身体面でも精神面でも非常に疲れている星とは違い、カノン、ディオネからは疲れは感じられない。

 いや、感じられない、と言えば嘘になる。身体の疲労は無きに等しいが、カノンもディオネも精神面ではそれなりに疲れていた。たくさんの死体を見たのだ、無理もない。というか、たくさんの死体を見て心が少しも痛くならない者はもはや人間とは呼べないだろう。

 ということで、そんな時は必然的に言葉数も少なくなる訳で、星はただ黙し、カノンは彼に声を掛けようとするが良い言葉が見つからず、ディオネは考え事をしている。

 依然として三人の後方の廃墟からは煙が立ち上っている。元村長の息子、今では村長、か──彼が新しく村を作ることができるのかどうかは、生き残った人々にかかっている。彼らは辛い現実から逃げず、死んだ人々の分まで生きていかなくてはならない。彼らが死んでも、死んだ人々が報われる筈がない。

 星は思う。自分は、死んだ人々を含めたこの世界の人間を本当に救うことができるのか、と。カノンに優しい言葉を掛けてもらってもその疑問は消えない。

 大体、自分は救世主などと言ったって、救世主らしいことは何一つしていないではないか。

 雨が降ってきた。

 立ち上る煙はたちまち消え、村人達にとってはまさに天の恵みだろう。しかし星にとっては、自分の不甲斐なさに天が泣いたかのごとく思われた。

 内心で溜息を吐く。

 強くなりたい、とはもちろん思う。だが彼は、強大な力を望みすぎたが故に破滅したウッダーやズゴソのようにはなりたくない。というか、なっては困る。

 強大な力とは、努力してやっと手に入る代物だ。一朝一夕で手にすることができる程安くはない。

 覚醒していきなり最強の力を手にするゲームやアニメの主人公というのもたくさんいるが、基本的に、覚醒するまでが長い。やはりゲームやアニメの主人公達も努力して強くなっていくのだ。

(俺もいつかは強くなれる筈だ。それまで頑張ろう)

 弱者は弱者なりに頑張ればいい。日々努力を怠らなければ、きっと強くなれるのだから。

 ところで、現在三人は走っている。雨宿りできる場所を探すためだ。傘など三人とも持っていないので、濡れないように早く屋根がある場所を見つけなければならない。

 と、少し走ると前方に一軒の木の小屋が見えた。

「あそこで少しばかり休ませてもらおう」

 ディオネが言った。

 星とカノンも同じ考えなので、異論はない。

 小屋に着くと、ディオネが扉をコンコンと軽く叩く。

 十秒程経っても返事はない。

 更に叩く。が、結果は同様、返事なし。

「誰もいないのか」

 ディオネはそう言いながらドアノブを回し、引いてみる。

 開いた。

「……」

「……」

「……」

 このまま突っ立っていても濡れるだけなので、無言で入らせてもらう。

 外から見てもそうだが、部屋は一部屋。特別大きい訳ではなく、小さい訳でもない。中は汚れているように思われたが、たった今掃除を終えたかのように埃一つ無い。

「さっきまで人がいたのかしら」

「ああ、なんつうか……不自然だ。外から見た時より明らかに木が新しい」

 何かありそうな小屋だが、雨宿りできるだけでもありがたい。

 というか、何かあった。

 部屋に置いてある唯一の家具、木製の机。その上に、明らかに、誰か見てください、という感じに紙が数枚置いてある。

「読んでみようか?」

「そうね」

「そうですね」

 一番上にある一枚を、ディオネが読んでみた。両隣には星とカノンが立ち、紙を見つつディオネの音読を聞く。

「では――、『この文章を読んでいるということは、君はこの小屋を見つけることができたようだね。この小屋は幻術によって普通の人間には見えないようにしてある。見ることができた君は、魔法を使う者である筈だ。と、まず君が疑問に思っていそうなことについて書いておいたが、そろそろ本題に入ろう。君はモンスターのことは知っているかな? 知っていると信じて先を続けさせてもらおう』」

 いったん切る。

「魔法を使う者が見ることができる、ってことは、やっぱり俺も魔法が使えるのか?」

 夢でアグライアが言っていたことが思い出される。

 本当に危なくなったら、剣を振り、エクレンドと唱えよ。彼女が言ったのはこのようなことだが、その呪文を唱えれば星も魔法が使えるのか。おそらく使えるのだろう。もし星が魔法を使えないのだとしたら、この小屋を見ることができる筈がないのだから。

「だが、これを書いた者が嘘をついていたとしたら話は変わってくる」

 ディオネが言った。

 書いてあることが偽りだとしたら、ここはたとえ魔法が使えなくとも見える、いたって普通の小屋ということになる。その場合、星が魔法を使えるか使えないかははっきりしない。

 だが、問題はそこではない。真に求められるのは、この紙に書かれていることの真偽だ。

 星達はこれを書いた人物のことを知らないが、これが真実なら、幻術などというものを使えるくらいだから、普通の人間でないことは確かだ。それに、なぜこのレポートを書いたのか、書いた本人はどこに行ったのか、そしてそれは誰なのか、というもっともな疑問も生じる。

 書いた人物が分からない以上、嘘をつく理由がないとも言い切れない。

「……信じてみましょ、これを書いた人を」

 カノンがゆっくりと、丁寧に言った。下手に、なおかつ適当にこういう発言をすると、かえって場が乱れる可能性がある。

「そうだよな。疑ってばかりじゃ何も始まらない」

 と星が言い、ディオネも、

「それに、モンスターのことが詳しく分かるならば、これからの旅においても十分に意味を為すだろう」

 と言って頷く。

 情報が少ない以上、貴重な情報は嘘か真か分からなくても手に入れておくに限る。

「では先を読むぞ。『十年前に突如現れたモンスターだが、奴らは創造の粉という、文字通り何でも創造してしまう粉によって創られた生命体だ。モンスターはあちこちに現れ、人々に害を与えていった。創造の粉を創った人間は、タナトスという一人の科学者だ』──ここまでは大体私達でも知っていることだったな。タナトスが科学者だったというのは知らなかったが」

 三人にとってすでに自明の情報が書いてあるということは、少なくともこれを書いた人間は、嘘は書いていないということになる。

 先を続ける。

「『彼については実の所よく知らない。十年前に何があったのかも、彼の目的が何なのかも。元科学者仲間に話を聞こうとしたのだが、一人も所在を特定することはできなかった。その間にもモンスターによる被害は増えていった。なので、モンスターについて情報を集めることにした。モンスターは、いつもは森や山、海などに住んでいるが、時に大群で村や町などを襲うことがある。それはなぜか。タナトスに聞いてみなければ分からないが、良いことのためでないことは確かだ。私にできるかは分からないが、全力でタナトスを止めなければならない。話はモンスターのことに戻るが、奴らに知能というものはおよそ皆無だ。罠を仕掛ければ何をせずとも勝手に引っかかるし、大群にも関わらず襲撃のタイミングはてんでばらばらだ。そしてこれは一番大事なことだが──』」

 区切る。

 軽く息を吐き、再開。

「『モンスターが襲った村や町は、全てが幸福でいて繁栄している所だった。これもタナトスが関係していることは間違いない。私はこれから再び調査に赴く。そして、タナトスを見つけ次第、倒す所存だ。では、これを読んでくれている諸君への幸福を祈り、ここで筆を置かせてもらう』」

皆さん、こんばっぱ~。物語を考えている最中に寝落ちを何回かしつつも、なんとか投稿です。ああ、なんだか頭が……。では皆さん、おやすみなさいzzZ

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