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2、運命の出会い

 どことも知れぬ密林。

 辺りには風が吹きすさび、木々達は枝や幹を踊らせ、木の葉や草は強風に耐えることができず宙を飛び交っている。

 だが、その激しさにも負けないくらい穏やかに、夜空にはたくさんの星が瞬いていた。

 そんな宵闇の密林の中で、一人の少年が呆然と立ちすくしながら周りを眺め回していた。

 どこを見ても木々が生えている目の前の光景を幾度も見ながら、やっとのことで少年は口を開け、

そして、呟いた。

「ここは、どこだ……」

 その言葉がこの少年――天枷星から紡がれるのには、意識が回復してから十分も時間を要した。それ程までにあり得ない出来事が彼に起こっているのだから。

 と、星は、ズボンのポケットに携帯電話が入っていることを思い出し、取り出して開いてみた。

 時刻は午後七時。では電波は、と確認した星だったが、圏外だった。

「落ち着け、俺」

 星はまず自身の置かれている状況を確認する。

「確か公園から家に帰って部屋の扉を開けたら、 突然目の前が真っ白になって……」

 その先の事は思い出せないのだろう、星は頭をもたげうなだれている。

 もっとも、意識がない状態で思い出せる方がおかしいが。

 暫くその場に突っ立ってこの状況について考えていたが、ここが密林だという事以外は何も分かるはずがない。かといって、ただ突っ立っているだけでも何も起こらない。

 考えた結果、星は一縷の希望を頼りに密林をどことも知れぬ方向に向かって歩いて行った。


     ◇


 暫く歩くと、洞穴のようなスペースの空いた一本の大木を見つけたので、星はそこで休むことにした。

 地面に腰を降ろし、どのくらい歩いただろうか、と考えながら、携帯電話を開く。

 表示される時刻は、午後十時。

 ざっと二時間三十分は歩いたということだ。

 長い時間歩いた疲労と未知の場所にいる不安から、そして周りの暗さも相まって、星の身体に眠気が襲い掛かってきた。

 星は横になると、あっという間に眠りについた。


     ◇


 明け方と共に目が覚める。 

 朝特有の冷たい風が一枚しか着ていないティーシャツ越しに伝わってくるが、仄かに残る眠気を払拭するにはちょうどよかった。

 目覚めた頭で、何をすべきかを考える。

 この場に留まり助けを待つか、果てしない密林をさ迷い歩き、出口を見つけるか。

 助けが来るなんて保証はもちろんない。大体ここがどこなのかすら分からない。

 それなら、一縷の希望に賭けて出口を目指すのが良いのではないか。

 暫し悩んだが、星は後者を選択した。

 そのまま立ち上がり、大木を後にしようとしたが、突然腹の辺りから、ぐぅ、という音がした。

「そういえば、昨日から何も食べてないな」

 言いながら辺りを見回すと、近くの木に赤い実が生っているのを発見した。

 昨日は疲れと暗さで分からなかったのだろう。

 小さくて丸い木の実を一つ摘まむ。

 食べても大丈夫なのか星には知る由も無いが、そんな事に拘っている余裕は無い。

 覚悟を決めると、口の中に放り込む。

 仄かな甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がり、弾けた。

「うまいっ。ラズベリーみたいな味だ」

 それは、空腹を満たすには十分だった。

 二十粒木の実を食べ、十粒をズボンのポケットに入れ、星は意気揚々と歩き出した。


     ◇


 さっき見たのはいつだっけ、と考えつつ携帯電話を取り出す。

 午後ニ時三十分。

「そう言えば、あのゲームのデータが消えたのは昨日のこれくらいの時間だったか」

 あれ程執着していたゲームも、今となっては懐かしい。

 星にはもう、朝大木を出発した時の元気は微塵もなかった。

 どんなに歩いても出口は見つからない。

 後悔が襲ってきた。

 やはり、あの大木でじっとしていた方がよかったのではないか。助けを待った方がよかったのではないか。

 と、進めど木ばかりだった景色に何か他のものが写ったような気がした。

 星は、幻覚でも見たのかと思った。

 何故なら、微かに遠くに見えるのは青。

 密林に青なんて、ともっともな事を考えながら重い足を動かす。

 見間違いでも幻覚でもない、とすぐに分かった。

 さっきの青は、やはり本物。そして、その正体は海。

 五分も歩くと、海岸にたどり着いた。左右を見やると、先が見えない程砂浜が続いていた。

「やっと、今までとは違った場所に出た」

 その言葉には疲労の色が混じっていたが、それ以上に歓喜の響きがあった。出口を見つけていない事に変わりはないが、ずっと続く同じような景色が途切れたことは、精神的にも安堵したのであろう。

 星は海岸を左右どちらに進むか迷ったが、右へと進んだ。

 暫く歩くと、前方に何か二つの影が立っているのが遠目に確認できた。

「あれは……人か?」

 まだ距離がだいぶ離れているので、何が立っているのかは正確には分からない。

 少しずつ近づいてゆくと、向こうから反応を示した。

 二つの影は人間ではあり得ない速さで走ってきたのだ。

 それは例えるなら、いや、まさしく恐竜そのものであった。

 星自身、図鑑の絵や博物館の模型でしか見たことはないが、間違えるはずはない。

 体長三メートル程で、細くも鋭い爪をもった腕。腕より明らかに太く長い強靭な脚。そして、鋭利な牙を生やす口。

 それらは、デイノニクスやヴェロキラプトルといった、小型肉食恐竜を彷彿とさせた。

 一瞬唖然とするが、直ぐに危険を察知し、恐竜とは反対側へと走る。

 しかし、疲労が溜まっている星では――万全の状態でもだろうが――あんな怪物から逃れる術は無い。案の定、十秒もせずに追いつかれた。

 思わず恐竜の方を振り向く。

 恐怖に彩られた顔は、次第に諦めたような顔へと変わっていった。

 星は初めて死というものを感じ、己の無力さ、不幸を呪った。

 そんなことなどお構い無しに、恐竜の鋭い爪が真っ直ぐ降り下ろされた。

 その爪は、星の身体を紙くずのように引き裂――かなかった。

 否、引き裂けなかった。

 何故なら、星を引き裂こうとしていた恐竜が、逆に真っ二つに斬られたからだ。

 胴体と下半身とを分断された恐竜は、ドサッ、という音と共に地面に落下、することはなく、黒い塵となって消えさった。

 残ったもう一体の恐竜と星はただ呆然としながら、ある一点を見ていた。

 その視線の先にいたのは、剣を片手に悠然と立つ一人の少女。

 少女は、その直後に地を蹴り、目にも留まらぬ速さで恐竜との間合いを詰める。そして剣を両手に持ち直し、右上段から左下段へと一気に降り下ろした。

 その結果、残った恐竜は何も出来ないまま、先程の恐竜のように消えさった。

 今起こった出来事を、星は信じられないといった目で見ていた。

 一体目の恐竜が死んだ(消えた)時はただ呆然としているだけで何も考えられなかったが、少女を認識し、その少女が二体目の恐竜に向かっていった時は、その無謀さに目を見張った。自分と同じ人間の少女に、あんな怪物が倒せる訳がない、と。

 だが実際、少女は難なく恐竜を切り伏せた。それも一瞬の間に。

 星は、さっきの自分の心配が杞憂だった事を知っても信じられなかった。

 そんな星の方に、少女は逆に心配そうな顔をして走ってきた。

「大丈夫っ!?」

 これが、二人の運命的な出会いだった。

前よりは長めに書けましたが、どうでしたでしょうか。10ページとか普通に書ける人が羨ましいです。

次回は、1週間以内には更新出来れば幸いです。 それでは

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