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28、疾風連舞

 見受けられるモンスターは、狼に酷似したすばしっこそうな獣型モンスターだ。

 カノン、ディオネがいれば楽に倒せる相手だが、ただ一つ問題がある。

 煙や瓦礫などで視界が悪い中、いかにして村人を守りながら、何体いるのかも未知数なモンスターを倒していくか、ということである。

 村人は各所に散っているし、視界も悪い。この状況で様々な方向からモンスターが攻めてくれば、村人達が混乱するのは必至だし、下手をすれば死者だって出るだろう。

 狼型モンスターは、現在は村跡の周りを周回している。村人達はまだモンスターには気づいていないようだ。

 予めモンスターが攻めてくることが分かっていれば、罠を張って待ち構え、一気に殲滅することもできたかもしれないが、状況が状況なのでそれも危うい。

「私達が最優先に為すべきは、村人達の命を守ることだ。なので、先ずは村人達を一ヶ所に集めた方がいいな。その方が、注意をそこだけに集中していればいいから守るには有利だ」

 確かに村人達を一点に集めれば、カノン、ディオネ、そして星のことだ、モンスターを速攻で掃討するのも容易いだろう。

 そのためには、モンスターが攻め来る前に迅速に村人達を集める必要がある。

 だが、表面上の傷は回復したとはいえ、家族や村を失った悲しみが癒えた訳ではない。そんな折にモンスターが出たと聞けば、混乱して逃げ回るよりかは、むしろ自ら同胞の後を追う者の方が多いこともあり得る。

「さて、どうするか……」

 ディオネが考えるように言った。

 星は鬱気味の心を押さえつけ、村人達を素早く一ヶ所に集める方法を模索する。村人達の収集が完了すれば、それはモンスターを掃討ないし撃退することに直結するのだが……。

(どうする。どうすれば……)

 相手は創造されたモンスター。実際にいる生物ではない。よって、普通の生き物──狼型の獣──への対処法が通じるとは限らない。

 大きな音や火に反応して逃げる、とはいかず、逆に猛り襲い掛かってくるかもしれない。

 では、狼型の獣という小カテゴリではなく、創造されたモンスター全体に共通する事柄を考えてみれば……。

 星が相対したモンスターは、恐竜型、ゴーレム、鳥型、ドラゴン、タナトス・レプリカだ。

 その内、鳥型、ドラゴン、タナトス・レプリカ、ゴーレムは、タナトスが使役していた可能性が高い。

 故に、Mobキャラのようにある程度固定された反応を示すであろうモンスターは、恐竜型だけだ。

(だが、確実に決まった行動しかしないとは限らない……)

 不確定要素が多いことは、物事を決めていく過程において大きな迷いを生じさせる。

 何種類もの野生化したモンスターを調べ、行動の規則性を発見していれば、かなり楽に、村人達を守りつつモンスターも倒せただろう。

「……待てよ?」

「どうしたの? 星君」

「んっと……俺が初めてデルー密林で発見した恐竜型モンスター。あいつらは、俺が近づくまでただ突っ立ったままで、近づくと突然こっちに振り向いて襲い掛かってきた。当たり前と言えば当たり前だけど、それまでは微塵も動かず、本当にいきなり襲い掛かってきたんだ」

 一度、大きく息を吸って吐く。

「そして、村の外周を徘徊しているモンスター。奴らはなぜかまだ襲い掛かってはこない。それはたぶん、創造の粉によって造られたモンスターは視力が悪いことを意味する、と思うんだ」

 性の悪い人間なら星のことを、何言ってんだこいつ、とか思うかもしれないが、もちろんカノンとディオネはそんな人間ではないので、真剣に彼の話を聞いている。

「これらの事柄から、モンスターが襲い掛かるのはきっと、『視界にはっきりと映る、生命活動をしている人間』なんじゃないかと思う。もちろん俺のただの憶測でしかないけど」

 それはあくまでタナトスに使役されていないモンスターのことで、もし狼型モンスターをタナトスがどこかから使役しているのなら、この考えには当てはまらない。

 自信無さげな星にディオネは言う。

「……そうだな。今は君の考えに賭けてみよう」

 その言葉に思わずホッとする星。だが直ぐに顔を引き締める。今現在は、言わば非常事態なのだから。

 ディオネは星、カノンをそれぞれ一瞥すると、村人を守るための作戦を話し始める。

「視界に映らなければ奴らは襲ってこないのなら、少なくとも村人はまだ誰も見つかってはいない筈だ。しかし、村人の方から奴らに近づき、襲われるということもあり得る。早急に事を進める必要があるな。よって、村人の確実な安全確保のためにも、カノン、天枷の二人は村人達を村の中央に集めてくれ。その際モンスターに発見されたら、カノン、お前が皆を守ってくれ。いいか?」

「ええ、必ず誰も死なせたりしないわ」

 はっきりと言うカノン。

「うん。私は外周を闊歩しているモンスターを倒す。それではまた後で会おう」

 そしてディオネは村跡の外周に向かって走っていった。

「私達も行きましょうか」

「ああ……そう、だな」

 星は、無力な自分に腹が立っていた。そして同時に、強大な力を欲する気持ちも膨らんでいった。

(いや、今は俺ができることをしよう。強くなるのはその後だ)

 二人は、村人を一ヶ所に集めるため、ディオネとは反対の方向へと走っていった。


                               ◇


 ディオネは、結った漆黒の長髪を靡かせながら、飛ぶがごとく村跡の外周へと到達した。

 モンスターの数は、確認できるだけでも二十体はいる。

 この、今は廃墟となってしまった村は、円形に近い形をしている。直径は大体二キロメートル程で、その外周六キロメートル程に渡ってモンスターが闊歩している。その総数は、百五十体程だ。

 なぜモンスターは一気に村跡へ突入しないのかディオネには分からなかった。奴らを造り出したタナトスの意思がそうしたのかもしれないが、村人達の命が一応は安全なのは好都合だ。

 どちらにしろ、

「直ぐに終わらせよう」

 やることは変わらないのだが。

 腰の辺りに提げた鞘から、愛剣─―刀ではない──三日月をゆっくりと抜く。立ち上る煙が空を覆い、曇りの日みたく若干暗いこの地に、三日月特有の美しく反った刃が暁光のように煌めく。

 次にディオネは、囁くように言葉を発する。

「リルクェンス」

 魔法発動のキー、呪文。その一言を紡いだだけで、彼女の身体の周りを覆う空気がざわつく。

 ディオネは、五体程モンスターが固まっている場所へと軽く三日月を振るう。するとそこから空気の刃がモンスターへと飛来し、刹那の間に消滅、モンスターは為す術もなく創造の粉に帰した。

 ディオネが駆使する魔法は、風の魔法だ。

 風を上手く扱えば、今のように空気の刃、真空刃を放つこともできるし、追い風によって瞬間移動のような速さを得ることも可能だ。

 一個人につき一種類しか魔法を扱うことができないので、魔法を使う者達は皆、ある特定の魔法のプロフェッショナルである。なので、魔法の応用性というのは、使い方次第では無限大にもなる。

「さて……いくぞっ!」

 ディオネは気合を入れるように叫ぶ。

 モンスターは多勢にも関わらず、怯えたように後ずさる。が、ある一体が雄叫びを上げると、他のモンスターも共鳴するように雄叫びを上げる。そして一気にディオネのもとへと突っ込んだ。

 ヒュウウウウウ、とディオネの周りの空気が激しく振動する。彼女は三日月を後ろ手に構え姿勢を低くすると、その場で大きく反時計回りに一回転した。

 すると、そこを中心に小規模な竜巻が発生した。

 モンスターが十体、荒れ狂う竜巻に突っ込み、一瞬にして消滅した。残ったモンスターは、一様に急停止する。ディオネはその間に、風を足元に圧縮させ、滞空した。そして空をもの凄い勢いで飛び、次々とモンスターを斬っていった。

 彼女は、魔法はもちろん、剣の扱いも伝説級だ。この世界ウェリアルの中では、最強の魔法剣士なのである。そのディオネに魔法、剣術を教わったカノンも、もちろん最強クラスの魔法剣士だ。

 彼女は、外周を取り囲むモンスターを倒すため三日月を手に飛んで行った。漆黒の瞳に強い意志を込めて。

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