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25、星とディオネ

 傷が全快して以前よりも健康になったぐらいの星とカノンだが、ディオネの勧めもあり、今日は休むことにした。

 カノンは、モンスターや、最悪タナトスが襲って来るかもしれないと懸念したが、ディオネが言うには、ここ周辺に何か仕掛けを施したらしいので、安心して寝てもいいらしい。

 大賢者、いやそれ以前にカノンの師匠であるディオネが安心だと言ったので、二人は彼女の言葉通り、眠ることにした。

 少しの間とはいえ意識を失っていた2人だが、なんだかんだで凄く疲れていたようで、瞼を閉じるなり直ぐに眠りに就いた。

「お休み」

 聖母のような穏やかな表情で、眠る弟子カノン、そして救世主星を見るディオネ。

 三十分後。

「さて。私は明日の朝ごはんでも作るかな……」

 そう呟いて、カノンの荷物から何やら食材を色々と取り出した。



                                ◇



 そして翌朝。

 先に星が目を覚ました。

 陽はまだほとんど昇っていない。

「あ、そうだ!」

 星は突然東の空を見上げる。視界の下の方に僅かに太陽が窺える。が、彼が見ようとしているのは太陽ではない。

 明けの明星──金星だ。

 ここウェリアルが地球だとすれば、東の空に明けの明星が見える筈だ。天気が悪かったりすでに明るければ見えないかもしれないが、まだ辺りは十分暗いし、天気も相変わらず良好だ。

 星はじっと目を凝らす。

 五分経過。

「……見えない」

 決して星は視力が弱い訳ではない。

 十分経過。

「…………見えない」

 更にじっと東の空を見る。

 二十分経過。

「………………見えない」

 そして、太陽が少し昇ってきた。それで空は格段に明るくなる。

 結局、金星は見えなかった。

 こんな時間に空を眺めたことなど滅多になかった星なので、見逃していたりするかもしれないが、彼とてここが地球だとは最初から期待していなかった。

 仮にここが地球だとして、あんなモンスターが発見されれば大ニュースになることは確実だし、それ以前に、アグライアがカノンの言うように世界中の人に予言を、それも頭の中に聞かせたのなら、覚えている人は大勢いる筈だ。星もそんな話、普通の学生、というよりウェリアルに来る前は聞いたこともない。

 ここが本当に地球と無関係の、文字通り異世界なら、星が認識する太陽という物体が全く別の何かである可能性も大いにあり得る。

 と考えている星。すると、どこかから歩いてきたディオネが彼に少し驚いたように声を掛けた。

「やあ。もう起きたのか。早いな」

 星は考え事をしている最中だったのでかなり驚いたが、ディオネだと分かると安心したように返事をする。

「おはようございます」

「うん、おはよう」

 しばしの時が流れた後。

「ちょうどカノンも眠っていることだし、私と話をしないか?」

 と、ディオネが星に言う。ちょうどカノンも眠っていることだし、というのは、カノンの話をするということだろう。星も、

「あ、はい。俺もあなたに聞いておきたいことがあります」

「ふふっ。まあ、君にはこの世界については分からないことだらけの筈だからな。……じゃあ、まずは私からいいか?」

「ええ、どうぞ」

 そしてディオネは話し始めた。カノンとの日々を。

「あの娘は、私と一緒に行動することになった初めの頃は本当に無気力で、何をする気にもなれなかったんだ。まあ、七歳の少女にはあの現実は重すぎた、ということだ。私も特に何も言わなかった。無為に口出しするよりは、カノンが自分自身で立ち直る方が、あの娘のためにもなるしな」

 星はただ黙って聞く。

「それにまだ、カノンの本当の力を知らなかったんだ。溢れんばかりの魔力は感じられたがな。で、そのままほとんど言葉を交わすこともなく一ヶ月が過ぎた。そして事態は一変した――」

 近くで眠るカノンの顔を眺めて、感慨深そうに目を細めつつ、話を続けるディオネ。

「その日、私は用事があって、家から少し遠くの町に出かけていたんだ。カノンを一人残して。用事が済んで夜に家に帰ったら、珍しくカノンが私に抱きついてきたから、遂に心を開いてくれたのかと思ったんだが……、どうやら違っていたようだ」

 そこで一度、大きく息を吐く。

「カノンの服は汚れだらけで、自身も相当疲れていた。カノンが言うには、近くの川に行ったら何か巨大な生物──モンスターだな──に襲われたらしい」

「そんなっ、あの出来事から一ヶ月しか経っていないのにそんなことが……」

 驚きが星の口から漏れる。僅か七歳の少女を立て続けに襲った理不尽な悪夢に、彼は思わず歯噛みする。と同時にある疑問が生じる。 まだ魔法も使えず、戦闘能力もほぼ皆無。そんな在りし日のカノンが、一体どうやって強力なモンスターを退けた、或いは倒した(消した)というのか。

 彼は次のディオネの言葉に聞き入る。

「震えてその場から動けなくなったカノンは、怯えながら、モンスターが迫ってくるのを見ていたらしい。そしてモンスターの牙がまさに届くという刹那、叫びながらつき出されたカノンの掌から、よく分からない光が出て、モンスターを一瞬にして創造の粉へと戻してしまったらしい」

「それって……」

「ああ、魔法だ。モンスターの恐怖から何も考えられず、無意識に出したようだが、魔法はそう簡単に発動できるような代物ではないのだ。故に、魔法を行使できる私、クレイオー、アグライアは、大賢者と呼ばれているのだから。まあ、とにかくその日は怯えるカノンをなんとか寝かしつけて、とりあえず問題の川に行ってみたんだが……まあ、なんだ、やっぱり凄かったよ、あの娘は。その川の付近一帯が吹き飛んでいた」

 またしても驚愕する、元普通の高校生の星。この世界では驚愕するようなことが多すぎて、一々驚愕するのも野暮に思えてくるぐらいだが、本心から驚いているのでは仕方がない。

「そして次の日、私はカノンに、魔法の使い方、剣術などを学ぶことを提案した。カノンは即座に首を縦に振った。で、その日から共に鍛錬を初め、その後色々なことがあって今日に至る訳だ」

「あれ、最後がやけに抽象的すぎじゃないですか?」

「ああ、その間の出来事については、私より、カノンから直接聞いた方がいい」

 確かに星にとってはその方がいいかもしれない。カノンは、信頼できる『仲間』だ。だから、そういうことは自分から話してくれるのを待った方がいい。

 星としては、カノンと『仲間』以上の存在になれたらいいなあ、などと思っていないこともないが。

 実際彼女は、これ以上ないくらいに理想的な女の子だ。

 すらりとした体躯、整った顔立ち、流れるような長い金髪、それらをあわせ持つ美少女で。

 優しくて、他人のことを第一に気遣って、悪には厳しくて。

 いつもは驚異的な身体能力、神業とも言える剣術、強大な雷の魔法を駆使して戦う強い女の子だが、たまに見せる弱さが可愛くて。

 全てが完璧そうなのに、料理は下手だったり。

 星がもといた世界、日本には、まずこんな女の子はいなかった。彼曰くカノンは、恋愛アドベンチャーゲームのヒロインの権化だ。

 と、

「今更だが、君の名前は天枷星、だな?」

 ディオネが呼び掛けた。

「あ、はい、そうです」

「じゃあ、天枷でいいかな?」

「ええ、それで結構です」

(って、俺、名乗ったっけ?)

 軽く頭に疑問がよぎるが、まあいいや、と流す。

 彼は知らない。ディオネが、ここに急いで来る途中、魔法によって会話を聞いていたことを。

「では天枷、次は君の番だ。私が答えられることならなんでも聞いてくれ」

 ディオネの言葉に星は、それなら、と、自分が救世主だと知った時から変わらず抱く疑問を尋ねる。

「じゃあ……、俺がウェリアルの救世主たる要素っていうのは何なんですか?」

「……わからない」

「ええっ!?」

 申し訳なさそうに言うディオネに、聞く気満々だった星は気を削がれる。

「救世主についての詳しいことについては、おそらく予言をした当人のアグライアしか知らない。私もアグライアとは当分会っていないんだ。……期待させておいてすまない」

「いえ、そういうことなら」

 全くガッカリしていないと言えば嘘になるが、聞く側としては答えを相手に委ねる訳だし、文句は言っていられない。それに星自身反射的に驚嘆の声をあげたが、カノン以外に、なんというか、人間的な人間――意味不明だが、彼はそう思っている――とこの非現実な世界で出会えたことも、精神的にかなりプラスだ。

「コホン。じゃあ、改めて。私が答えられることならなんでも聞いてくれ」

 聞きたいことは山程ある。だが、山程あるからこそ何を聞けばいいのかが分からない。ちょっとしたことまで含めて、全てを聞いてもらうのも彼女にとって酷だろうし。

 しかし、この世界を救うための貴重な時間を無為に減らすのもあれなので、とりあえずさっきから結構気になっていることを質問する。

「その腰から下がってる刀って、もしかして『三日月宗近』じゃないですか?」

「? 確かにこの剣は『三日月』という名前だが、なんで君が知っているんだ? それに刀とはなんだ?」

「ええっ!? 『三日月宗近』と言えば、『童子切』、『大典太』、『数珠丸』、『鬼丸』と並ぶ天下五剣で、その中でも最も美しいと言われる名刀じゃないですか。平安時代の刀工である三条宗近作の刀で、反りが大きく、切っ先にいく程刀身はどんどん細くなっていく独特の美しさを持った名刀中の名刀ですよ!」

 星は人が変わったように熱く語る。実は、彼は半年程前に刀がいっぱい出てくるゲームをプレイしていて、それ以来刀について、時々、色々と調べていたのだ。 その結果、刀に関してはそれなりに詳しくなったのである。

 これで貴重な時間を無為に使ってしまったことを、後々彼自身否定するか肯定するかは、彼の刀への情熱、心意気が決定するだろう。

 ディオネは、

「とりあえず落ち着こう」

 と、語る星をストップさせる。

「しかし史上最高の業物と言われるあの刀には──はっ!? すいません、俺としたことが」

「いや……気にするな。まあ、それはともかく、君の話を要約すると、この剣――君は刀とか言ったな――のことを知りたい、ということでいいのかな?」

「はい」

 短く答える星。刀、剣、そういう類の、所謂武器には、一男子としてもゲーマーとしても興味をそそられずにはいられないのだ。よく言えば好奇心旺盛、悪く言えば中二病といった所だろうか。

「この剣は先程も言った通り『三日月』という名で、私が、そうだな……確か、三百年くらい前に作った剣だ」

「ええっ!? 作った!?」

 もっと驚く所があるだろう、とどこからかツッコミがきそうな程『三百年くらい前』という語をスルーする星。ただ、彼にとってはそれより『作った』という語の方が驚きに値するということなのだ。

「だから、君の言う刀とか三条宗近といったものは私には全くもって分からないんだ」

 言われてみれば当然のことである。星が言う『三日月宗近』とは、地球の中の日本での話で、この世界とは関係ないのだ。それに彼はさっきここが地球とは別の次元だということを、自分自身で簡易ながら調べたばかりだ。

 星はそのことを理解し、

「それもそうですよね」

 と返す。

 そして再び訪れる沈黙。

 それを破ったのは、

「ん、ん~~~~~っ」

 と伸びをしながら起き上がるカノンだった。

皆さん、こんばっぱ~。この挨拶のネタ知ってる人いるのかな? と、少し不安です。

今回は、一応題名通り星とディオネの話でしたが、途中ディオネが一方的に話したり、星の質問がディオネの意とはかけ離れたものだったりと、まともに会話をしてる部分は少ないんですよね。まあ、前者は仕方ないのですが、後者は……。

という感じで、かなり中途半端な所で終わってますが、カノンが加わると、『星とディオネ』ではなくなるので、無理矢理終わらせました。

次回も……1週間くらいで更新できればいいのですが。

それではまた。

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