23、死闘
暗い森の一角。カノン、星、そしてタナトスの三人がいるそこは、もう木々の一本すらない。
そんな開けた、戦いにはうってつけの場所で、カノン、タナトスの両者は自身の武器を持つ。
即ち、カノンは高速で駆けつつ、剣を抜く。
対してタナトスは、どこからか取り出した創造の粉で、ニメートル程の長さの槍を造る。
そして同時にそれぞれの攻撃が繰り出される。
カノンは雷を纏った剣で袈裟斬りを仕掛け、タナトスは槍を横に凪ぎ払うように振るう。
結果、二つの武器は派手に火花をあげて拮抗した。
「ほぉ、九年間で俺とまともに戦える程の力を得たか。大賢者め、やってくれる」
そう歯噛みしながらも、どこか余裕そうに言うタナトス。
カノンはそんなタナトスに憤りを感じた。
「なぜっ! あなたは村の人達を殺したのっ!」
「俺の目的の邪魔になる、多大な魔力を秘めた者、つまりお前を殺しておくためだ。まあ、創造の粉の効力を試すためでもあったがな」
つまり村人達はおまけで、本当の狙いは、まだ幼く魔法も知らない、膨大な魔力を秘めたカノンだったという訳だ。それで村人の――おそらく全てが死に絶え、カノンだけが生き残ったのは何たる皮肉か。
「それなら私一人を殺せばっ! 村人が殺される理由なんてないわ!」
「だから言っただろ、創造の粉の効力を試すためだと。それに、あんなちっぽけな命、幾つ失くなろうと変わらん」
人を殺すことを何とも思っていないような、むしろ狂おしげに言うタナトス。
「そろそろ――終わりだっ!」
そして急に槍ごと自分の身体をニ歩分後ろにずらす。それによってカノンはバランスを失い、前のめりになる。
タナトスはその隙を見逃さない。槍を両手で持ち、大振りで後ろに構える。そして、やはり大きな動作で、槍の真骨頂、刺突を繰り出す。
百分の一秒の速さで迫る槍の先端。その速度に反応したカノンは、咄嗟に身を捻ってそれを避ける。長く美しい金髪が数本切れ、夜空に舞う。
「何っ!?」
まさか躱されるとは思ってもいなかったのか、驚愕の声をあげる狂人タナトス。だが直ぐに、カノンが槍の間合いに入り込んだことに気づく。だがもう遅い。
「はあああああぁぁぁぁぁっ!」
気合と共に剣を逆袈裟で振るうカノン。
「グワアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
と絶叫するタナトス。右腹部から左肩にかけて深く切り裂け、致命傷は免れないだろう。
しかし何かがおかしい。これは……、
「血が、出てこない……」
これだけ深く切り裂けば、臓物や血管が裂け、大量の鮮血が迸る筈だが、一滴も血は出てこない。
カノンはひとまずバック転でタナトスから距離を取ると、そう言えば、という風にタナトスを見る。
傷がちょうど塞がる所だった。創造の粉によって。
そう。そもそも顔が吹っ飛んでも死なない奴が、身体を切り裂かれたぐらいで死ぬ筈がないのだ。
「やはり、お前はあの時殺しておけばよかった」
今まで終始余裕の表情だったタナトスが、怒りを交えた顔で言う。相変わらず、狂おしく。
そしてどこからか創造の粉を取り出し、複数の恐竜モンスターを造り出す。その数は三十。カノンを囲むように立ち、威嚇の唸り声をあげる。
次の瞬間には、全てのモンスターが疾駆し、カノンへと一斉に襲い掛かる。
カノンは特に動じず、右手を空にかざす。すると、中空に直径一メートル程の雷球が出現する。するとそれはモンスターと同じ、三十の雷の矢となり、迫りくるモンスター全てを平等に貫く。
創造の粉が吹き荒れる。その間に、再び大量のモンスターが造り出される。恐竜モンスターよりだいぶ小さいが機動力に優れる鳥モンスターが数百羽。それが雨のようにカノンに降り注ぐ。
これにカノンは、魚を鹵獲する網のような、ビリビリと電流を放ったそれを出現させる。突っ込んで来た鳥モンスターはことごとく感電して消滅する。
ちっ、とタナトスの舌打ちが聞こえる。
カノンは言う。
「あなたの狙いは、私に魔力を消費させ弱体化させること」
つまり、と続ける。
「大量のモンスターを造り出しつつ自分は逃げ回り、私の魔力が無くなった頃を見計らって一気にあなた自身で攻勢をかける、ということね」
消え去った粉の中から現れたタナトス。
「まあ、ザコ共でももう少しは役に立つと思ったが……まあいい」
そう言いながら再び創造の粉を取り出す。
「だが、これはどうかな?」
そして現れたのは──タナトス。左右に一体ずつ、計ニ体。それも使用した粉の量は、タナトスのレプリカ一体で、恐竜モンスター及び鳥モンスター全てを造った量よりも遥かに多い。
造り出したモノの性能は、粉の量に比例する。
例えば一つまみの粉で一体の恐竜モンスターを造り出せるとして、小瓶半分程の量の粉を使えば、巨大なドラゴンさえも造り出せる。まあ、それだけの量で一つの生命体を造り出せること、ひいてはそんな粉の存在自体が革命的なことなのだが。ちなみに、タナトス・レプリカ一体につき、使用している創造の粉の量は、小瓶十本分程だ。
「一体で俺の実力の半分にも満たないが……お前には十分だろう」
「…………」
「では――いくぞっ」
言い終えると同時、レプリカが左右から一体ずつ、本物が真っ直ぐ、カノンに向かって槍を突き出す。
カノンは真上へ跳んでそれを難なく回避する。それをレプリカニ体が追撃する。
空中で左右から迫る槍の鋭い切っ先に、カノンは、右側からの突きを剣で捌き、左側からの突きは柄を掴んで止める。
と、
「それは布石だ」
本物のタナトスがカノンの背後に現れる。そして高速の突きをカノンの心臓部へと放つ。
カノンは咄嗟に左のレプリカを槍ごと背後に移動させる。そのままレプリカ一体は槍に穿たれて創造の粉に帰す。タナトスは、風に飛ばされつつも残った粉少量からそのまま鳥モンスター五十体を造り出す。
「っ!」
創造の粉が使い捨てではなかったことに不意を突かれるカノン。だが彼女も死線は幾つも潜り抜けてきたので、直ぐに冷静になる。自身の足元に雷を発生させると、その爆発力を使って、空中を蹴るようにして移動、地に降り立つ。
方向転換した鳥モンスターは一斉にカノンに襲い掛かるが、彼女の敵ではない。雷撃で五十体全てが一瞬にして消え去る。
タナトスと彼のレプリカも着地する。
そして、タナトスは、近くに立つレプリカの頭を貫いた。
「何を……!?」
と驚くカノン。タナトスは自ら消したレプリカから出た創造の粉を全て使い、木こり男ウッダーがしていたように、背に蝙蝠のような翼を造った。
飛びながらカノンに突撃を敢行するタナトス。
速い。明らかに戦闘開始時より速い。同じ羽でも、粉の量でここまで変わるのか、というぐらいに。
まさに瞬く間にカノンの許に辿り着き、槍を振るう。それはカノンにすら微かにしか見えないくらいの速さだった。
槍の刃先を点で捉え、反射的に首を右に思いきり振る。左頬を掠める槍。
血が滴るより先。
槍が再び振るわれた、とカノンが気づいた時にはもう遅かった。
彼女の腹部に深々と槍が突き刺さった。
皆さん、こんばっぱ~。
個人的に戦闘シーンは好きなのですが、やはり難しいですね。
ヒロイン、というか女の子を傷つけるのはちょっと、いやかなり気が引けますが、この際仕方ないですね。話の流れ的に。タナトスが速攻で倒されるのも何ですし。
まあ、次回も話の内容はあまり決まってませんが、ゆっくりと推敲していきます。それでは。